② 探偵団と恐怖の学園の七不思議

第1話 転校生 <Side 善太>

新学期。

学園前の並木道は葉桜と、生徒たちのはしゃぎ声で溢れている。

新しいクラスの話題、転校生の話題、それから同じクラスになれるか、そんな内容で周りの生徒は会話をしている。


僕—―角野善太は1人で登校をしている。

気持ちがそわそわしてしまい、いつもより早く家を出てしまった。

何なら昨日の夜はあまり眠れず、若干眠い。

それは僕だけでなく周りも同じらしく、いつも遅刻ギリギリの人が僕の前を歩いていたり、表情が緊張で張り詰めている生徒もいれば、目にクマができている生徒もちらほら。



僕が通う学校は私立城川学園。

幼稚園から大学までエスカレーター式の学校で、市内では知らない人は少なく、隣町から通っている人も多い。

入試はないけれど、その分定期テストは多いし、進級するには一定の成績を取らないと留年が確定する。

もちろん途中から入学する生徒はそれなりに多い。

特にこの時期—―新学期は年間で一番転校生の数が多い。


……転校生、か。

いつもならそこまで興味はないけれど、今回は少しだけ気分が違う。

なぜなら転校生2人は既に僕が知っている人だと確定してるからだ。

いわゆる幼馴染みという関係で、1人は京都から、もう1人はイギリスからここに

2人がどのクラスに入るかによって僕のこれから1年の学校ライフは大きく変わってくる。


「よっ、善太」


「わっ、ああ、しゅんか」


しゅんことたけむらしゅんすけはサッカー仲間で、よく一緒に自主練をする。

犬みたいに人懐っこい性格で、実際子犬みたいな顔をしている。


「何を考えてた?」


「いや別に」


「んえー。てっきり転校生のこと考えてる思ってたのに」


何でわかった。


「……別に興味ない」


「まあそうよな。善太のことだし、興味ないことはとことん興味ないもんなー」


「そういうこと」


「あ、でもあの『お屋敷のお嬢様』が来るんよね?これは大騒ぎになるぞ……」


「既に知れ渡ってることだと思うよ」


「まあな。アイスの事件と桜の事件解決した名探偵だし。学校の掲示板もそれで盛り上がってたし」


その事件解決に僕やが関わっていたことは知られていないのか。

それはそれで変に目立っていないから良しとしよう。


「あー。そうだったね」


「あの人だったら七不思議のことも解決してくれそう」


「……七不思議?」


「ん?学校の七不思議。善太知らんの?」


「まあ、うん」


「俺のじいちゃんの世代から有名らしいんだけど、理科室の人体模型が夜に動いたり、音楽室でピアノが勝手に弾いてたり、ベートーヴェンが笑ってたり?そんくらいしか知らないけど、学校の怪奇現象みたいなのが全部で7つあるから学校の七不思議って言われてるんだけど」


「いや、それは知ってるけど、今時まだそんなことあるんだなって」


「あー。ここ最近噂されるようになったみたいでさ」


「へー。うさんくさいね」


「それはそう」


なんて会話をしていたら学校についていた。


七不思議か……よくオカルト系の掲示板で話題になったり、オカルト部が何かと宣伝をしていたり、しょうもないと思っていたが……何だろう、嫌な予感がする。

最近噂になったというのが気になる。

何も起きなければ良いけど……



始業式を終え、クラス発表だ。

廊下に一覧が張り出され、毎年盛り上がる。


「善太!早く行くぞ!」


「はいはい」


しゅんたちが呼んでいる。

基本サッカーのメンツで行動することがほとんどだ。


いつもは広い廊下なのに、人が多いせいで狭く見える。

全部で5クラス。

担任は先ほどの始業式で発表された。

自分的には当たりはずれはなく、どの先生でも良いという感じだが、それより気がかりなことがある。


「あー俺3組だ。担任あの怖い人だ……」


「俺も3組!」


「えーと、2組だ」


「善太は?俺1組!!」


しゅんは1組、か。

自分の名前は1組のところにあった。


「1組」


「やったー!また同じクラスだ!」


そう喜ぶしゅんは子犬そのもの。

尻尾を立てて、振っているのが何となく見える。

それを横目にして、クラス表の自分の名前よりさらに上の部分に視線を走らせる。


すぐに見つけたのは、「小山 美奈」という名前。

何なら僕より出席番号は2つしか変わらない。

げっとなったが放っといて、さらに上を探す。

見覚えのある名前がほとんど。



なぜか心臓がドキドキ跳ねる。

なぜか名前があってほしいと願ってしまう。



心臓が大きく、どきんと跳ねた。



そして。

上から2番目。



「藍原 しおり」の名前を見つけた。



驚きと同時に、小さな嬉しさが込みあがってきた。


「……良かった」


「ん?善太なんか言った?」


「ううん。同じクラスになれて良かったって」


「そうだね!!」


しゅんは人懐っこく僕に笑みを向けた。



「—―転校生を紹介します」


1組の担任は久保田 みのり先生という、新規の先生だ。

担当教科は算数。

色白で誰が見ても美人だと思うであろう、そんな人だ。

紹介にあったが、城川学園の卒業生らしい。


そんな先生の横に立つのは茶髪の長い髪を上の位置に2つくくりにしている背の高い女子と、落ち着いた雰囲気を纏い、艶のある黒髪が特徴の少女。

転校生の2人を見て、新しいクラスメイトは騒がしい。


「じゃあ、自己紹介。お願い」


「はじめまして!京都から来た小山 美奈です!よく周りからミィナって呼ばれてました。これからよろしくお願いします!!」


関西弁特有の話し方で自己紹介をした小山。

大きな拍手が送られ、僕もそっと加える。


そして、もう1人。

さっきまで騒がしかったのに、今は一段と静まり返っている。


「藍原 しおりです。イギリスから帰国しました。よろしくお願いいたします」


表情一つ変えずに淡々と告げた藍原さん。

小山の時よりずっと大きい拍手が送られ、自然と僕もその中に入っていた。



まさかとは思ったが、幼馴染みの2人とも同じクラスになるとは思わなかったぞ……

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【2000PV感謝!】幼馴染み探偵団 陽菜花 @hn0612

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