レンタル彼氏の拓弥 その3


 時刻は午後三時をちょうど過ぎたところ。

 レンタルを開始して約一時間が経過していた。


「……でさ、これなんだけど」

「……うんうん」


 クリームソーダを傍らに、拓弥のスマホを覗き込む二人。

 その距離はとても近く、側から見たら恋人カップルそのものである。


「めっちゃいいだろ??」

「めっちゃいいねこれ!!」

「だろ? 詩、まじで俺と気が合うな。天才」

「……っ! そ、そんなことないよ……」


 拓弥の無意識なデレに照れる詩。 

 頬を真っ赤に染め、それを隠すように暑い暑いと自分の手で顔を仰いだ。

 

「……今日さ、本当にありがとうな」

「え……それはこっちの台詞セリフだよっ!」

「なんでだ?」

「……男の人で、私の話を聞いてこんなに楽しんでくれる人なんて初めてだからだよ!」

「じゃあ、俺が詩の初めての男友達ってことか?」

「……そ、そうだよっ!」

「しゃっ! 一番乗り〜」

 

 詩に手を差し出しイェーイとハイタッチを求める拓弥。

 慣れない仕草で、拓弥に合わせようと手を差し出し、頬を染めながらも頑張る詩。

 二人の空間はとても穏やかで、それを見る人を和ませていた。

 

「詩、暑いのか? 顔真っ赤だぞ?」

「え、全然そんなことないよっ!! そういう拓弥くんも顔真っ赤だけど……大丈夫?」

「あー、俺はめっちゃ暑いんよ」

「……」


 詩は拓弥の上から下までの全身をまじまじと見つめる。

 拓弥のおでこに滲み出ている汗。

 今思い返せば、会った当初から暑そうな長袖をまくっていて、この人暑くないのかなと不思議に思っていた。


「こんなに暑いのに、なんで長袖なんだろうこの人……そう思ってるんだろ?」

「……ぎくりっ」

「顔に書いてんだよ! 分かりやすいな!」

「……出てないもんっ」


 詩はなんでも顔に出やすい性格だ。

 拓弥も蓮美と同様に察しがいいので、初対面でも顔を見れば簡単に分かる。

 

「これはな、社の方針なんだよ」

「へ〜、そんな方針あるんだ……」

「……ぷっ」


 ふむふむと首を縦に振る詩。

 一方で、拓弥は詩に嘘だとバレないように向かいで必死に笑いを堪えている。


「……なんで笑ってんの、?」

「……ぷっ、ぷっはははは! 嘘に決まってるだろ! あー面白おもしれぇ……」

「……嘘だって分かってたし!」

「へ〜、じゃあ嘘つきは詩もってことだな」

「私は嘘ついてない!」

「ふーん……まーいいか。まあ正直なところ、この服装は日焼けしないためだな」

「それは彼氏としての役目を果たすためなの?」

「まーそれもある。肌が黒いのが嫌いって依頼者も結構いるからな。いざとなったときに、白い方が便利なんだよ」

「へ〜……そうなんだ」

 

 今度こそ拓弥が本当のことを言っていると思い込み、ふむふむと激しく縦に首を振る詩。

 

 ——これも嘘である。


「……今日さ、ヒール初めて履いたろ?」

「……え、ど、どうしたのっ?」

「俺と会うために買ってくれたろ、?」

「……えっ」

「あのさ、今だって左足痛いの我慢してるっしょ?」

「……っ」


 見せてみ、と拓弥は言う。

 詩は、机の下で左足のヒールを脱いでみせた。

 

「……あー、こりゃ痛いわ」

「……なんで痛がってるって分かったの」

「なんでって、そりゃ分かるっしょ」

「なんで、?」


 詩は恐る恐ると口にした。


 『拓弥くんと会うために買ったの』、とこのデートに張り切ってきたと思われたら、拓弥くんにキモイと思われてしまうかもしれない。

 そんな不安が頭をよぎったからだ。


 ——だが、その不安は一瞬にして消える。



「なんでって、そりゃ、詩は俺の彼女だからに決まってんだろ?」



 ★


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