恋をしたい女の子 その2
拓也は嘘が上手い。
レンタル彼氏を約半年間という短い期間の間やってきたわけだが、嘘と女心を鷲掴みにするのが本当に上手くなったと自負している。
依頼人が喜ぶなら平気で嘘をつく。
実際のところ、嘘はこの職業には欠かせないわけだが、嘘をつけない人間だってこの世には存在するし、嘘をつくのがよくないことは
でも拓弥がついているのは悪い嘘じゃない。
親が我が子に、『サンタクロースはいるんだよ?』と言う様に、自分のためにもなるし、相手のためにもなる良い嘘を拓弥は平然とついている。
嘘をつく方もつかれる方も、不快になることがない。
実際のところ、『俺は二重人格だから寒がりの俺が俺の中にいるんだぞ』と言ってしまえば良いだけの話だ。
それを伝えたい相手に言うのはとても簡単のことである。
しかし、相手がそれをいきなり告白されたらどう思うだろう。
普通の人なら、この人何言ってんだろう?
きっとやばい人だ。と、そう思うに違いない。
だから、拓弥はこの職業中において——いや、心を許せる相手と話す時以外はいつだって平気で嘘をつく。
拓弥の心が嘘の
★★★★★
「……じりりりっ、じりりりっ」
「……うるさいっ」
携帯のアラーム機能が鳴った。
時刻は午前九時半。
カーテンから差し込む光には熱が帯びていて、窓を開けている部屋の中も、湿度が高くじめじめとした
(……水曜日になっちゃった)
気がつけばあっという間に水曜日。
急いでブックマークしておいたサイトを開いて、乾いた右目を右手で擦りながら、予約が空いてるかを確認する。
(二時から五時まで空いてる……)
昨日は何も考えることができなかった。
講義を受けている間は、『明日どうしよう』とばかりを考えていて、講義のことなんて一切頭に入ってこなかった。
蓮美にはレンタル彼氏のことを隠して相談はしたけど、わけの分からない返信をされてそこからずっと既読無視されている。
ちなみに蓮美には昨日会っていない。
それより、なに落ちるって。まったく意味がわからない。
「……それはいいとして、どうしようかな」
どうしようどうしよう……今の私の頭の中は、迷いでいっぱいだ。
そうこうしているうちに時間がどんどんと過ぎていくのは分かる。
でも、迷うものは迷う。仕方がないことだ。
……どうしよう。
★★★★★
「……結局、こんなものまで買っちゃった……」
気がつくと体が勝手に動いていた。
まるで何かに取り憑かれたかのように、予約の電話までスムーズにかけちゃって私らしくないったらありゃしない。
今の私の右手には、さっきまで履いていた靴が入った袋を持っている。
そう。私は新宿駅の近くの靴屋さんでヒールを買った。
(ちょっと背伸びしすぎちゃったかな……)
恥ずかしながら、私はこの歳になってまだヒールなんて履いたことはなかった。
『ずっと履いてるのきつい〜』って、よく蓮美が言ってたから私はヒールとの距離を置いてた。きついのが嫌だったから。
蓮美の言ってる意味が、今ようやく分かった。
(……ちょっと痛い)
女性の店員さんが『ヒールを履くのは初めてですか?』って、せっかく聞いてくれたのに……。
つい見栄を張って、『……いえ、いつも履いてますっ!』って言わなければよかった。
そしたら、少しだけかかとが高いヒールをお勧めしてくれて、あまりの可愛さに一目惚れしちゃって衝動買いしてしまった。
(……うーん、どうしよう)
履き替えようにも、私が履いてきたのは薄汚れたスニーカー。
男の人とデートだっていうのに、こんな靴を履いていたらどう思われるか。
汚い女だって思われるに違いない。
(……違うデートじゃない……レンタル彼氏に相談するだけ……)
そうだ。今日はあくまでレンタル彼氏。
しかも、デートじゃなく相談をするために依頼したんだ。
どうやったらモテますか、男の人はどんな女の子が好きですか、って。
私はその場で目を覚ますようにぶんぶんと首を振った。
時刻はもうすぐ二時を迎えようとしている。
心臓の鼓動が止まらない。
多分、緊張しているだけだ。
それから五分後。
待ち合わせ場所となる新宿駅東口の改札へと向かった。
人がたくさんいて、なかには待ち合わせしている人も多くいる。
(あ、あの人だっ)
そのなかで私は目的の人物を見つけた。
長袖の黒スキニーに、白のシャツを羽織る人物を。
その人物は他とは違い、一人だけ明らかに異色な
(拓弥さん、やばっ……)
写真では確かにイケメンだった。
でも、実物はもっとイケメンだった。
ツヤのある肌に、あのオラオラ感の出てる感じ。
髪もしっかりとワックスで固められていて、清潔感が
さすが人気のレンタル彼氏。
長袖を……着てる意味はよくわからない。
けど、腕まくった姿がすごく良い。
私のドストライクのタイプだ。
(……どうしよっ、どうやって声かけよう……)
拓弥さんからしたら、私なんて凡人中の凡人だ。
私が花柄のピンクのロングワンピースを着てることは知っているとは思うけど、近くに数人はその格好の人がいる。
つまり私から声をかけなければいけない。
ここでうじうじと止まっていても、予約の時間が過ぎてしまうだけだ。
(……蓮美の言葉を信じよう)
大学に入ってからずっと一緒にいた大親友。
私のことを馬鹿にしてくることもあるし、蓮美のことをうざいと思うこともあるけど、私は蓮美のことをいつだって信用しているし大好きだ。
だから蓮美、信じるよ。私、ボディタッチするね!
「……あ、あのっ!」
人気レンタル彼氏の俺。彼女を作れないと言っているのに、美女たちに狙われています ごらくくん @kok31593
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