#4 フランケンシュタインの怪物
〝有機合成型アンドロイド〟
本多は事務所に戻り、加賀美におそわったそのキーワードを、旧型の端末でしらべてみた。
時刻は夜の十時を過ぎ──薄暗かった昼間とは逆に、窓の外はネオンの瞬きでにぎやかだった。
検索に規制がかけられているのか、〝有機合成型アンドロイド〟についての情報はあまりなかった。それでも製作工程の画像がいくつかみつかった。そのなかのひとつに、円筒状のガラス瓶のなかに眼球や心臓や脳がはいっている画像があった。それはホルマリン漬けにされた臓器となんら変わりなくみえた。そのどれもが、人工万能型幹細胞によって培養されたものらしい。
人間を形成する要素──臓器、筋肉、皮膚、体液などを別々に生成し、各部品となる。骨だけは有機物ではなく
(これじゃまるでゴシックホラーの古典に出てくる〝フランケンシュタインの怪物〟だな)
これだけみれば〝クローン人間〟とたいして変わらないようにおもえるが、あれは性行為を経ない生命の創造の結果であり、誕生するのはまぎれもなく人間で、個人識別番号も交付される。
有機合成型アンドロイドは、あくまでも部品を組み立てて造られた人造人間であり、製品であり、個人識別番号も交付されない。
本多は一連の画像をみて、生命の神秘にたいする冒涜と、一度は廃止した奴隷制度をまた復活させようとする人類の罪深さに、おぞましさをおぼえた。
ピピピ……
電子音がメッセージが届いたことを知らせる。加賀美からだ。メッセージをひらくと意味不明の文字の羅列があった。いつものこどである。本多はいつものように加賀美自作の暗号解読ソフトを立ち上げる。すると意味不明だった文字列は解読可能な文章になった。
内容を要約するとこうだ。
「マシロ・コーポレーションのデータベースにハッキングをかけ侵入に成功した。そこにあった有機合成型アンドロイドの情報を精査するに、社外には『開発はまだ初期段階のため試作機はつくられていない』と発表していたが、じつはすでに六体の試作機が完成しているそうだ。そのうち一号機と二号機は原因不明の組織崩壊により、数時間で行動停止してしまったらしい。これがその画像だ」
という文章の下に数枚の画像が添付されていた。そのどれもがB級スプラッター映画のワンシーンのような、臓物をフロアにぶちまけたアンドロイドの残骸が写ったものだった。
「ウェ……わざわざこんな写真貼りつけるなよ。悪趣味な奴だ」本多はおもわず声に出した。画面をスクロールさせてつづきを読む。
「つづく三号機以降は組織の安定に成功したようだ。しかし問題なのは最新の六号機だ。六号機の情報だけ超超超超機密事項あつかいになっていた。ここで一言添えておきたいのだが、普通レベルのハッカーならここで諦めていることだろう。
ここでメッセージは途切れていた。
「なに? どういうことだ?」
さらにメッセージを下にスクロールさせると短い文章があらわれた。
「これ以上はスーパースペシャルレア情報のためケチな報酬額に見合わない。百万円の価値がある」
「百万だと!」本多は叫んだ。
「といいたいところだが、古い付き合いのミッチーに免じて半額サーピスしてあげるよ。検討してくれ」
「アイツ……」
本多は苦々しくメッセージを閉じた。
サイバーパンクは鳴り止まない 葛飾ゴラス @grath-ifukube
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