エリクサー爆誕

喰寝丸太

第1話

 私は薬師やくし絵里えりどこにでもいる普通のOL。

 それは別に良いんだけど。

 これ何っ!

 昨日は確かにベッドに寝たはずなんだけど、何で森の中に寝ているわけ。

 ちょっと洒落になってないんだけど。

 責任者、出てこい。

 やーい、でべその不細工のおたんこなす。

 お前なんか、大晦日になっても結婚できないんだぞ。

 きっと貧乳に違いない。

 なぜか女神を思い浮かべた。


 神様とか出てきて天罰とか下されたら堪らないから今のはなし。


 でもこれはないんじゃない。

 着ているのはパジャマだし、靴すら履いてない。

 やっぱり責任者でてこい。

 クレーマーになって悪評をばら撒いてやる。


 呼んだとばかりに、大きな牙をもった見るからに凶悪そうなトラが現れた

 やっぱり天罰が下ったか。

 どう考えても食われる未来しか浮かばない。


「【ストーンバレット】」


 そう声が聞こえて、唸りを上げた何かがトラに突き刺さった。

 声のした方向を見ると男の人が杖をもって構えてた。

 トラは?


 目線を動かすと、血まみれのトラが目に映った。

 どうやら死んでいるよう。


 でも一難去ってまた一難。

 この男の人が信用できるか分からない。

 この人に助けを求めて平気かな。


「あのう」

「災難だったね。キングサーベルタイガーに出会うなんて」


 良かった話が通じる。

 顔が冷たい。

 手をやると濡れていた。

 安堵の涙を流していたらしい。


「助けて下さい」

「状況が分からないけど、装備からみるに、困っていることは分かる」

「そうなんです。靴も無くて」


「とりあえず死骸を収納しよう。【ストレージ】」


 黒い穴に死骸が吸い込まれた。

 魔法かな。

 どうやら異世界にきたみたい。


「住んでいた場所に帰りたいんです。寝ていたらいきなり森だったの」

「転移事故かな。帰り道を探すのにもまずは街に行こうか」

「エリと言います。よろしくお願いします」

「俺はジョージ」


 そして、一ヶ月後、死ぬような思いをしてなんとか街に辿り着いた。

 やった、街だ。

 とりあえず文明圏に帰ってきたぞー。


「じゃあ、俺はこれで。何かあったら冒険者ギルドに伝言を入れて」

「ありがとうございました」


 ジョージは良い人だ。

 3日ぐらい暮らせるお金も貰った。

 さあ帰るために情報収集しないと。


 聞くと風呂屋があるらしい。

 これは入らねば。

 ジョージは良い人だけど、水浴びを見せて良い間柄じゃない。

 だから、一ヶ月、汚れたまま。


 風呂屋にさっそく行く。

 普通の浴場ね。

 良かった。

 女湯と男湯が分かれている。


 洗い場に椅子と桶があるところなんかは日本の銭湯とそっくり。

 風呂からお湯を汲んで頭から被った。

 石鹸はないらしい。

 仕方ないので体を手ぬぐいでこすって洗ってから、湯舟に浸かった。


「ふぃー、生き返るぅ」


 久しぶりのお風呂だものね。

 おっさんみたいな声が出るのも仕方ない。

 その時、お湯の色が私の近くから、変わってきているのに気づいた。

 やだ、垢が浮いたのかな。

 よく洗ってから入ったのに。


 お湯は光り輝く紫に染まった。

 これが私の垢。

 何だか違うような。


「誰だい。ポーションを身に着けて風呂に入った馬鹿は」


 お婆さんが怒っている。


「すみません」


 私は謝った。

 私から紫色の何かが出ているのは明白だったから。


「あら、お肌すべすべ」

「腰が痛くない」

「古傷がない」


 一緒に入っていた人達が騒ぎ始めた。

 そして、通報を受けた女兵士がやってきた。

 女兵士もいるのね。


「なぜ風呂にポーションを入れた?」


 取調室みたいなところで尋問された。


「分からないんです。風呂に入ったら水が光る紫になっちゃって」

「ドラゴンの血でも浴びたか」

「いいえ、魔境に一ヶ月いましたが、ドラゴンの血はおろかモンスターの血も浴びてません」

「なら、特異体質だな」


 そして、体の隅々まで検査された。


「ふむ、見た事ない体質だ。魔力ゼロだとは」

「えー、魔法使えないの。使いたかったのに」

「使えないな。だが、それを補って余りある体質だ。お湯に浸かるとエリクサーができるらしい。風呂屋のお湯はエリクサーになっていた」

「私から出汁が出た?」

「推測だが、君は魔力を吸い込んで取り入れたりはしている。ただし溜まらないだけだ。魔力は毛穴から出ているらしい」

「それが何でエリクサー?」

「魔力は感情によって姿を変える。お風呂で何を考えたね?」

「気持ちよくって、生き返ると」

「それが癒し効果となってエリクサーを生み出した」

「じゃあ、もうお風呂入れないの?」

「どうだろう。堆積された魔力は消えたから、今風呂に入っても下級ポーションぐらいしか効果はないだろう。私としてはまた一ヶ月、遠征をして魔力の垢を溜めてから、風呂に入るのをお薦めする」

「毎日風呂に入れないなんて嫌だー」

「エリクサーの為だ諦めろ。もう領主様に話は伝わっている。逃げられないぞ」


 はっと、しょうもない事実に気づいた。

 もしかして、絵里えりくさいで、エリクサー。

 ダジャレかよ。

 絶対、神の仕業だ。

 仕返しされたんだ。

 くすん。

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