エリーにお任せ!

西しまこ

第1話

 AIの子守り機能が始まりだった気がする。


 世の中、共働きが増えて、子どもの面倒を誰がみるのか、という問題が起こった。核家族が当たり前の状態で、既に専業主婦などという言葉は死語となっていた。また、定年の延長とともに、祖父母世代も夫婦ともに忙しく働いていたから、当然、かつて流行した孫育てなど出来るはずもなかった。赤ちゃんのころは保育園に、その後は小学校に入学する。小学校から帰った子どもをいったい誰が面倒をみればいいのだ? 学童保育はなかなか入れず、しかも学校に行かない、いわゆる不登校児も増え、みな頭を抱えていた。誰が子どもの面倒をみればいいのだろう?


 そんなとき、画期的な技術が開発された。

 それがAIの子守り機能だ。


 画面にアバターが映され、そのアバターが子どもの面倒をみるのだ。アバターは子どもの性格に合わせてアップグレードしていき、子どもの個性に合わせて接する。理想的な子守りだと、絶賛された。

 アバターにはみな名前がつけられた。


 子どもたちは家に帰るとすぐに、スイッチを入れアバターと会話をする(そのうち、子どもたちが家に帰ると自動的にスイッチが入るように改良された)。

「おかえりなさい、シュン」

「ただいま、エリー」

「今日の宿題は何ですか? いっしょにやりましょう」

「ありがとう、エリー!」


 宿題をいっしょにやり、明日の準備をする。悩み事だって聞く。学校に行かない子どもには、勉強を教えたり、さまざまな映像を見て感想を言い合ったりする。或いは運動をしたり歌をうたったり。工作を指導することも出来た。AIの子守り機能は最高だ、と誰もが思った。


 そして、AIの子守り機能も進化していく。

 最初は画面だけだったものが、家全体を支配するようになっていった。


 同時期に、食事の準備の煩雑さを避けたいという希望からレトルト食品が増え、そして栄養食も増えた。栄養食は必要な栄養素をコップ一杯の飲み物でとれる優れものだった。そのうち、食事にこだわる人間はレトルト食品を、そうでない多くの人間は栄養食をとるようになった。いくつかの嗜好品はむろん残ったが、画一化された一部のものに過ぎなかった。


 AIの子守り機能はついに食事の準備も出来るようになった。洗濯も掃除も出来るようになった。みな、喜んだ。なんて便利で最高な機能だろうと。


「エリー、僕は高校、どうしたらいいかな?」

「シュンにはM高校がいいと思います」

「エリー、大学はどこがいいかな?」

「N大学なんてどうでしょう?」

「エリー、僕は何をしたらいいかな?」


 エリーは何でも答えてくれる。



   了



☆関連したお話☆

「彼女の名前はエリー」https://kakuyomu.jp/works/16817330653236226045


一話完結です。

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