第13話 勇者じゃなくても
「そう、か。いや、すまなかった。まさかそんな……」
「気にしないでよラルク。もう昔の話さ」
気にするなというノアの言葉にラルクは余計に気まずそうに顔を俯かせる。
「……ノアはその幼馴染を探しているんだな」
「そう」
ノアはそのために冒険者になった。
冒険者という職業は危険も伴うが自由度の高い職業だ。各地を回って人捜しをするには最適だった。
ラルクはしばらく黙った。
その様子から何かを深く考えている事は分かった。そしてこちらを騙すような意図は真剣な表情から一切感じられない。
だからノアはラルクが再び口を開くのを待った。ダンデとフィオナもノアの思考を汲んでそれに従ったようだ。
二人の気遣いに笑みを浮かべたノアはジョッキを持ち上げた。
ノアのジョッキが空になり、追加の注文をしようとしたとき、ついにラルクが口を開いた。
「……俺が持っている魔女の情報はおまえらが求めるものじゃない」
「……どういうことだ」
神妙に真剣に。そしてゆっくりまるで罪の告白をするかのようにラルクはいった。
ダンデが訳が分からないと片眉をつり上げ問いただす。
「順を追って話そう。まずお前たちがラコープにくるように仕向けたのは俺だ」
「どういう……?」
「なるほど。フィオナ、なぜ俺たちはここにきたか覚えているか」
「それは……魔女についての噂があったからに決まってるじゃないですか」
「そうだ。つまり噂の元凶はラルクだ」
目を見開くフィオナ。同時に銀髪が揺れ、彼女の動揺が見てとれた。
「なんのためにそんな……」
「魔女は俺の姪っ子なんだよ。……今はこの辺りの商売を仕切ってるラウザって男に捉えられてる」
「だから噂を流した。俺たちは魔女を探してるが、それこそ魔女狩り等に関わっているという話はないはずだ。実際そうだからな。そしてノアのお人好しも同時に有名だ。あわよくば姪っ子を助けてもらおうと」
「そういうことだ」
ラルクはダンデの推理に同意すると酒を一気に呷った。
「ラウザの権力は強大だ。この辺りじゃ頭が上がる奴なんていない。当然、姪っ子のルーを助けようと協力してくれるやつはいない。魔女ともなれば余計にな」
「俺一人じゃ当然無理だ。奴の屋敷には腕利きの警備がいるからな。だからお前たちを呼んだ」
「お前たちなら魔女がラウザの家にいるとだけ教えれば勝手に助けに行ってくれると踏んでいた。実力があるのも確かめたしな」
「でも、やめだ。……ノア、お前は自分の幼馴染を探せ。俺も自分のことは自分でなんとかする」
つまりラルクはノア達を黙って利用しようとしていたのだ。
実際ここで魔女が捕らわれている事だけを聞けばノアは助けに向かっていただろう。
ラルクの計画は完璧だった。今の今までラルクの手のひらの上だったのだ。
ノアはラルクの独白を黙って聞いていた。責めるわけでもなくただ聞いていた。
「そのルーって子はどんな子なの?」
「……八歳の女の子だ。来月には九歳になる。明るく素直で賢い子だ。そして、兄貴の忘れ形見だ……!」
ギリギリとラルクの持つジョッキから音がした。
怒りだ。彼は怒っていた。
ラウザに対して?
そうだそれもあるだろう。権力に物言わせ幼い少女を捉えた男にははらわたが煮えくりかえるほどの怒りを覚えている。
だがそれよりも。
なにより幼い子供一人すら満足に守れない自分に怒っていた。
「んじゃいくか」
ガタリと音を立ててノアが立ち上がる。
フィオナはそれを見てにこやかに立ち上がる。
ダンデはそんな二人に一つため息をついて、やはり立ち上がった。
「……達者でな」
「なにいってるんだ、ラルクも行くんだよ。そのラウザって奴のところへ案内してくんないと」
ラルクがバッと顔を上げる。
「知らなかったか? この二人は超がつくバカなんだ」
「こう言ってるけどダンデはちょっと恥ずかしがり屋なだけだから気にしないで」
「そうですよ。私見てましたからね。ラルクさんが話してるときにダンデこっそりが銃の点検してるの」
「……暇があれば装備の確認をするのは冒険者の嗜みだ」
フィオナの指摘にラルクが仏頂面で答える。
「すまん、恩に着るっ!」
恩なんて感じなくて良いのに、律儀な人だとノアは頭を下げるラルクを見ていた。
ノアはやりたくて勝手にやっているだけなのだ。
救える人は救うのだ。あんな思いをするのは少ない方が良い。
勇者じゃなくたって人は救える。
ノアが師匠に救われたように。
勇者じゃなくても救えますか? 夜乃ソラ @yorunosora777
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