5章 未来へと続く道 ⑧
「ふぅ~よく寝た。今、何時」
「七時頃」
「もうそんな時間なんだ。お腹すいた」
「飯でも食べるか」
部屋を出てダイニングルームに行くと、肉じゃが、サンマ、きんぴらごぼう、ごはん、味噌汁、サラダ、豚のしょうがやき、見栄をはりすぎない素朴な日本の和食が並んでいた。
「幸与、起きたんだ」
「これ、母さんつくったの」
「生心君といっしょにね。手際良くて助かった、幸与が生心君の身体で料理してたおかげね」
「ではでは、わたしの腕がそなわった生心君の腕前とやらをみせてもらおうかしら」
最後の晩餐ともいえてしまうのだけど、俺達は明るいままだ。
手をあわせ「いただきます」をしてから夕食を食べる。
「これってわたしの好みとは少し違う感じだね。そっか、これが生心君の好みなんだ」
「いやか?」
「そんなことないよ。手料理つくってくれるだけで嬉しいよ。わたしが伝授したんだけどね。お、これは母さんがつくったやつだね」
「わかるんだ、そういうの」
「そりゃあもちろん。だってお母さんの味なんだから」
「嬉しいこと言ってくれちゃって。ほらほら、どんどん食べて」
「そうする。あ、そうだ、ねぇねぇ、母さん聞いて、聞いて、生心君浮気しすぎなんだよ」
「ちょっとそれはどういうことかしら」
くだらない。実にくだらない雑談そのまま続き、時は過ぎていく。
こんなくだらない雑談も、もうすぐかけがえのない大切な思い出に変わっていく。そう思うと一つ一つを大事に大事にしていきたくなっていた。
「ふぅ~いろいろ話したね~」」
「本当ね」
「幸与」
「なに、生心」
「これからまたデートしようか」
「いいけど、もう夜だよ。保育園にいる子供達ほとんど帰ってると思うけど」
「だからこそだよ。とっておきのロマンチックな場所用意したから」
「いきたい、わたし、そこにいきたい」
無邪気な子供のように目を輝かせる幸与を連れて、ロマンチックなデートスポットに向かう。
だからといって遠くへはいこうっていうわけじゃない。いつもと変わらない保育園だ。
「え、ここ、保育園だよね」
「いいから、いいから」
保育園へと入る。用意はできてそうだな。
「なにもみえないね」
「それはどうかな」
用意しておいたスイッチを入れて、あたり一面を光の雨を降りそそがせる。
「わぁあああ、きれい」
普段はイルミネーションなんてされていない屋上だけど許可をもらいロマンチックなデートスポットに変えさせてもらった。光り輝くアーチ、花、犬、うさぎ。様々造形のイルミネーションが目の前に現れたことに、幸与は驚いていた。
「これは俺だけの力じゃできなかった。保育園の子供達、保育士のみなさん、美樹さん、衛さん、俺の両親。みんなでつくった星空の魔法なんだ」
みんなでつくった一度限りの魔法のような空間。幸与の表情をみるに大成功のようだ。
「わたしのために」
「そうだよ、幸代のためだ」
「嬉しい、わたしすごい嬉しい」
決して広いとは言えない保育園の中をゆっくりと歩きイルミネーションをみ観ていく。
「生心とこんなロマンチックなデートできるなんて思ってなかったな。最初なんて、なんでそんな上から目線だって思ったくらいだし」
「入れ替わった着後か。あの時はそうだな、幸与のことなんて子供ぽいやつなんだって思ってばっかりだっけ。あ、それは、今もか」
「言い返せないのがちょっと憎たらしいけど、そんな部分も好きでいてくれてるんでしょ」
「今はな」
「生心は、わたしのこといつ好きになったの」
「いつからっていうよりかは、自然とそうなってたのかな。死にたいって思ってる俺を引っ張りあげようとしてくれてたから。自覚したのは美樹さんと風呂で話をした時だったけど。幸与は俺のこといつ好きなった」
「ぎゅっとされたときかな。生心にはわたしがついていなきゃっていうのもあったんだろうけど、すごくあの時ドキドキしてたから」
「そっか」
あの時は無我夢中で抱きついて抱きついてしまったけど、そんな風に思ってたんだ。
「他にも入れ替わって、いろいろなことあったよね。わたしは美樹ちゃんいて最高のスクールライフだったよ」
「俺は保育士の仕事、きつかったよ。何度も止めたくなった」
「それでも生心はやりきってくれたじゃん。楽しい部分もみつけられたんでしょ」
「それは立花ちゃんのおかげだ。あの娘おかげで自信をもてたし、子供達の輪の中に入れた」
「やるな愛人」
「また、そういうこという」
「えーいいじゃん。そうだ、なんならわたしがもらっていい。立花ちゃんかわいいんだもん。美樹ちゃんを加えてハーレムだ!」
「なにその野望、止めてやれ、彼女達の生活が無茶苦茶になるから」
「えー生心的にも美味しい話じゃない」
すこしからかいすぎだな。このままのペースを握られるのもらしくない。
「俺には幸与だけいればいいから」
言ってしまえば恥ずかしくなるような言葉を伝えた。たく、なに恥ずかしがらせてくれだよ・
「も~う、嬉しいこと言ってくれるんだから」
「幸与、わざとそういう話の方向に持っててないか」
「う~ん、それはあるかもね。でもいいでしょ、そう言ってもらえると嬉しいから」
幸与が満面な笑みを浮かべてくれる。それだけでなんでも許せてしまいたいと思っている俺は、幸与のことが好きなんだとまた自覚した。
「こんなに幸せで、後悔も一つもなく眠りにつけるなんてわたしは幸せものだ」
後悔が一つもない。果たしてそう自信を持って言えるだろうか。
いや、それはない。本当の意味で後悔がなくなることはない。
「幸与は保育士の仕事、まだしてたかったんじゃないのか」
「したいけど、生心がやりきってくれたから後悔はないよ。お別れ会もすることができたし」
「確かに俺は幸与として保育士の仕事をすることで得るものがあった。でも、それが幸与にとってプラスだったかというと疑問だ。結局、体調がくずれてからは通い続けることができなかったし」
「自分のしたことが、わたしのためになって欲しかったってこと」
「そうだ。あ、そっか……これ、俺の後悔か」
幸与のためになって欲しい。今までのことすべてが。
そんな自分の願望はまだまだ子供ぽいものだと痛感させられた。
「あいからわず真面目だな、生心は。だけどその後悔を背負い続けないで欲しい。病気をわずらう人がいるように、世の中思い通りにいくことばかりじゃない。理不尽なことだってある、それだけのことだから」
「世の中には理不尽ばかりが溢れているか……俺はかつてそこに生きる意味がないと思っていた。今だって多くの人がそう思っていると思う。だけどさだからといって死ぬことを簡単に選んじゃいけないって俺は思い知らされた。それは視野を広げられたからだと思う。誰かの人生を知れたからだと思う」
「わたしの出会いが生心を変えたんだ」
「俺にとってはそうだっていう話なだけ。でもさ、他の死にたいと思ってる人だってさ、なにかに出会ったり、なにか打ち込めることをみつければ変わっていけると思うんだ。それが広がっていけばいつかはきっと世の中も変わっていける、今なら俺はそう信じれる」
俺は理不尽なことで生きる意味を幸与に証明したかった。
生きる意味を見失っている人にも証明したかった。
それは俺がそのことを後悔してきたから。後悔を背負い続けているかこそ感情的になった。
「この世界の人のことまで考えているなんて、ずいぶん視野が広くなったんだ。左手のキズを初めてみた時はどうしよって思ったけどね」
「悪かったな負担かけて」
「いいよ。謝らなくて。今は生心が前向きな未来を思いえがけている、そのおかげでわたしも新しい未来へと続く道をみつけることができたから」
光り輝く道をつくりだしていた光のアーチをくぐりお互いにみつめあう。
「入れ替われたのが幸与で良かった」
「入れ替われたのが生心でほんーと、良かったよ!」
感謝の言葉を告げあうと、愛おしいと思っていることを確かめ合うキスをした。
「俺、絶対救ってみせるから」
「信じてるよ、生心」
星空に流れ星が一筋輝く中で俺たちは誓い合う。
いつか再開できる時がくると信じて。
* * *
翌日、幸与はコールドスリープをするための施設に入る前に、衛さん、俺の両親、美樹さん、事情を知っている人達が別れのあいさつをするために集まった。
「ゆきよ~、ゆきよ~」
「もう母さん、泣かないで」
涙を流す衛さんは、親として、医者としてなにもできなかった気持ちで一杯だ。
だからこそ、この最後の瞬間に涙を流すことでそれをさらけだす。前に進んでいくためにも。
「幸与さん、いつまでも友達だって思ってるから」
「わたしもだよ、美樹ちゃん」
美樹さんは、涙を溢れだしそうな涙を手でぬぐいながら、笑顔になる。
笑って別れる友達であろうとするために。
「うちの息子ならきっとなんとします。それまで元気でね」
母さんは不思議と落ち着いていた。大人としていつづけようと必死にしているんだろうな。
「迷惑をかけたことだけは、重ねて謝っておく。もう少し利口だとありがたかったんだがな」
「厳重郎さん変わらないな。でも変わって信じてます。生心と仲良くしてくさいね」
父さんはあいからわずだ、こんな時になってもぶれない。この先も苦労しそうだな。でもそれが俺の父さんなんだ。
それぞれが、それぞれの言葉で別れを告げる。きっとそれは遠い時間がたったとしも忘れることはないだろう。
そして俺達はもう、別れのあいさつはすませている。だから言うんだ。
「生心、いってきます」
「いってらっしゃい、幸与」
また再開するための言葉を。
幸与が去り、病室には誰もいなくなった。
これから先、どんなに会いたくたって、会うことはできない。さびしい気持ちがないかと言われると嘘になる。人は感情で動くものだからなおさらだ。
だけどさびしいからと言って立ち止まってはいられない。
俺にはやるべきことが残されている。幸与を救うためにすべきことは山積みだ。
まずは医者を目指す所から初めなければいけない。。
まずは医学部へ。それが俺の今の目標だ。
エピローグ
俺は、かつて死にたいと思い日々を過ごしてきた。
こんな理不尽な世界でなぜ生きなければいけないだと思い続けてきた。
それから大きく意識が変わり、生き続けたいと思えている。
誰かのためになりたいと思えている。
しかしそれで理不尽な世界がなくなったと言われるとそれは違う。
理不尽な病に苦しめられている幸与がいる。世界が理不尽なままだ。
苦しい、辛い、現実は常に俺の目の前にあるままだ。
それでも俺は望む。この理不尽な世界は変えられると。
変わろうと思わなければ世界は変えることはできないのだから。
生きる、俺は心の底からそう思っている。
生きる、大人達にわがままによりこの世界が腐っていようとも。
生きる、明るい未来をつかみとるために。
生きる、だるい、めんどう、苦しくても、人生は面白いから。
生きる、俺はこの世界にいたいから
生きる、幸与を救うために。
生きる、この世界の知らないことをもっと知るために。
「ただいま、生心」
「おかえり、幸与」
そして俺は生きている、幸与が隣にいる未来で。
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重ための物語でしたが、ここまでおつきあいくださりありがとうございました。
タイトルと設定部分を掘り下げていくと、どうしてもきつめな感じにしていかないと本気ぽくならないので、デレデレさせたい所も我慢してましたね。
そのぶんキャラはそこまで崩れなかったと思います。
絶望の中でだって希望につながる未来はみつけられる。
読者の皆様にもそう思っていただけたら幸いです。
少しでも楽んでいただけましたら、
『ブックマーク』と【★★★】レビューで評価していただけると、キャラクター達も作者も喜べます。
少し宣伝も。
本作以外にも連載作品として
『クリエイト・レイターズ ~創造を大切にする想いで強くなれば、どんな人でもどんなキャラとも現実世界で出逢え創造のために闘えます~』
物語の中のキャラクターと現実世界で出逢って交流、創造を大切に想う力で闘う物語を書いています。
また短編ではかなり軽めな現代+異世界の恋愛
『彼氏にふられてムカついていたので、マッチングアプリで勇者と名乗るふざけたやつを罵倒しにいったら、本物の勇者と恋をしていた』
ふられた女の子がマッチングアプリで、物語の中の本物の勇者と出会って付き合うまでの物語も書いています。
何卒応援よろしくお願いします。
死にたい俺が明るくてやさしいお姉さんと入れ替わり、恋をする話 ハルキヤ @usapen3
★で称える
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