薄汚れた小説の海に隠れた傑作

待ちに待った時生先生の新作。ずば抜けた頭脳、立派な体躯、裕福な家計、すべてを揃えた完璧人間、東馬新太郎は、退屈な日常を打開する「何か」を心待ちにしていた。ある日学校帰りに、好奇心にくすぐられ、親から禁止されていた橋の下を覗くことにする。そこでであったのは、摩訶不思議な美少年だった――。先生はタイトルからして秀逸。謎の紳士「利一さん」と新太郎、白い美少年の関係はどういうものなのか、と益々続きを読みたくなる。橋の下の薄汚れた人々と純白の美少年の対比構造は一層の好奇心をかきたてる。こうした構図は、石川淳の「焼け跡のイエス」を想起させる。全体的には三島由紀夫・谷崎潤一郎といった新感覚派や耽美派的な印象を受ける。はたしてカクヨムという駄作(僕も含まれるが笑)が氾濫する小説の海に、「フーカ」となることが出来るだろうか。今後に期待したい。

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