政略結婚の夫に「愛さなくて結構です」と宣言したら溺愛が始まりました
杓子ねこ/ビーズログ文庫
プロローグ・嫁ぐのはお姉さま
「わがクラヴェル家とド・ブロイ
「
クラヴェル
「嫁ぐのはお姉様!! お姉様にして!! あたしは絶対に嫌だから!!」
キンキンと耳に
「どんな
イサベラはモーリスの首に
いかにも
「そういうことだ、マルグリット」
「……はい」
妹のようにゆたかな金髪も泣き落としのできる演技力も持ちあわせていないマルグリットは、くすんだ
「ルシアン・ド・ブロイに嫁ぐのは、お前だ」
ド・ブロイ公爵家とクラヴェル伯爵家とは、領地を接し、長年の天敵であった。
もとはといえば公爵家も伯爵家も、
それだけに
「だいたい二代前まではド・ブロイのやつらも伯爵位だった。それをうまいこと王族に取り入って、第四王子を
「今の
血気
そういった
ある日、両家の
「ド・ブロイ公爵家とクラヴェル伯爵家の結びつきを強め、親交を深めるべく、ひと月以内に両家の縁談を
という命令を
命じたのは王家きってのやり手と
クラヴェル家には
見た目の派手さはないが
どちらかが家を
こうして、クラヴェル伯爵家当主モーリスは、
「そうだな。イサベラをド・ブロイ家にやるなんて、考えただけでもぞっとする」
美しい妹を
「イサベラ、お前はまだわしの――お父様の腕の中におればよい。いずれ婿をとり、この家を継がせよう」
「ええ、そうしてくださいな、お父様」
「そうと決まれば、さっさと準備をしろ、マルグリット」
「はい、承知しました」
頭をさげるマルグリットにイサベラは
「ほら、お姉様は嫌がっておられませんわ。あのひとには感情というものがないのかしら」
「まったくだ。敵の家に嫁ぐというのに……イサベラのように泣いて縋ればまだ
(泣いて嫌がれば、口答えをするなと
内心の
母が亡くなってからというもの、父は母の美貌を受け継いだイサベラの言いなりだ。対して外見は母にあまり似るところのない―― それでいて娘のくせに自分よりも優秀であることがうかがえるマルグリットを、
その態度は使用人全員に伝わり、イサベラの命令でマルグリットは物置のような部屋に
今だって、マルグリットが着ているのはサイズのあわない
幸いだったのは、母が生きているあいだに、マルグリットにきちんとした教育を受けさせてくれたこと。
(この家を出られるのはチャンスかもしれない)
降ってわいた天敵との縁談話がなければ、おそらくモーリスはマルグリットに嫁ぎ先など用意しなかったであろうから。
部屋に
北の、最も
クローゼットという名目の木箱を開き、公爵家へ運ぶものを検討する。マルグリット許されているのは、いま身につけているもののほかに、数着の
と、バタバタ
用事があるときにはノックをとか、
「ああ、お
そんな扱いは慣れている、と言いたいところだが、言えばイサベラが
「あんまり可哀想だから、あたしのお気に入りのブローチをあげるわ」
そんな姉の姿が見たいのだ。
なにも言わず、受けとろうともしないマルグリットに、イサベラは眉を寄せた。すぐに
「ねえ! 感謝したらどうなの! いつもそうやって……あたしをバカにして!」
ひゅっと風を切る音の直後、
「なんてことを。ド・ブロイ家の方々と顔合わせがあるでしょうに……」
「べつにいいわよ。その顔で会ったほうがあたしたちの気持ちがわかるというものよ」
「王家の命令に不服を表すことになるのよ」
やってきたときと同様、バタバタと足音をさせながら気配が遠ざかる。開けっぱなしのドアを閉め、マルグリットは気持ちを
「……うん、やっぱりこれは、いいことのように思えてきたわ」
どうにかしてマルグリットを
(悲しいことばかり考えていてもなにも始まらないもの)
「ド・ブロイ領には、海がある」
ド・ブロイ領は、国の
海――それは幼いころからのマルグリットの
『海からは
『
『こわあい!』
『
イサベラもともに母の
(ド・ブロイ家に嫁げば、海が見られるかもしれない)
父や妹が聞けばバカバカしいと笑ったであろう希望を胸に、マルグリットはド・ブロイ家に嫁ぐことになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます