エーデルワイス 🏔️
上月くるを
エーデルワイス 🏔️
いやはや、われながらびっくり!!
意外なところで感じるんだね、歳。
ヨウコさんが驚いたのは、定期検診に行った歯科医で若い歯科衛生士さんに親切に歯磨き指導してもらったとき、浅春の浮氷のようにぞっくり動いた自分の心のこと。
なにがどうしてそうなったのかは分かりませんが、ふっと頼りたくなったのです。
いままで凛然(いえ毅然かも)としていたつもりが、にわかにヘナヘナとなって。
娘どころかまごまごすれば(笑)孫ほど若い人に縋りたくなるなど危ない危ない。
巡回の警官にお茶を出したとかタイヤ交換の男性スタッフに小遣いをあげたとか。
年寄りのさびしさを擽られた先輩方(家族がいてもいなくても)が思い出されて。
弱気を戒めるため、先生が診察にまわって来てくださるまでに童話を考えました。
🔺🔻🔺🔻
住宅街のある庭で、春の太陽を浴びたエニシダが黄金色にこぼれ咲いています。
通る人がみな「まあ、きれい!!」と褒めるので、すっかりその気のエニシダ。
そこへ一羽の野鳥がやって来まして、じつに、にくたらしいことを言うのです。
「あんたら、自分たちこそ春の申し子だと自惚れているようだが、世間が狭いわ」
当然なことにエニシダはムッとしまして「黄金色はこの世の色のキングなのよ」
野鳥は「ふん、なにも知らんな。もっとも美しいのは純白さ」にべもありません。
そんな花どこに咲いてんのよ、あの高い山の岩かげだよ、そんなの知らないわよ、じゃ連れて行ってやるよ、魔女になって箒にまたがり、おいらのあとをついて来な。
🧹
その日の夕方、アルプス一万尺の、とある岩かげに一本の枝が置いてありました。
となりに楚々とした風情で咲いているのは、清らかに真白なエーデルワイスの花。
ナビゲーターの野鳥はどこへ行ったやら、金色のとんがり帽子をかぶったエニシダ魔女のすがたも見えず……住宅街の枝が一本欠けていることにだれも気づきません。
🔹🔹🔹🔹
「いやあ、お忙しいところお待たせしました」先生の声が頭上から降って来ました。
いやだわ先生、わたしとっくに現役じゃないのに……同い年の患者・ヨウコさん。
ちなみに、半世紀あまりもお世話になっている先生は、いまだにアナログ歯ブラシ一辺倒、電動歯ブラシなんぞ使ってみようとも思わないそうです。ギャフン。(笑)
エーデルワイス 🏔️ 上月くるを @kurutan
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます