第8話 黒の幹部と正義の少女


 「士道流、【瞬輪】」


 「アクア・ストライク!」


 絶え間なく繰り出される攻撃をいなしながら、私は思う。"想定以上"だ、と。


 黒の女王シェリーアが最初に生み出した第一の僕、それが私だ。主の命に則り、私は早急に精霊姫どもを葬り去らなくてはならない。


 それなのにっ!


「愛の連撃!」


 「鬱陶しいっ!」


 連撃を躱して闇をぶつける。


 一人一人の戦力はダークナーの強化体と同等かやや上回る程度。本来ならとっくに勝負はついているはずだ。

 しかし、隙が無い。3人一緒になるだけでここまで強くなるなんて…。


 「まだまだ!」


 私の攻撃で吹き飛ばされた少女が立ち上がる。


 もう仕方がない。ここで使う予定はなかったが、無理して残しておくようなものでもない。


 「闇の精霊、オーバードライブ」


 

 それは、精霊姫たちにとって、絶望の始まりだった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 シェルと名乗った謎の少女。私たちが先日戦った強化体とは格の違う相手だ。

 だが、今の少女からはさらに強力な気配を感じる。


 「愛華ちゃん風峯ちゃん気を付けて!さっきまでとは雰囲気が違います!」


 二人に注意を促しつつ、私も警戒を強める。


 だが、


 「ぐっ……!」


 「「風峯ちゃん!?」」


 突然風峯ちゃんが吹き飛ばされる。速すぎて見えなかった。


 「私が!」


 「待って愛華ちゃん!」


 愛華ちゃんが静止を耳に入れず飛び出す。


 「愚かですね。闇の砲弾ダークシェル


 「愛の鉄拳ラブリーストレート!」


 シェルの闇と愛華ちゃんの拳がぶつかる。


 「がっ……!」


 押し負けた愛華ちゃんも吹き飛ばされてしまう。


 残されたのは私だけ。私がやるしかないんだ。


 「雷の精霊よ、水の精霊よ、私に力をお貸しください」


 「あとは貴方だけのようですね。気の毒ですが死んでもらいます」


 

 勝つ。やるしかない。私がやらなきゃ愛華ちゃんも風峯ちゃんも殺される。


 「ライトニング・バースト!」


 命中……いや、闇を纏って防がれた。


 「アクア・ストライクッ!」


 巨大な水球。しかしさらに膨大な闇に飲み込まれる。


 「無駄ですよ。闇の弾丸ダークバレット


 「アイス・シールド!」


 

 負けられない。私が倒れるわけにはいかない。水の精霊との親和性を高めたことによって習得した氷の力。これを駆使してシェルを倒す。


 「闇の衝撃ダークインパクト


 「アクア・バルーン!」


 

 大丈夫。相手の攻撃には対応できてる。


 

 

 「アイス・バースト!」


 

 この一撃で決める!



 「はぁ」


 闇の壁を前に、氷は砕け散った。


 「このタイミングでの攻撃、私の攻撃はすべて防いだつもりですか」


 「まだ…」


 「闇の弾丸ダークバレット


 まずい!間に合わな……

 

 「ぐっ……」


 「闇の砲弾ダークシェル


 「アイス・シールド!」


 今度は間に合っ―――


 パリンッ


 え?



 体に強い衝撃。立ち上がれない。シェルが私の目の前に立つ。


 

 「少し面倒でしたが、終わりです」


 

 駄目だ。体に力が入らない。


 誰か…私の代わりに世界を守ってくれるかな…


 なんとか…愛華ちゃんと風峯ちゃんだけでも逃げられないかな…


 いや…そんなことより、


 死にたくないなぁ…


 

「闇の弾――――ぐっ!?」



 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 

 あと少しだった。青髪を仕留めればあとは気絶した残り二人を狩りに行くだけ。

 反動の大きいオーバードライブを使う予定はなかったが精霊姫を全員殺せるなら何も問題はなかった。


 それなのに…


 「何者ですか、あなたは」




 突然現れた灰色の衣装を纏う男が、私の前に立っていた。



 

 「俺は、ただの復讐者だ」



 

 精霊姫?いや、明らかに男だ。なら一体……関係ない。邪魔をするなら排除するだけだ。


 「【加速ブースト】。来い、時の半剣」



 「闇の弾丸」



 私の手から放たれた漆黒の弾丸は、いとも容易く剣で真っ二つに裂かれた。

 弾かれた、ではなくだ。



 「本当に…何者なんですか……」



私の絶望が幕を開けた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 見つけた。先日の強化体とは比較にならない強い気配を感じて出向いてみれば、そこには氷華と黒い精霊姫らしき少女。

 一目で分かった。こいつはシェリーア側だと。禍々しい闇をその手に纏い氷華に強い殺気を向けるその姿は、悪そのものだ。


 そして彼女こそがシェリーアを殺すための重要な鍵だ。


 生け捕りにして情報を吐かせる。シェリーアと直接相対する方法もわからない今、それだけが俺に残された鍵だ。


 憎い。憎い。憎い。でも抑えろ。俺が今すべきなのは怒りに任せて殺すことではない。


 

 「何者ですか、貴方は」


 透き通ったような、それでいてどこか作り物じみた声だ。


 「俺は、ただの復讐者だ」


 

 

 

 闇の弾丸を時の半剣で切り裂き、距離を詰める。


 そのまま剣を振るうがクッションのように闇を間に滑り込ませた防御によって致命傷には至らない。


 「こんなはずは……」 

 

 少女がつぶやく。確実に弱っている。俺の力は彼女を大きく上回っている。


 「終わりだ。」


 一気に距離を詰める。少女は即座に防御の姿勢に入る。


 だが、それでいい。


 「【遅延スロウ】。」


 

 「は?」


 【加速】と【遅延】の同時使用。長くは持たないが習得していた。


 急激に動きの遅くなった少女の背後に回り、背中を切りつける。



 「がっ………!」


 かろうじて反応を見せたものの防御は間に合わない。少女はそのままうつぶせになって倒れた。


 

 「なん…なんですか……貴方は…。こんなの…ありえない…。」



 「そんなことはどうでもいい。シェリーアに会わせろ。要求はそれだけだ。」


 少女の背中を軽く踏みつけながら言う。


 「そんな要求…私が…飲むとでも…?」


 弱弱しく強がる少女。俺はためらわず少女の大腿に時の半剣を突き刺した。


 「ぎっ!?…む、無駄です……諦めて…さっさと…殺してください…」


 

 まあ、そう簡単にいくとは思っていなかった。幹部がやられれば親玉が出てくる可能性もある。見た目は同年代に見える少女を効果の保障のない拷問にかけるのもためらわれる。


 俺は時の半剣を少女に向けて振り上げた。



(…っ!?)


 胸に鋭い痛みが走る。何だ?


 今はどうでもいいか。


 

 痛みを無視し、剣を振り下ろす。




 ガキンッ



 

 俺の剣は少女に届く前に阻まれた。







――――――――――――――――――――――――――――――――――――

結局前回から大きく空いてしまいました。申し訳ないです。今度こそ更新を空けないようにします。


 


 




 

 

 


 

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俺の復讐対象は変身ヒロインの敵 八守銀紙 @kiitu

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