第7話 風の精霊と正義の少女

 私の名は士道風夆しどうかざね。精霊姫として人類の敵であるダークナーと日々戦っている。


 趣味は剣を振ること。好きな物は甘いもの全般、好きな人は‥‥まあいい。


 とにかく、私は力ある者の責務として敵を倒さなくてはならない。

 


 「ふむ‥‥、やはり扇風機では無理があったか」



 精霊との親和性を高めるために試行錯誤していたが、なかなか上手くいかない。

 他の皆はできているのだろうか。



 「おっと、もうこんな時間か」


 今日は休日だが部活はある。テスト明けなので久々だ。




 「随分と早いな」


 学校に着くと愁がいたので声をかける。


 「それはお互い様だろ。…って、何かあったのか?浮かない顔をしている」


 愁はとても勘がいい。私の細かい変化にもすぐに気づいたようだ。


 「ああ、少し技の習得に苦戦していてな」


 「お前でもできない技があるなんて意外だな。まあ、力になれることがあれば何でも言ってくれ」


 嘘はついていない。愁は剣術の技だと思ってくれたようだ。


 「ありがとう。だが大丈夫だ」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 「このあと時間あるなら気晴らしにどこか寄っていかないか」


 部活が終わると愁が話しかけてきた。正直、行きたい。しかし私は一刻も早く精霊との親和性を高めなくてはならない。


 「すまない、今は技の習得に専念したいんだ」


 「分かった。頑張れよ」



 

 とはいえ、どうしたものか。帰り道、私は思考を巡らせた。現状できることはほぼすべてやり終えている。やはりスカイダイビングでもすべきだろうか。



 「すみません、少しよろしいですか?」


 突然背後から声を掛けられる。


 「はい、どうしました?」


 長く美しい黒髪の少女。彼女は笑顔で言った。


 「初めまして精霊姫さん。私は黒の幹部が一人、シェルと申します」


 「!?」



 「我が主の命で貴方を殺しにきました」




 即座に距離を取り臨戦体制に入る。



 「精霊よ、私に力を。来い、風鳴」


 変身し、刀を構える。


 

 「……精霊起動。」


 そう呟き、シェルと名乗った少女が黒い衣装を纏う。その姿は精霊姫そのものだった。



 「お前は一体……」



 「闇の精霊、私に力を」


 

 闇、としか表現できない、どす黒い何かがシェルの周りに集まってくる。



 「風の精霊、私に力を。明確な殺意を示した以上、容赦はしない」



 刀に風を纏わせ、距離を詰める。



 「遅いです」


 「くっ…!?」


 刀を振おうとした瞬間、シェルの周りに集まっていた闇が私に襲いかかってきた。


 耐え難い衝撃を受け、吹き飛ばされる。



 「おかしいですね。この程度で強化体を二体も倒せるとは思えません。貴方、仲間の中で一番弱かったりしますか?」



 「だま……れ…っ」



 「図星ですか。まあ何でもいいです。さようなら」



 シェルが手を振り上げると、そこに闇が集まってくる。あれを喰らえば終わりだ。


 分かってはいたのだ。

 中位精霊と契約した愛華、二体の精霊と契約した氷華。

 強化体との戦闘も結局愛華に頼っただけだ。

 

 同じ刀使いとして、復讐者と名乗ったあの男にも到底及ばない。


  

 私は弱い。

 精霊と親和性を高めるというのも上手くいっていない。

 何でも器用にこなす氷華なら、すぐに二体とも親和性を高めてずっと強くなるだろう。



 そんなことは分かっている。

 それでも……



「負けるわけには、いかないっ!」



 風鳴を地面に突き刺す。そして風鳴の纏う風を浴びる。


 もっと感じろ。肌で風を。風をイメージしろ。


 「何をしても無駄ですよ?貴方はここで終わりです」


 風峯を闇が襲う。強い衝撃でコンクリートの地面は砕け、砂埃が舞う。



 「はぁ。強化体を倒したのは彼女ではなさそうですし、他の精霊姫を探しに行きますか」



 シェルは風峯のいた場所に背を向け、立ち去ろうとする。

 


 「まあ待て」


 「!?」


 風峯の周りを球状に風が覆っている。



 「あれを防いだのですか。防御だけは自信があるようで———」



 私は、シェルが言い切る前に、彼女の首に向けて刃を振るった。


 

 「もう、遅いとは言わせない」



 刀は闇に防がれる。そこで固定されたかのように、闇に覆われた刀は動かない。



 「いえ、遅いですよ。何度でも言って差し上げます。貴方では私に勝てない」



 「っ…」


 刀から手を離して距離を取り、刀を消して再び出現させる。


 精霊の力で創り出した風鳴は、自由に消したり出したりできる。

 しかし攻撃が簡単に防がれてしまうのは致命的だ。決定打がない上に相手にはまだ余力がありそうだ。



 私一人では勝てない。だが、仲間がいれば話は別だ。これだけ派手に戦闘をしていれば…



 「愛の鉄拳!」


 「!?」


 シェルは本能的に危険を察知して回避する。



 「間に合って良かった!ここからは一緒に戦うよ!」



 「はぁ…はぁ…速すぎますよ愛華ちゃん。でも、風峯ちゃんが無事で本当に良かったです」




 愛華と氷華。私の頼りになる仲間がやって来た。



 

 「今の攻撃…確かに強化体には荷が重そうですね。いいでしょう。まとめて葬り去って差し上げます」



 

 黒の女王シェリーアの第一の僕、黒の幹部シェルと三人の精霊姫の戦いが始まる。




————————————————————— —————————————



 前回の更新からかなり間が空いてしまい大変申し訳ないです。ここからは頑張って更新していきます。主人公は次回出番があります。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る