第6話 【時】の力と復讐者


 「【時】の力…」



 「そうだ。この力を全て完璧に扱えるようになれば、お前は今とは比べものにならないくらい強くなる」



 「そうか…悪かったな疑って」

 

 

 「全くだ。…だがまあ、あれだ。俺様も黒の女王がどれ程の力を持つのか知っているわけではないからな。無責任に余裕だと言ったのは少し悪かったと思っている。」



 クロンが自分から非を認めた!?

 一体どうなっているんだ。実体を手に入れておかしくなってしまったのだろうか。




 「おい、今失礼なことを考えただろ」



 「なんのことだ?」


 

 「全く、俺様が実体化している時は心の声が聞こえないからといって俺様を敬う気持ちを忘れるのは許さんぞ」



 俺の精霊様はお怒りの様子だ。


 いや待て、今なんて言った??



 「お、おい。まるでお前はいつも俺の心の声が聞こえているみたいな言い方じゃないか」



 「そうだが?ああ、言ってなかったか」



 「俺が毎回周りに聞こえないように声を出してお前と話してた時どう思ってたんだよ」



 「特に何も思ってないが」



 「お前には人の心がないのか」


 「精霊だからな。まあそんなことはどうでもいいだろう。力の扱いを覚えに行くから人気のない広い場所に向え。俺様はお前の中に戻る」



 そう言うとクロンの姿は消えた。実体化はオンオフができるようだ。


 人気のない広い場所って地味にハードル高いな。




 「ここでいいか」



 俺は、歩いて少しの所にある古びた神社にやって来た。神社と言ってもほとんど人は来ないので、ここなら大丈夫だろう。




 『まずお前が使えるようになるのは、自身の時間の流れを早める【加速ブースト】と対象の時間の流れを遅くする【遅延スロウ】だ』



 『【加速】と【遅延】…。1対1の場合は実質同じもののように思えるな』




 『自身と対象の体感時間の差は、【遅延】を使った時の方が大きくなる』



 俺の疑問にクロンが答える。



 『なら【加速】を使う意味をあまり感じないが…。』



 『【遅延】は対象に対して発動させなくてはならないからな。射程距離がある上に相手によっては防がれる。』



 なるほど。無条件に周りを遅くできるのが【加速】、成功すれば対象をより遅くできるのが【遅延】か。

 


 『俺の場合、多数を相手取ることの方が多そうだし、【加速】がメインになるだろうな。』

 

 

 『最終的には同時に両方使えるようになってもらうがな。まずは【加速】からだ』




 「精霊よ、俺に力を貸せ」



 俺の体を灰色の衣装が纏う。



 「時の精霊よ、俺に力を貸せ。【加速ブースト】」



 そう声に出した瞬間、周りが遅く・・なったのを感じる。



 「これが【加速】…かなり有用そうだな」



 『ああ。そっちは扱いやすいから特に練習もいらないだろう。次に行け』



 【遅延】を使うには対象の存在が必要だ。

 

 俺は偶然目についた蟻に手をかざす。




 「時の精霊よ、俺に力を貸せ。【遅延スロウ】」


 蟻はその瞬間動きがスローモーションになった。


 『ここまで変わるなら相当強いな』



 『いや、それはなんの抵抗も持たない蟻だからだ。ダークナー相手はもちろん、その辺の一般人相手でももっと効果は低くなるだろうな』



 強い奴ほど効果が薄れるわけか。やはり重ねがけできるようになることがマストだな。




 

 その後何回か試してみたが、同時に使えるまでには至らなかった。




 『元々すぐにできるとは思っていなかった。今日はここまでだ』



 『残念だが仕方ないか』



 そうして俺は帰路に着いた。








 『灰の精霊使い、【復讐者】。先ほどあの娘たちから報告は受けましたが、なるほど。あなたが手を貸していたのですね。クロン』



 精霊の王は、1人静かに呟いた。






 


 それから数日後、学校では1学期の中間テストが行われた。



 「愁、どうだった?」

 

 

 テストが終わるとすぐに、公司が尋ねてきた。



 「悪くはないと思うが、いつも通りになりそうな予感がしている」



 「ははっ。なら今回も僕の勝ちだね。僕は前回同様上出来だ」


 前回、1年の学年末テストで1位だった公司は今回も自信たっぷりのようだ。



 「二人共!ありがとね、今回も乗り切れたよ」


 幸野が小走りでやって来た。教えた効果はあったようで何よりだ。



 「やはりお二人に頼んでいたんですね、愛華ちゃん。私ではなく、御原君と福島君に。おかしいと思ってました。いつも真っ先に勉強を教えてと頼み込んでくる愛華ちゃんが何も言ってこないのですから。そうですか、私はもう用済みですか」




 「氷華ちゃん!?ち、違うのこれは…」



 親友の水谷に声をかけられた幸野は突然焦り出す。




 「幸野、水谷には頼めないんじゃなかったのか?」



 「え!?あ、いやそれは…」



 俺の質問にさらにしどろもどろになる幸野。



 「どういうことですか、愛華ちゃん?」



 水谷は一見笑顔に見えるが、目が笑っていない。



 「いやその…」



 幸野の話によると、前回水谷が2位になったのは、自分に勉強を教えていたせいだと思い、水谷の負担を減らしたくて俺たちに頼んできたようだ。

 俺たちなら良いのかという話ではあるが、実際俺も公司も特に影響を受けていないので問題ない。



 「四六時中愛を語ってる幸野が、嘘なんてついていいのか?」



 「いや嘘はついてないよ?氷華ちゃんに出された宿題を忘れたのは本当だし」



 あくまで勝手に勘違いしたのは俺たちだと言いたいようだ。



 「へぇ。僕たちはせっかく善意で協力してあげたのに、騙した上で言い訳までするんだね」



 公司の言葉に、



 「すみませんでした!追加で何か奢るので許してください!」


 慌てて謝る幸野。



 「冗談だよ。僕も愁も怒ってないさ」



 「本当!?」



 幸野は俺の方に視線を向ける。




 「ああ、だが水谷は違うよな」



 「はい。私は怒ってますよ愛華ちゃん。気持ちは嬉しいですが私に一言もなく御原君たちと勉強会なんて…」




 水谷としては親友の幸野に頼って欲しかったのだろう。




 「ごめんね氷華ちゃん。次からは気をつけるよ」



 それを理解した幸野も素直に謝った。




 「まあ、それはそれとして、愛華ちゃんの気遣いのおかげで今回は1位を取れそうです」



 「へぇ、それはどうかな」



 一転して自信を露わにする水谷に対し、公司も対抗するように言った。




 「そうだ、風峯ちゃんも誘ってみんなでお疲れ様会しようよ。今日まで部活休みでしょ?」




 突然思いついたように幸野が提案する。



 「ああ、いいな」


 「もちろん賛成だよ」


 「いいですね。行きましょう」



 「やった!じゃあ風峯ちゃんにも声かけとくね!」




 ダークナーと精霊姫の戦い。俺の復讐。多くのものを抱えながらも、俺たちの学校生活は続いていく。





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 ここまで読んで下さりありがとうございます。

 次回、「風の精霊と正義の少女」です。士道風峯の掘り下げ回となります。

 


 

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