第56話 ホロウの能力って?

「ううっ……ま、眩しいね」

「そうね。久々の陽射しだわ」


 ソラとホロウは泥窟の森の中にある泥窟から抜け出た。

 久々に感じる強烈な日差しに全身が焦がれると、顔を手で覆って陽射しを避けた。

 ようやく安心を得ることができたので、ソラは胸を撫で下ろす。


「良かったぁー」


 女の子みたいだった。ソラは自分でも思いつつ、今は勝利の余韻を無事に泥窟の中から出られたことに安堵する。


「うん。上々ね」


 ヘドロスライムの魔石をホロウは持っていた。

 クレーターの様になった地面の中に落ちていたものを回収したけれど、奇跡的に魔石には目立った傷はなく、買取に出しても問題なさそうだった。


「良かったね。魔石も手に入って」

「そうね。やり方は滅茶苦茶だったけど」

「うっ、そ、それは言わないでよ。ねえ、みんな?」

「民意に委ねないの。それにまだ配信していたのね」

「い、一応ね。だけどノイズが走ってるから、多分カメラドローンの映像に乱れが生じちゃったのかも。あんな爆発、普通に機械にも良くないもんね」

「描写的にもね」


 ホロウの言う通りだった。流石に滅茶苦茶で過激だったと自分でも納得したソラ。

 しかし映像には残っていないみたいで安心した。

 胸をまたしても撫で下ろすと、載っているから分からないけれど、配信を終わることにした。


「えっと、映っているかは分からないけどね、今日は観てくれてありがとう。ちょっと危ない戦い方をしちゃったけど、みんなは絶対に真似しないでね。それじゃあ、またね。バイバーイ!」

「何しているのよ?」

「ええっ!?」


 ソラは可愛らしく手を振ってみた。

 それを見ていたホロウはソラのことを冷めた目で見る。

 そんな目をしないで欲しかったけれど、ホロウらしいと言えばホロウらしかった。


「ホロウらしいと言えば……さっきははぐらかされちゃったけど、ホロウの能力って何? 今回もこの前もだけど、変わっている能力なのは判るけど……」

「鈍いわね。まだ気が付かないの?」

「に、鈍いって……ヒントが全然ないから」


 突然相手が押し潰されたり、目の前に透明な壁ができたり、謎に剣が透明で増えたり。

 ホロウの能力はトリッキーすぎて検討も付かない。

 そんな中、ソラは頭を使う。脳をフル回転させて出てきたのは突飛な発想。


「視えない能力とか?」

「……何で三割くらい当てるのよ」

「ええっ、そんなシンプル……いいや、トリッキーな能力が本当にあるの!?」


 まさかの回答にソラは驚いてしまう。

 するとホロウは仕方ないとばかりにソラの前で軽く能力を披露してくれた。

 何か思う所が有ったみたいで、少しだけ見せてくれる。


「どうせ見えないからやって見せてあげるわ。私の能力はね……」


 ホロウは地面に手を添えた。

 素手で触れることが条件なのか、わざと手袋を外す。

 すると能力が発動し、ソラの体が上から押し潰されそうになり、地面にへばりついた。


「ぐへっ!?」


 変な声が出た。一体何が起きたのかまるで分らず、ホロウが手を離すと重みは消える。

 全く見えないし、全く分からない。もしかして触れたものを透明でコピーするとか? 何となくソラの中で仮説が立つ中、ホロウはもっと異次元なことを伝える。


「私の能力はね、私が触れたもの・・・・・・・幽霊を生み出す・・・・・・・の」

「えっ、えっ!?」

「もちろんただの幽霊じゃないわよ。私の幽霊は実体・・・・・・・を持つ・・・の。条件は素手で触ること、手を離したら解けること、この二つさえ守れば私の能力は無敵よ。……ちょっと聴いてるの?」


 もう何を言っているか分からなかった。

 だけど何も言わないのは悪いので、とりあえずストレートに思ったことを伝える。


「変わった能力だけどカッコいいね。幽剣って感じがする!」

「それって褒めてないわよね?」

「そんなことないよ。幽剣らしい能力って言うか、カッコいいし便利だよね! ちょっとだけ不気味かもだけど、僕は好きだよ」


 ソラはニコッと笑みを浮かべた。

 するとホロウは緊張したのかそっぽを向いてしまう。耳の先が少し赤いがソラには伝わらない。


「ふん。私の能力をそんな風に評価してくれるとは思わなかったわ」

「正当な評価だと思うけど? かなりの強能力って言うのかな?」

「強能力? それを言うならソラだってそうでしょ?」

「そ、そんなことないよ……とは言い辛い」


 ソラの能力自体はヘンテコ。だけど二人の能力はとっても凄い。

 評価が難しくて言葉を噤んでしまうが、とりあえずお互いの能力はこれである程度分かり合えた。


「ホロウ、今日は楽しかったよ」

「そう? まあ、私もぼちぼち楽しかったわ」

「えへへ、お世辞でもありがとう。それじゃあ帰ろっか」

「そうね。このダンジョンに今日はもう用は無いわ」


 ソラとホロウは歩き出した。

 ダンジョンから出ると真っ直ぐ駅へと向かう。

 お互いに軽い会話を交えながら歩く中、少しだけマイルドになった空気感にソラはようやく友達になれたかもと喜ぶのだった。

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メンタル雑魚なお絵描き配信者はダンジョンで顔バレした。登録者が爆発的に増えたけど素直に喜べない性格難です! 水定ゆう @mizusadayou

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