第55話 炎と光の共演

 何が起こったのか。洞窟の中に開いた広い空間でたちまち閃光が起こった。

 眩い輝きが視界を奪い去ると、とてつもない轟音が音を凌駕して高熱を帯びさせながら全てを破壊しつくした。

 本来ならそこには何も残るはずがなかった。

 発生したメタンガスにソラの炎が引火して、全てを粉々にしてしまうからだ。

 けれど——


「うっ……げほっげほっ!」


 ソラは咳き込んだ。粉塵が飛び散り、空気が澱んでいた。

 おまけに視界が薄っすら白い。多分飛び散った岩の破片のせいだと思ったが、それよりも驚いたのは自分達が生きていること、ヘドロスライムが跡形もなく居なくなっていたことだった。


「へ、ヘドロスライムが居ない?」


 首を捻ったソラ。先程まで激闘を繰り広げていたヘドロスライムが木っ端みじんに吹き飛び、小さくなっても二メートルは有った体が無くなっていたのだ。

 こんなことが本当に起きるなんて。一歩間違えれば自分達もこうなっていたのかと、ソラは我ながら冷たい汗を掻き恐怖を感じた。


「ううっ……頭が痛いわね」

「ホロウ、大丈夫?」

「ええ、何とかね。さっきの爆風に合わせるのは流石に骨が折れるわ」


 ホロウは頭を押さえていた。岩の破片が当たったわけでも何か持病を発症させてしまったわけでもない。

 単純に軽い脳震盪を起こしてしまってちょっぴり辛そうだった。

 けれど目の前の惨状を目の当たりにするとそうも言っていられない。

 唇を微かに動かして、目の前の光景を表現した。


「鉱山みたいになっているわね」

「鉱山? た、確かに地面が抉れているもんね」


 ヘドロスライムが居たはずの地面はダイナマイトでも使ったみたいに抉れて無くなっていた。

 周囲も焦げ付いていて、ボコボコと穴ができていた。最初来た時には無かったはずなのに、さっきの爆発と爆風でこんな事態を引き起こしてしまったとなれば、我ながら引いてしまうのも無理はない。


「こ、こんなことになっちゃうなんて」

「何? 想像していなかったの?」

「してたけど……流石にこんなに酷いことになるとは思ってなかったよ。天井だって……」

「今にも崩れそうね。流石にメタンガスにこんな真似、精神を疑うわ」


 ホロウにドン引きされてしまった。

 絶対に真似しちゃダメ。それだけは固く警鐘を鳴らす。

 こんなことダンジョンの中だから、ファンタジーだからできたことで、実際には絶対にやってはいけない。最悪死人が出る。今回無事に生き残れたのも、ソラとホロウの能力があってのことなので、絶対にしてはダメ・・・・・・・・だと固く誓った。


「もうこんな真似はしないよ」

「そうね。今のは運が良かっただけよ……それで、さっきは何をしたの? 炎を使ったのは分かったけれど、如何して私達は無時なのかしら?」


 ホロウは当事者であるソラに尋ねた。

 するとソラはたどたどしく答えた。


「無我夢中だったんだけどね、何となくこれならできるかもって気がしたんだ」

「これならできる? 一歩間違えば死ぬところだったのよ?」

「そ、そうだけど……でもね、僕のこの光の能力は固体以外だったら絶対に排除できるんだ。爆風も爆炎も全部光で受け止めちゃえば軽減できるんじゃないかって……だからそれが上手く嵌って……」

「つまりは偶然を必然に書き換えたってことね。大した幸運よ」


 ホロウはソラのことを褒めた。だけどソラは全然褒められた感じがしなくて心が痛くなる。けれど今回は光だけが活躍してくれたわけじゃない。ちゃんと炎も活躍してくれた。


「光で熱と光と衝撃から身を守って、炎を使って粉塵を飛ばした。その間もメタンガスの脅威はあったけど……」

「それは大丈夫。ヘドロスライムの中で爆発させたから、使ったのはヘドロスライムの中にあった少ないヘドロだけだよ」

「そう言うことね。まあ確かに、飛び散ったヘドロの中にはメタンが含まれていたはずよね。だけど実際問題充満していたらもっと早く倒れていたわ」

「そう言うことだよね。最後には勇気と見通しで勝てたって言うか……そうだホロウ!」

「な、何よ急に?」


 ホロウにも聞きたいことがあったソラはついつい叫んでしまった。

 耳を抑えて怪訝そうな顔をホロウは浮かべる。それでもソラは如何しても気になることがあったのでホロウに尋ねた。


「ホロウも何かしてくれたんだよね? 急に爆発の威力が殺されたから」


 ソラは感覚的に伝わっていた。

 ホロウが何かをしてくれた。突然の目の前に壁でも現れたみたいで、威力を殺してくれた。

 如何やったのかは分からない。けれどそのおかげで助かったと言っても過言ではなかった。


「本当にありがとう。ホロウのおかげだよ」

「……ふん、私のためでもあったから感謝される筋合いはないわ。それより、早く魔石を回収して外に出るわよ。メタンガスも適当に抜けていると思うけど、こんな所に長居したくないわ」


 ホロウはそう言うとクルンと振り返った。

 顔色を窺うことは叶わなかったけれど、何処となく耳の先が赤かったが、ソラにはなかなか伝わらなかった。

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