第54話 爆風に飲まれて
ソラは焦ってしまった。
一体如何したらこの状況を切り抜けることができるのか。
ソラは顔色の悪いホロウを見ながら、まずは左手の能力を使う。
「セレスさん、力を借ります」
ソラはホロウの口元にセレスの光りを当てた。二酸化炭素の流入を抑え込むと、ホロウの表情が少しだけ楽になる。
それを見てホッとしたのも束の間。ここまでまともな攻撃をほとんどしてこなかったヘドロスライムが畳みかけてきた。
「ぐぎゃぁぁぁぁぁ!」
ヘドロスライムの体から二本の槍が伸びた。
さっきは一本だったけど、今度はヘドロが棘の形にもなってニードルランスが飛んでくる。ソラはホロウを抱えて距離を取ろうとするも、槍の方が速くてバックステップが間に合わない。
それをいち早く感じ取ったソラは少しだけ炎を灯して、右の拳を叩き込んだ。
ジュワ!
炎が水分を蒸発させる。
ヘドロだけが地面に零れ落ちると、槍は回避することができた。
幸いにも爆発もしなかったので一安心したのだが、ヘドロスライムに有効打が与えられたわけでもないので依然ピンチは変わらない。
「ホロウ無しだと、僕の攻撃方法は剣で叩きつけるか、炎で殴るしかないけど……如何したら」
こういう時は視聴者の意見も気になる。
一応参考にしようとしたのだが、何故かスマホがバグっていた。
映像が乱れていて、コメント欄何て見ることも出来ない。
もしかしたら今になってさっきの爆風の影響が出たのかもと、ソラは遅れながら思った。頭を抱えそうになる中、ソラはヘドロスライムの攻撃を躱しだす。
「とにかく攻撃を避けながら方法を考えないといつまでたっても倒せないよね」
ヘドロスライムは体の一部を槍状にして飛ばしてくる。
そのどれもが炎に触れると勝手に消滅してくれるけれど、その分的が小さくなっていた。
細く繊細な槍が次々打ち出されていてなかなか躱すのもしんどくなってくる。
けれどソラは一つ疑問を浮かべた。
(なんでヘドロを落としていくんだろ。体の一部のはずなのに、如何して?)
ここまでずっと疑問だった。メタンガスを発生させるためにヘドロを落としていくのなら、もっと効率的な方法があるはずだ。
まるで探索者に攻撃させてヘドロを落としているような、いわばこれはヘドロスライムがわざと体を切り離しているように感じた。
その違和感に気が付いた瞬間、ソラは「はっ!」となった。
「そっか、そう言うことだったんだ」
ソラはあることに気が付いた。ヘドロスライムはヘドロ何て如何だっていい。ヘドロはあくまでも自分の中にある不純物で、攻撃させることで本来の姿に戻ろうとしていた。
だってそうでもなければこんなに攻撃の速度もキレも上がっていない。
ソラはそのことに気が付くと、一つ懸念が浮かぶ。もしかしたら
だけどそれに頼るしかない。ソラは覚悟を決め、ホロウの身を一番に案じた。
「ホロウ、ごめんね。今から賭けに出るから……」
「か、賭け?」
ホロウはもうろうとする意識の中、ソラの言葉に耳を傾けた。
如何やら聴こえていたようで安心したソラだったけれど、下手なことは言わずに後は任せて貰うことにする。
「ここまで頑張ってくれてありがとう。だから後は僕に任せて。信じて欲しいとは言わないけれど、今の僕にはこれしか倒す手段が無いんだ。大丈夫、ホロウだけは……」
「馬鹿なことを言わないでくれる? 私も、自分の身くらいは、自分で守れるわよ」
強がりを言っているようにしか聞こえない。
だけどホロウの言葉は強くてソラはその言葉を受けて少し嬉しかった。
まだ目に闘志は消えていない。ソラはその想いを尊重した。
「ありがとうホロウ」
「いいわよ、別に。それで何をするのよ?」
「えっとね、ちょっと、ごめんね」
ソラは細い腕でホロウの体を引き寄せた。
突然のことにホロウは驚いて「きゃっ!」と声を上げたけれどソラは気にせず、カメラドローンも引き寄せた。
とりあえずこれで良し。そう確信するソラは「行くよ!」と言ってから走り出す。
「ちょ、ちょっと、急に何するのよ!」
「決まっているでしょ。炎を叩き込むんだよ」
ソラはヘドロスライムに突撃する。
たくさんの槍状に分裂させたかヘドロスライムの体が襲い掛かるが、そのどれもギリギリのところで躱していく。全部直線の動きしかしないから慣れれば避けるのは簡単だ。
後は炎の拳を叩き込むだけ。
ソラはそれだけを考えて突っ込むと、ヘドロスライムの懐に飛び込んでいた。
「これで終わり。これで終わりにするんだ!」
ソラは炎を灯した拳をヘドロスライムの中に叩き込んだ。
するとブニョっとした感触が肌を痛感させるが、何かに引火する感覚が脳を貫く。
それに合わせて拳を引き抜くと、たちまち閃光が巻き起こりとんでもない爆発と爆風をヘドロスライムの中で起こった。当然ソラ達も巻き添えを喰らうと、映像は完全に消失した。
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