第53話 ヘドロスライムの反撃

 ヘドロスライムはあの爆発でも体を小さくする程度に留めていた。

 まさか的が小さくなっただけなんて信じたくはないけれど、実際ヘドロスライムの耐久力は異常で、ソラとホロウの攻撃もほとんど意味がなかった。


「爆発にも耐えて来るなんて思わなかったわ」

「ど、如何やって倒すの?」

「知らないわよ」

「ご、ごめんなさい」


 ホロウはソラのことを睨みつけた。今見えていることを言われそこさえても仕方ないのだ。

 だけどホロウは何か掴んでいた。ソラは如何しても気になる。


「ホロウ、こういう時は如何したら良いの?」

「如何したらも何も無いわ。とにかく切り刻む、押し潰す、破裂させる。それだけのことよ」

「ぐ、グロい……」


 ホロウの発言はかなり危機感を抱かせた。

 ソラは息がつまりそうになるものの、その後にこう続けた。


「モンスターの体の何処かには必ず弱点に当たる魔石がある。そこさえ砕ければ、どんなモンスターだって体を維持できない。言いたいこと、分かるわよね?」

「う、うん。魔石を砕けばいいんだよね? それじゃあ……」

「とにかく攻めてあるのみよ」


 ホロウは再び地面を蹴った。急速に接近すると、小さくなったヘドロスライムに剣を叩き込む。二刀流なので攻撃の手数も倍。ヘドロスライムの体が無情にも切り刻まれた。


「くぎゅぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 ヘドロスライムが絶叫した。もしかして攻撃が効いているのかも喜ぶソラだったが、それは空回りに終わる。

 ホロウは気が付いていた。全く手応えがない。ヘドロスライムは絶叫を上げているもののダメージなんてないのだ。


「ぼ、僕も!」


 ソラも剣を構えてヘドロスライムに切り込む。

 光で口元を覆うことでメタンガスの脅威から逃れると、ヘドロスライムに接近して勢いよく剣を叩き込んだ。のだが……


 カキーン!


「「あっ!」」


 ソラとホロウのヘドロスライムに叩き込んだ剣がぶつかり合った。

 お互いに競合してしまった上に、的が小さいのでぶつかっても仕方がない。

 しかしその隙を付いてヘドロスライムは体を伸ばした。


「「うわぁ!?」」


 ヘドロスライムの体が変幻自在に伸びると、鋭い槍状になった。ここまでしてこなかった動きのせいで避けられない。

 ソラとホロウの二人は直撃を喰らってしまった。

 グサリと急所を直撃される寸前で身を捻って何とか軽傷で済んだ。


「あ、危なかった」

「そうね。でもまさか、こんな動きまでできる何て聞いていないわよ」


 ホロウは腹部を少し押さえていた。対してソラは能力を使って体を治す。

 早くホロウの体も治してあげたいけれど、場所が場所なだけにセンシティブだ。

 恥ずかしくなったソラだったけど、そんなこと言ってられないと悟り、ホロウの体も治す。


「ホロウ、怪我見せて」

「ちょっと何するのよ。私の脇腹触って……」

「いいから。怪我を残したままじゃダメでしょ!」


 それに今のソラの体は女の子になっている。だから意識を女性にだってできた。

 二面性を持っているからこその能力だけど、今回は本当に助かった。


「これで良し。大丈夫、ホロウ?」

「大丈夫だけど……うっ、ヘドロスライム恐ろしいわね」


 何故かホロウの顔が赤くなった。完熟した林檎みたいになっていて、何か恥ずかしいことでもあったのかなと、ソラは首を捻った。完全に朴念仁状態だが、ソラにはまるで伝わらない。

 カメラにも映らないように配慮させたので視聴者にも伝わらなかった。


「それより如何しよう。近づけないってことも分かったよ?」

「近づいてもダメ。いくら切っても魔石に触れられない。こうなったらアレをやるしかないわね」

「アレって?」


 ホロウは手袋を外した手で地面に手を添えた。

 ソレから何かしようとするものの、急に口を覆った。


「うっ!」


 嗚咽を漏らしてしまった。目がドンドン乾いていき、咳き込み始める。

 全身から汗が出始めて、喉を手で押さえていた。


「ホロウ如何したの!」


ソラはホロウの体を支えた。

するとソラも気持ちが悪くなり、頭を抑えてしまった。

一体何が起きたのか、一瞬分からなかったけれど、コメント欄を見て気が付いた。



“メタンガスが出てますよ”



そうだ。さっき爆発で吹き飛ばされたヘドロスライムの体の破片がそこら中に飛び散っていた。その全てはヘドロ、つまりメタンガスを溜め込んでいたものだ。

 それが気化し始めた。そうなれば今ソラとホロウは気化し始めたメタンガスのすぐそばに居ることになる。


「このままじゃマズい……何とかしないと」


 ソラはまだ大丈夫だった。あまり動いていないせいで酸素が十分にある。

 けれどホロウは違った。ここまで最前線でソラの代わりを果たしてくれていた。

 足りない攻撃力をアグレッシブに剣を叩き込むことでカバーしていたが、そのせいで供給できる酸素量が減っていた。しかも洞窟の中の広い空間なので二酸化炭素の逃げ道も薄い。完全に酸素欠乏症の寸前に立たされていて、ソラは如何したら良いのか分からなくなってしまった。


「如何しよう……如何しよう」


 今何をしたら良いのか。何が最善なのか。

 ソラの雑魚メンタルがドンドン焦りの色に染まっていくのだった。

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