第52話 ホロウの二刀流
ソラの前に映るホロウはとってもカッコよかった。一枚絵にもなってくれるほど威勢良く構え、華奢な体付きにもかかわらず故にカッコよさが引き立つ。
「カッコいい……」
ソラはポツリと呟いた。
するとコメント欄も同感な様子で、たくさん溢れ返る。
“ホロウちゃんカッコいい”
“まさかの二刀流”
“スタイル良いよなー”
“白髪映える”
“ソラさんも可愛いよ”
“ビジュアルなら負けてない!”
喜んでいいのかソラは分からなかった。
だけどふと視聴人数を見てみると、脅威の2,000人超えていた。
びっくりして声を出せなくなる中、ホロウは早速と駆け抜ける。
「それじゃあ行くわね」
「待ってよ。ホロウも臭いは大丈夫なの?」
「一時的なら臭いも排除できるわ。とは言えあくまで一時的、それにこの剣が必ずしも有効とは言えないから……」
ホロウは最初から勝きではいた。
けれど確証の無さが出始めるが、それすら振り切ってホロウは走り出す。
「一気に切り付ける」
ホロウは脚のバネを巧みに使い、ヘドロスライムに近づく。
対してヘドロスライムは特に何もすることはなく、ホロウの攻撃に備える。
しかし舐められているならそれでもいい。ホロウはその油断を逆手にとって一気に切り込む。
「私を舐めてくれても良いけど、それで痛い目に遭うわよ」
ホロウは左手の剣で切り付けた。さらに続けざま、右手で持った剣でも切る。
十字架状の細身の剣がヘドロスライムの体をスパスパ切って、空中に体の破片を撒き散らした。
「す、凄い……早いし、カッコいい」
ソラの目にはホロウの姿がすぐ近くに映った。
ヘドロスライムが舐め切っていなくても圧倒的な剣術を前にドンドン体がバラバラにされていた。
空中に撒き散らされた泥の体も容赦なく切り刻み、完全にホロウの独壇場へと変わる。
ソラの入る隙など有りはしない。
「やっぱり役に立ててない……」
ソラは落ち込んでしまった。手をパンと叩いてみると、右手から炎が出た。
まだメタンガスが充満しきっていないのか、爆発まではしないものの、ヘドロスライム相手に易々と使えないのは変わらなかった。
“大丈夫ですよ。ソラさん可愛いから”
「やっぱりビジュアルなのかな?」
ふと見つけたコメントにムカッとした。
この状況で何もできないのは流石に論外。自分の中でそんな気がして仕方なかった。
「くっ……はぁはぁ」
ソラはホロウの荒い息遣いを聞いた。
背中が丸くなっていて、ヘドロスライムをバッタバッタと切って行ったせいで、剣にも泥がたくさん付着していた。
そのせいで切れ味は悪くなり、おまけに動きすぎたせいで体力も使っていた。
ヘドロスライム特有の臭いもさることながら、全くと言っていいほどヘドロスライムにダメージが無いのが心を折ってくる。
「しぶといわね」
口を拭った。ホロウは額から汗を流していた。
慣れない二刀流を駆使したものの、そのせいで動きにムラが生まれてしまったらしい。
つまりは悪手だった。ソラが戦えない分を補うために突貫戦法だ。
「ホロウが疲れてる……僕も炎が使えないけど、一発くらいなら」
ソラは拳を握った。まだメタンガスが溜まり切っていない。
だったら一発くらいは入れてもいいはずだ。
ソラは地面を蹴った。ホロウの背中を捉えると、口から泥を吐き出そうとするヘドロスライムを目撃した。
このままじゃマズい。そう思ってソラはホロウの前に出た。
「ソラ!?」
「一発くらいはできても良いよね! そりゃぁ!」
ソラは吐き出された泥に拳を叩き込んだ。
着火剤にされた泥は蒸発してしまいメタンガスを微かに発生し、ソラの拳から出た炎が混ざり合う。
その結果、とんでもない爆発を引き起こし、ソラとホロウは後ろに吹き飛ばされ、ヘドロスライムの体にも風穴が開いた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「くっ……地面!」
ホロウは吹き飛ばされながら地面に手を付く。
ソラとホロウの体は爆風を浴びてしまったが、それほどダメージはない。ダンジョン特有の身体能力強化で、大事には至らなかった。
しかも何故か服も破けていなかった。
まるでソラ達の目の前に巨大な壁でも現れたみたいに防護してくれた。
ソラは驚きつつも、もっと驚いたのは、自分がホロウの上に乗っていたことだ。
さっきの爆風のせい、つまりは事故なのだが、ソラは顔を赤くした。流石にこれはマズい。
「重いんだけど」
「あっ、ご、ごめんね。大丈夫?」
「何とかね。くっ……それにしても爆発させるなんて……最悪」
「……ごめんなさい」
ソラは心に楔を打ち込まれた。
ホロウは全く悪気は無いんだろうけれど、ソラにとってはクリンヒットしてしまう。
一人面目ないと思いつつも、今の攻撃でヘドロスライムにもダメージがあったのは確実なので、どちらとも言えない。
「本当に一長一短ね」
「そ、そうだね。だけど爆散して……ないんだ」
ヘドロスライムは体を半分くらいにしていた。
残りは蒸発してしまいヘドロを地面に残して消えた。
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