第51話 ヘドロスライムに無力

 ホロウは果敢に攻め込んだ。

 剣を構えヘドロスライムへ叩き込む。


「とりあえず一撃ね」


 ヘドロスライムに剣身が触れた。

 スパッと、ところてんでも切るみたいに容易く剣身が入る。

 だけどヘドロスライムは一切動じることなく、逆に切った部分から灰色の液体が噴き出た。


「き、汚いわね……」


 ホロウはまたしても体を捻った。

 飛び散ったヘドロ液は剣で弾き飛ばしてしまった。こんなことができる何てと、ソラは遠目で目を見張った。


「す、凄い……」


 ヘドロスライムはほとんど何もしていない。体から噴き出たヘドロ液に攻撃性は全く無い。だけどホロウは全部避けていた。つまりヘドロスイムの方が優勢だった。


「ホロウ、僕も行くよ!」

「ソラって何ができるの?」

「ほ、炎を出すことくらいかな?」

「……炎?」


 ホロウは首を捻った。如何やらソラがどれだけ火力を出せるのか気になるようで、何も言わなくてもソラは判った上で右手から炎を出す。


「なるほどね。頼もしいわ」

「あ、ありがとう……」


 ホロウは頼りになると見た。普通に褒められてソラは嬉しくなる。

 けれどその炎を見たヘドロスライムは急に挙動を変えた。


「ぐぎゅぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 ヘドロスライのは閉じていた口が開いた。

 大きく裂けた口内には、ヘドロでできたドロドロの牙が何本も生えていた。


「な、なになに!?」

「急に発狂したわね。まさか炎が嫌いなの?」


 その見立ては正しかった。ソラが一歩前に出ると、ヘドロスライムは体をプルプル震わせる。

 もしかしてこの炎があれば勝てるのでは? とソラは薄っすら嫌な予感がしつつも勝ちへの活路を開いた。しかし、ホロウはいち早く気が付いた。


「待ってソラ!」

「えっ!?」


 ソラは立ち止まった。その瞬間、ヘドロスライムは圧倒的な巨体にもかかわらず、体重が軽いのか急に飛び上がった。

 ピョコンとドーム状の空間の天井付近まで飛び上がると、巨体と臭いを活かしてソラへと落ちてくる。


「ま、待ってよ。流石にそんなのに踏まれたら!」


 光を使っても意味がない。固体に対しては無力だからだ。

 だからこそソラは急いで緊急回避しながら炎を放った。

 するとヘドロスライムの体からポタポタと泥の水滴が落ちてきて、ソラの炎の余波を受けて蒸発した。


「うっ……」


 ソラは顔をしかめた。とんでもない臭いが充満し始めて、鼻を抑えてしまう。

 けれど何とかのしかかり攻撃を回避することはできた。

 とは言え臭いは充満し始め、頭が痛くなる。


「あ、頭がクラクラする……」

「マズいことになったわね。ソラ、最悪勝てないわよ」

「えっ、な、何で!?」


 ホロウと合流したソラはお互いに剣を構えた。

 ヘドロスライムは悠然とした姿でヘドロの体をドンドン溶かしていく。

 自分の周りにヘドロ液を撒き散らせ、ソラ達が入って来れないように防御を固めた。


「ホロウ、何でこんなことになったの?」

「臭いの原因は察しが付くでしょ?」

「ヘドロの臭いだよね。もしかしてさっき蒸発した時に、ヘドロの臭いだけが濃くなっちゃった?」

「そういう事よ。それだけ頭が回るなら、クラクラした原因分かるわよね?」


 ホロウはソラに促した。

 一体何が原因なのか。ソラは少しだけ考えたが、すぐに答えに辿り着いた。


「メタンガス?」

「そういう事よ。メタンによる頭痛と吐き気、おまけに炎は完全に封じられたわ」

「うっ……僕の出番が完全に無い……」


 ヘドロの中にはメタンガスが溜まっている。

 メタンは頭痛や吐き気に繋がるし、ソラの能力で唯一の攻撃に繋がる炎が完全に封殺されてしまった。

 何もしていないのに実質炎メタなヘドロスライム相手には、いくら強力なソラの貰った炎で無力になってしまう。


「如何しよう。これじゃあ僕、まともに攻撃できないよ」

「光も使えるんじゃなかったかしら?」

「アレは駄目だよ。光は固体には効かないから……あれ?」

「固体に効かないんだったら固体以外に使えばいいでしょ?」


 ホロウの言っていることは遠回しだったけれど、空にはバッチリ伝わる。

 対してコメント欄でははてながたくさんついていた。

 とは言え説明するような余裕は無く、ソラは別の意味でパニックになる。


「で、でも……僕は戦えないよ?」

「確かに炎が封じられちゃったら有効な能力でもないわね」

「うっ!」


 痛いところを突かれてしまった。胸が苦しくなってくる。

 しかしながらホロウは特に気にしている様子はない。

 嵌めていた手袋を外して剣を握り直すと、もう片方の手を前に出した。


「ホロウ、何しているの?」

「決まっているでしょ? 戦えないソラの代わりに私が頑張るのよ……もちろん、最初から一人でも勝つ気だけどね」


 そう答えると、ホロウの剣を握っていないはずの手にいつの間にか半透明な剣が握られた。

 ぼんやりと幻影のように浮かび上がる剣を握りしめると、ホロウは威勢良く構える。

 細い長剣の二刀流。ソラはホロウのスタイルの良さも相まって、画になるカッコ良さだなと思った。

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