第50話 ヘドロでできたスライム

 ホロウは嫌な予感がした。これはあくまで経験からだが、それを踏まえてもこの泥の臭みは異常だった。

 ホロウは鼻を押さえていて、眉根を寄せている。


「ホロウ、何かあったの?」

「ちょっとマズいことになったわね」

「ま、マズいこと!?」


 ソラは怯えた。しかしホロウは自分でそう言っているはずなのに、何故か冷静沈着だった。

 この後の判断を如何するか。舵取り次第でモンスターとの戦闘は免れなかった。


「ソラ、ちょっとモンスターと戦うことになるわよ」

「えっ!? も、モンスターと戦うってことは……強いモンスター?」

「それは如何か分からないけど、この先に何か居ることは確かね」


 ホロウの口調は穏やかではあるものの、警戒しているのが伝わる。

 ソラはゴクリと喉を鳴らしたが、ホロウの視線がずっと地面に合った。

 何を見ているのか気になるが、ホロウがライトを離すと急に泥が動き出した。


「キャッ!?」


 ホロウの珍しい声を聴いた。ソラは驚いてしまったが、地面の上を何か這ったのを確認する。

 カメラドローンも捉えていて、コメントがたくさん流れた。



“何だ今の!”


“モンスター?”


“にしては小さいような……しかも洞窟の奥に行ったぞ”


“行ってみるしかないっしょ!”



 コメント欄は呑気だった。けれど別にそれに応えるわけではないものの、ホロウは洞窟の奥へとスタスタ歩いていてしまう。

 ソラは手を握ったまま如何するか悩んだ。

 けれどホロウを一人で行かせる訳にも行かないので、ソラは背中を追いかけた。


「ま、待ってよ!」


 ソラはホロウを追いかけた。

 するとチラッと視線がソラへと向いた。


「ソラも行くのね」

「い、行くよ。だってホロウが一人で行ってるんだもん」

「それはいつものことよ」

「で、でも今は二人でしょ? ほら、単独行動は危険って言うでしょ。それと同じだよ」


 ソラの言うことはもっともだった。

 ホロウは「ふーん」と言いながらその言葉に従うと、揃って洞窟の奥に向かうことを選択した。


「ソラ、能力はどれくらい使えるようになったの」

「えっ?」

「能力よ能力。最悪私も能力を使うけど……できれば使う相手じゃないといいけど……」


 ホロウは黙ってしまった。洞窟の奥が見えてきた。

 道が少しずつ広くなっていて、奥へと通じる広い空間に出た。


「なるほどね。洞窟の奥はこうなっていたわけ……」

「空間が広いね。で、でも何か……アレ?」

「案の定何か居るわね。しかも見て、さっきの泥がゆっくり地面を這ってるわよ」


 ソラはようやく把握した。

 すると地面を這っている泥が何かに向かっていた。

 洞窟の奥、その広い空間の真ん中に大きな塊の姿がぼんやりと浮かんでいた。


「な、何アレ?」

「アレがこの洞窟のボスモンスターみたいね。しかもこっちにはまだ気が付いていない……帰るなら今よ?」

「か、帰るの?」

「ふっ……その表情を見るからには……はっ!」


 ホロウは剣を抜いて地面を蹴った。

 すると華奢な体からは考えられない程動きは素早く力強い。

 そのおかげで目の前にいた塊の姿が光り出し、姿が露見されるのと同時にホロウの剣が切り付けられた。


「プギュゥ!」


 可愛らしい鳴き声が聞こえた。

 しかし同時に塊の中から何かが噴き出た。


「うわぁ!?」


 ホロウは何か噴き出て喰らいそうになる。

 けれどホロウはバク転したり側転をしたりして上手く躱した。

 けれど服の袖の部分に液体が付着してしまい、黒いシミになった。


「うっ……」

「ホロウ大丈夫? な、何この臭い……」


 ホロウは渋い表情を浮かべ、ソラは鼻を押さえた。

 気持ち悪い。頭が痛くなってくる。

 何だかやる気を削がれてしまい、額の上部を抑えていた。


「ホロウ、何でこんな泥みたいな臭いがするの?」

「そんなのあのモンスターに言いなさい」

「モンスターに言いなさいって言われても言葉通じないよ。それにアレって……スライムだよね?」


 懐中電灯の光りのおかげでモンスターの正体が判った。

スライムのようだけど、あまりにも大きい上に色合いも何処か黒くて、はっきり言って灰色になっていた。


「このモンスターは多分ヘドロスライムね」

「へ、ヘドロスライム!?」

「そうよ。この臭いもね」

「じゃ、じゃあその泥の臭いの正体ってヘドロってこと? うえっ」

「ちょっと、掛かった本人の前で言わないでよ」


 ホロウは表情が怒り顔になった。

 ソラは「ご、ごめんなさい」と謝るものの、ホロウは特に気にする様子はなかった。


「まあいいわよ。この臭いの落とし前はヘドロスライムに取って貰うから」

「でも、ボスなんでしょ? 強いんだよ?」

「そんなこと言っている場合じゃないでしょ。それにもう逃げられないわ」


 ホロウはそう言った。

 振り返ってみると何故か洞窟の出口が遠く感じる。

 もしかして怒らせちゃったから? 全力で止めるのが正解? 

今更言っても仕方ないが、ソラは戦闘を強要されてしまった。


「ううっ……何でこんな目に」

「行くわよソラ」


 ホロウはやる気十分。剣を構えてヘドロスライムに向かって行った。

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