第4話 女々しい?いいえ、美少女が中にいますので。
―女々しい―
おおよそ世の女性の大半は嫌悪する性格であり男性からも嫌がられる性格である。『女々しい』とは男がうじうじして優柔不断、都合が悪くなると言い訳をして何事からも逃げようとする、勇ましさとは縁遠い、まるで女性のような様を表す性格である。つまり男性に対して使われる形容詞である。
この『女々しい』という様はどうやらこの『松尾』という男も持ち合わせているようだ。いや、もしかしたらリンカの性格が色濃く出てしまったのかもしれない。
この松尾という人物は職場では落ち着きがなく、たびたび副所長室に行っては何言ってるかわからない説明ばかりする上にさらにノーペーパー・ノープランであるためにすぐに突き返されることを常習的にやっている。さらに松尾の悪いところは副所長室に行ってよく分からない説明を副所長にして、副所長がそのよく分からない説明に対し、突っ込むと吃るのである。おまけに副所長が『これどういうことかわからないから確認して』とお願いしてるときにノーペーパー・ノーステーショナリーだからメモもできない。いや、紙と文具があってもメモを取らないから副所長から『ここ、メモする!』と言われてやっとメモを取るようなポンコツである。
つまりリンカの転生先のオッサンはとんでもないポンコツで、周りからも慕われていない人間ということである。そんな松尾に関する性格をリンカは転生してものの数時間で感じていたのである。
松尾(リンカ)がとりあえずわからないなりに仕事をしようと目の前のパソコンを覗き、よく分からないメールを確認していると、目の前に白髪頭の定年間際の男―戸祭調整官―が来た。
「課長、この間の旧ポンプ施設の古びたポンプの引き取り先の件どうなった?経理課に確認したのか?」
どうやら松尾は戸祭調整官と旧ポンプ施設のポンプのことで何やら相談をしていたらしいが、転生して早々のリンカには何が何だかわからない。
「え、あぁ…。まだしておりません…。」
何故かサラサラと答えてしまい、リンカは驚く。どうやら仕事のことに関しては松尾の記憶が引き継がれているらしい。うまく進むよう転生後のシステムが構築されていることをリンカは実感した。
「まだしていないんか。先週やると言っておいてもう1週間経ったぞ。早くやらないと経理もうちも困るぞ。引き取り先があるかないか、まず照会をかけないと旧ポンプ施設をいつ撤去できるか決められないだろう。」
「は、はぁ、すみません。やります。」
またもやリンカの意思ではなく松尾が勝手に喋る。
『まだしてないんか。』の言葉から松尾は以前やると言ったがやらずにズルズル先延ばししていることがわかった。おそらく、前回『やる』と言った時も戸祭調整官が『確認しろよ』と指示していたのだろうとリンカは想像できた。
「課長、鵜殿村との災害対策連携事業の件ですが、どういう風に進めていくつもりですか?来月には打ち合わせしないといけませんが…。」
今度は先程嫌味を言ってきた宝木係長が松尾(リンカ)に相談してきた。こういう時、本来なら『こういう方向で進めようと思うから、こちらとしての考えをまとめた資料を作って打ち合わせに臨みたい。』と答えるだろう。だが、松尾という人物はそこまでのことができる課長ではない。
「え、あぁ…。鵜殿村が気にしていることについて答える感じで行こうと思ってるよ。」
またもやリンカの意思では無く松尾が答える。だが、この答えはきっと宝木係長が求めている答えではないことはリンカにも察しがついた。
「はぁ…。うーん…。そうですか…。」
宝木係長は腑に落ちないような困惑しているかのような返答をし、うんうんと唸りながら自席に戻りキーボードを叩き始めた。
リンカはそんな宝木係長の姿を見て、自分の意思で発言したわけでもないのになぜか自責の念に駆られた。しかし、社会人経験もなければ病弱でまともに学校行事にも委員会にも部活にも参加していないただの14歳の少女にはどうすることもできなかった。何が尤もな答えになるかが経験値の少なさからわからなかったのだ。リンカは致し方ない気持ちでぐっと気持ちを堪えた。
リンカが再びメールを確認し始めていると、戸祭調整官がまた話しかけてきた。何かと尋ねたら、「奥の部屋で話したい」と執務室の奥の小さなスペースに連れていかれた。席を離れる前、宝木係長が椅子から立ち上がり執務室を出ていく様子が目に入ったが、それよりもまずは戸祭調整官との打ち合わせとリンカは戸祭調整官と一緒に奥のスペースに入っていった。
戸祭調整官に連れていかれ、一体何の話かと思ったら、今度は役場のイベントの話だった。
「先週話したけど、来月土曜日のイベントに泉さんを同席していいか?副長からの命令なんだけど。」
泉さんとは宝木係長の下につく係員のことだ。今年から社会人になったばかりの新人である。ここでも発言するのはリンカの意思では無い。
「あ、はぁ、いいですよ。」
松尾がやはり答える。とくに断る理由もないからいいだろうとリンカ自身も思っていたが、戸祭調整官は蔑んだ表情でリンカを凝視した。
「本当にいいんか?泉さんをレンタルするんだぞ?1ヶ月間人手が1人分減ることになるんだぞ?業務量的に問題ないのか聞いてんの!」
と戸祭調整官は『コイツ本当にわかってるのか?』という感じでリンカに問いただした。
「え、あ、あぁ。宝木係長に聞きます。」
そう、泉さんの直属の上司は宝木係長だからよく事情を知っている人に聞くのが1番と思って松尾の意思なのかリンカの意思なのかわからないがとりあえず答えたら、戸祭調整官の顔がさらに曇った。
「違うだろ!お前がマネジメントする立場だろ!泉さんの業務量とスケジュール把握してなきゃいかんだろ!」
『なんだよ、もう!何のために呼び出したかわかってねぇじゃねぇか!』と独り言のように戸祭調整官は怒った。その様子を見て、リンカは初めて大の男に怒られて怯んでしまった。
「は、はぁ、すみません…。泉さんに聞いてみます…。」
「あぁ!もう!だぁから!!…はぁ、もういいわ。泉さんと宝木さんに聞いておいて。」
戸祭調整官は何か言おうとしたが、これ以上言っても仕方ないと思ったのかそれ以上は言わなかった。そして、とりあえず戸祭調整官としては言いたいことは言えたのか、再び執務室に戻って行った。リンカは何が何だかわからないが、先程宝木係長が執務室を出ていったのを思い出し、恐らく副長室に行ったのだろう、リンカも副長室へと向かった。
転生先は片田舎の役場の課長(オッサン)だった 光ヶ丘サクラ @france_pan
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。転生先は片田舎の役場の課長(オッサン)だったの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます