おしまい 結婚式とその後

 求婚した彼女がわなわなと怒りで肩を震わせる。


「ええ、ええ。そうですか……ならわたしたちがあなたの事をどれだけ愛しているのか新婚の褥で思いっきりわからせてあげますね」


 そう言いながら全員を代表して前に出ていた天使ちゃんが転移系スクロールを取りだす。

 まずい、と思った瞬間には彼女らを含めた一行は一筋の光となって――気づいた時には巨大な神殿の庭園らしき場所に到着していた。


「おまちください法皇様ぁ!!」

「枢機卿! 法皇様をお止めくだされぇぇぇ~~!!」

「すでに大勢の民衆が法皇様のご説法を拝聴しに来ているのですぞぉ~~!」


 なんか嫌な予感がするぞぅ……と考えていたら、更に美女美少女の追加である。

 彼女たちの纏っているのが、法皇や枢機卿にしか許されない特別な法衣なのは見なかったことにする。自分を連れてきた彼女らと同じ……身震いするほどに美しいのになんかゾクゾクと背筋を震わせる鬼気を感じた。

 まさか彼女らも結婚希望とかそんなわけないよね……と考えて居たら――天空から一筋の光が差し込んだ。

 暖かく柔らかな瑞光に見上げれば……そこには荘厳な女神が佇んでいた。


「……え。マーディス様なんでこんなところにいんの」

『我は報復をつかさどるが、契約もつかさどる。結婚は人生で一番重要な契約であろう。

 ましてや我が信徒よ、お主は30名の天使解放に尽力した大英雄。祭祀ぐらいは務めてやろう」


 さりげなく神様が降臨しとる。

 神殿の聖職者や一般の教徒たちは神の降臨という一大イベントに誰も彼もひれ伏して文句など出ようもないありさまだった。

 女神は言う。


『さ。てきぱき行くぞてきぱき。

 なんせ29名と合同結婚式だからな』

「待って」


 聖書を手に宣誓の言葉を言おうとした神を遮るユーキ。

 彼の横にはちょっと目を離したすきにウェディングドレスを着込んだ美少女がいた。

 問題はその後ろに28名の麗しい女性たちが並んでいることだろうか。なぜかさっきチラ見した枢機卿と法皇も一緒になって並んでいる。なんでだ。


「なんでこんな大勢と結婚することになってんの?!」

『我が信徒は彼女ら全員を食わせるぐらい余裕の財を成しているではないか。できる男には女が集ってくるものだ』

「俺の前世は一夫一妻制の世界なんだよ! 文化が違いすぎて……大変そうなんだ!」

『信徒よ。後ろを見ろ』


 は? と思って後ろを見たらウェディングドレスを纏った美女美少女がそれぞれ鈍器やら剣やらを構えてお互いに見つめ合っている。怖い。目がやばい。


『一夫一妻制と聞いたせいでお前の夫の座を賭けて戦うつもりだ。

 なに。あれでも天使だから肉体の死は魂の消滅にならない。存分に死合うがいい』

「わー!! こんな美人さんたちを娶れるなんてシアワセダナー!!」


 目の前で見目麗しく、自分とも深い縁のある女性たちが殺し合う惨劇なんてのは絶対にごめんである。

 ユーキは脅迫に屈した。

 

『それでは……健やかなる時も、病める時も……』

 

 もうすでに彼女達は病んでるよなぁ……という言葉は飲み込む。

 これが一人だけなら、前世から夢見た幸せな結婚だと思えたが29名との合同結婚である。実際にハーレムなんてものを気づいてもしんどそうだなと思う。


「ユーキ。私、幸せです」

「お、おう。……こんな俺相手でも?」

 

 けれども心の底から嬉しそうにほほ笑む彼女を見れば何も言えない。

 威圧と脅迫で無理やり結ばされた婚姻だけど……しょせんはユーキも男の子。

 きれいな女の子に好きと言われれば即落ちするチョロさだった。 

 

 とりあえず。

 どうしてこんなことになったのかさっぱりだけど、ひと段落したら指輪を買いに行こうと心に決めた。

  











『おまけ』人物紹介とその後のこと




 ユーキ


 一応は主人公。異世界に転生した現代人。

 かつて瀆神の罪によって滅んだ魔道大国の負の遺産、呪いの魔剣カースブレイドによって地上に囚われた天使をすべて解放する偉業を成した。

 のちに聖人として崇められ、29名の妻と共に世界を漫遊することになる。

 不死身と言われる騎士であり、全裸でドラゴンブレスを耐えたという逸話もあるほど。

 どのような大怪我だろうと「ハッハー! まだまだイケるぜメ〇〇ェール!!」の言葉と共に不死鳥のごとく何度も蘇る大英雄。

 自傷しながら大ダメージをたたき出すことにエクスタシーを見出す変態。

 大火力ビルドの設計の根底を成す魔剣を失ってからは夜のエクスタシーを何度も味わう羽目になり何度か腹上死で命を落とし、復活を繰り返す大変な人生をおくることになった。

 ただ当人は前世から童貞だったし、死に慣れてるのであんまり気にもせずシアワセそうではあった。よかったね。

 



 天使たち


 地獄の苦しみから救い出してくれたユーキに恋心を抱いたが、彼が別に自分たちの事を異性と認識しなかったうえ毎回目の前で他の魔剣が新しく使われる光景にNTRるような感覚を覚えて全員脳が破壊されてしまった。一番の犠牲者たち。

 ユーキに対してドロドロぐちゃぐちゃの色濃い情念を向けており、そのせいで新婚後は毎晩ぬっちゅぬちゅだった。(比喩表現)

 何回かユーキを腹上死させてしまったが、そのあとはお仕置き替わりでちょっと手荒く扱われるので叱られるのが癖になってしまったらしい。

 ただし困ったユーキが女神と相談したので何度か女神さまからガチめのお叱りを受けたそうな。

 なお天使同士の中は大変良く、世界でも一番平和なハーレムだという。




 堕天使ちゃん


 ユーキが最後に使った魔剣の天使。

 彼女の時点で魔剣は最後の一本だったため、自分の後釜に座る天使がいなかったのでNTRを経験せず、脳を破壊されずに済んだ。

 29名のお嫁さんの中に入っていなかったのは、彼女が天界に戻り平和な生活を送っているから、と他の天使たちに誘われなかったため。しかし元から天界にいた天使に、「あんたの使い手は他の天使29名をお嫁にもらってるんだってね!」と真相を告げられやっぱり脳が破壊されてしまう。

 そのせいでダークサイドに堕ちて堕天使化し、世界滅亡の危機を引き起こした。

 が……そのあと天使たちのアドバイスに従ったユーキが抱きしめてキスをして「結婚しよう」と囁いたのであっさり浄化され30人目の妻に収まる。やったね。


 

 女神マーディス


 全ての元凶とも言うべきスキル、血の報復ブラッドレトリビューションを与えてくれる神様。

 本来このスキルは『相手によって受けたダメージ』を回復した場合にのみ作用するはずであり、呪いの魔剣の自傷ダメージに血の報復ブラッドレトリビューションによるダメージが加算されるのは完全な設計ミスである。

 このミスはすぐさま修正されるべきものだったが、ユーキがこのスキルを活用しなければ魔剣にされた天使が解放されることは未来永劫無いと判断された。そのため主神の承認を受けて放置されたという経緯がある。

 なお、信徒であるユーキが聖人に列挙される功績をあげたので、ついでに最高神の一人に昇格した。

 一番当人が納得してなさそうな顔をしていたという。



 メ〇〇ェル


 ユーキが絶対絶命の窮地から復活する際に名前を呼ぶ誰か。

 ただ単にユーキが前世で好きだったゲームキャラの名前を叫んでいただけであり、深い意味はひとかけらもない。

 天使を救い、聖人に列挙された英雄が呼ぶ名前のため「きっと彼が武名を成す前の死したる友人に違いない」とか「親友がこの世に引き戻してくれているのだろう」とか様々な憶測が立った。

 だが英雄になったユーキの足跡をいくら辿ってもメ〇〇ェルという男の名は存在せず、歴史家たちの憶測を呼ぶこととなる。

 不死身の英雄が名前を呼ぶ相手という事で、生死の境目で冒険者が縋る名前として定着したという。最終的に信仰を集めて小神に成った。

 イケボらしい。

 



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