家、買いませんか? 2
役所にやって来た太郎は、クレナータにティムの話をした。
「家に子供が居た? 幽霊とかじゃ無くて」
「なんでも、持ち主の息子みたいだ。家を売るって言ってる人は、どこにいるんだ。もう一度、きちんと話を聞いてみた方が良いんじゃないか。一応、今、その子はギルドの喫茶室に連れてった。子供を鑑定してみたが、ちゃんと人族の子供だぞ。名前はメラストマ テラムルムだった」
書類を見てみると、土地所有者はメラストマ カンディムという名前だった。どうなっているのか、きちんと調べて連絡をすると言われて太郎はギルドに戻った。
ギルドでは、ロイファやシェーボ、シルヴァなどと一緒にティムが楽しくお菓子を食べていたようだ。太郎の姿を見ると、
「おじちゃん、ドコいってたの。一緒に食べよ。美味しいよ」
といって、お菓子を勧めてくれた。しばらく話をしていると
「小人さんがもう遅いから帰ってきなさいって」
ふいに斜め上を見上げたティムがそう言って、お開きになった。シルヴァと太郎でティムを家まで送っていった。
「多分、精霊使いの血統じゃないかと思います」
話を聞いた白金が、そう言った。
「その太郎が言う光の珠が、精霊でしょう。精霊達が、その子を守っているのではないでしょうか。食料や何かを父親が用意して、それで精霊が調理などをしてるのではないでしょうか」
「父親についてギルドに聞いてみた。確かに4ヶ月前にダンジョンに入って帰還報告は無いそうだ。その後も音沙汰がないという話だ」
ダンジョンで死んだ場合は、ダンジョンに吸収される。そのため、3ヶ月以上帰還報告などがなければ、死亡したと見做すのだ。当該人物の家族などが、問い合わせなどに訪れない限り、それで終わる。
「じゃあ、一体誰が家を売りに出しているんだ ? 」
クレナータの仕事は早かった。三日後には、役所の担当者とダチュラの不動産屋、加えて探索ギルドの職員一人を捕まえていた。
探索者に家を売り、その探索者がダンジョンでの死亡が確認されたら、その探索者の名を騙って、その土地をまた別の人物に売る。それを繰り返していたらしい。
ギルドの職員は、死亡確認が出た人物をリストアップして、彼らに知らせる役目だったそうだ。その職員は、遺族に知らせるサービスをしていると言われて、データを渡していたと言っているらしい。だが、これは内規的に引っ掛かる行動で、金銭授与もあったという。単に騙されたという訳ではないのかもしれない。
「毎回その家に家族などが住んでいないのを確認して、様子見をしてから販売していたらしいんだ」
「ダチュラの探索者は、独り者でも宿じゃ無くて家を買って根城にしているやつが割と多いんだ。それ用の小規模な住宅もあるからな。食堂や洗濯・掃除屋などが充実しているし、そこそこ稼げる連中なら、問題なく買える値段だ。しかも、手放す時にはそれなりの金にはなる」
ギルドマスターは、そう言ってため息を付いた。今回のことで、色々と制度を見直すことにしたそうだ。
結局、ティムの父親は戻ってこなかった。それでは彼をどうするか、という問題が残っている。
「ちゃんとティムと話をしましょう。自分がいってきます」
シルヴァは、あっさりとティムに話をしに行った。
そして、
「タロウさん。俺、店の部屋を出てティムの家で下宿することにしました」
と言ってきた。
「引き取るのか? 」
と聞くと、
「細かな話はティム次第ですね。でも、だれか面倒を見れるんなら、そうしたほうがいいでしょう。まだあの子は混乱しているでしょうから。そこら辺の話は追々ですかね。
あの家、ティム名義になるんでしょう。でも父親が残した貯金と家精霊がいるから、一人で生活できるかもしれないといっても、まだ小さいですし。クレナータの家で引き取るという話も出ていたみたいですけど、あそこに居たいって言ってるんです。
俺が下宿して、下宿代を払えば遺産を使わなくてもティム一人ぐらいは生活できるでしょう。家の雑事はみんな家精霊が受け持ってくれるという話なんで、お得です」
「しょうがねえな。じゃあ、食事はここな。三食ちゃんとティムを連れてこいよ。仕事の時も、ティムは此処に連れてきていいぞ。奥の部屋でもなんでも使えば良い。一人で置いとくもんじゃないだろ」
「ありがとうございます」
クレナータにその話をし、ティムの家用に下宿代を振り込む為の口座を作ってもらった。
「大丈夫なのか」
二人のことについて、心配してくれてるようだ。
「精霊もいるからな。大丈夫じゃないか。それに、俺には精霊は見えないし、見えても光の球なんだわ。ティムが言うには小人さんがいっぱい居るそうだ」
ところが、シルヴァには精霊が最初から見えていたし、言葉も聞こえていたという。
「さすがだよな」
それで直接精霊も交えて、色々と話し合いをしたそうだ。ティムがこの家に居たいという希望、家の雑事については精霊がフォローすると主張してきたという。
側には大人がいたほうが良い。幸い自分は精霊が見える。それなら、自分が面倒見るのが良かろうとシルヴァは思ったらしい。職場は緩いし、何とかなるだろうと。
「最後が余計だよな。肯定するけど」
太郎は笑っているが
「お前は、それでいいのかね」
クレナータのほうが、渋面だ。
「シルヴァにこの先、同じ境遇の子がいたら、同じようにするのかって聞いたんだ」
シルヴァは、太郎がなにを言ってるんだろうという顔をして
「え、その時の状況次第でしょ」
と軽く言われたらしい。そりゃそうだよな、と思った。
「いやあ、シルヴァは男前だよな。だから、俺もできる範囲のことはしようかなってね」
「あ、それで、子供の通う学校とか、教育とか、行事とか、シルヴァも俺も覚束ないから、どこに聞きに行けばいいか、教えてくれないか」
手続きなど教えてもらい、資料を貰って役所を後にした。
「シルヴァは、やはり叔父貴の子だな」
ちなみに太郎は
「さすが、聖者様だよな。
あれ、能力の確認、できてないな。ま、いいか」
異世界で貸倉庫屋はじめました 凰 百花 @ootori-momo
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