番外編

家、買いませんか? 1


その後のちょっとしたエピソードです。




 ダチュラに戻ってから、相変わらずの太郎達だった。

偶に、クレナータとも飲みに行くことがある。その時に、ギルドの近所にある空き家が話題になった。

「何でも、出るそうだ」

「出る ? 」


この世界でも、幽霊の話はある。アンデッドではなく、死んだ人の魂が迷っていたり、呪縛されていたりする状態を言うらしい。与太話とか作り話呼ばわりはされておらず、居ることは公認である。


そういうのは、大概は恨みのある相手にとりついたとか、心残りのある場所に残っているとかしているのが一般的だ。中には死霊使いみたいな連中に、捉えられて使役されている連中もいるとか。神殿に行くとか、聖魔法などで除霊してもらうとか、するらしい。


で、話題になった家には、どうも何かがとりついているという話だ。

「別段、そこで何か事故があったり、人死にが出ていたりする訳では無いんだがな」

クレナータが溜息をつく。担当者から相談を受けたそうだ。


「探索者を引退して、別の町に引っ越すために売りたいと、うちの課で相談を受けてな」

その担当者は何人かに紹介したのだが、全員に断られたという。何でも、家に拒否されていると言っていたそうだ。


鍵を開けてもドアが開かない、物が勝手に動いてぶつかってくる、水を掛けられてずぶ濡れになる……。碌な事にならなかったらしい。

「売り主が言うのは、自分が住んでいる間は、特段変な事は無かったと言ってる、と聞いている」


それを聞いた太郎が、ポンっと手をたたいた。

「ちょっと、良い案配の人間に心当たりがある。その家、行ってみても良いか?  どうなるかは、判らないが」

興味半分で、クレナータの話を聞いていた太郎が請け負った。



「で、なんで俺が一緒に行くことになってるんですか」

シルヴァを連れて、くだんの家へと向かっている。鍵は先ほど役所によって借りてきた。

「え、お前の特技じゃん」


彼の鑑定結果と共に、邪神の書を封じたのはお前だと伝えたのだが、シルヴァは本気にしていない。だから、今回みたいな騒動に絡めば自覚するかな、という軽い気持ちで太郎は行くことにしたのだ。

シルヴァにとってみれば、エライ迷惑な話かも知れない。


真面目な話、太郎は自分の能力は確認しておいた方が良いと思っている。だから、今回の件を引き受けてみた。

商人としてやっていくにせよ、どこでどんな事に巻き込まれるか予測できないことがあることを、身を以て体験しているからだ。

シルヴァの方も噂は知っていたようで、興味がないわけでもなかったようだ。だが、自ら首を突っ込むような性格でもない。


何だかんだ言いつつも、家の前に着いた。

こぢんまりとした瀟洒な家だ。庭があって、よく手入れがされ季節の花が咲いている。裏庭があるのかそれなりの高さの木が屋根の向こうに見える。木が風を受けてさわさわと枝の葉がそよいでいる。


「へえ、ちゃんと管理されてるんだ。良い庭だな。ここ、住み心地は良さそうな感じだよな」


借りてきた鍵で、玄関ドアを開けた。

「お邪魔します」

なんとなく、そう口にした。売るという話が出てから3週間ぐらいだとか。埃っぽいかなと思っていたが、きちんと清掃がされていた。


「いらっしゃい。叔父さん達は、どなたですか。とうたんの知り合いですか」

奥から、小さい男の子が出てきた。5歳ぐらいだろうか。


「ねえ、とうたんは、とうたんは一緒じゃないの? 」

「トウタン」

「お父さん、てことじゃないかな」

男の子は頷く。

「君は、何処からこの家に入ったんだい。ここは誰も住んでいないよ」

すると男の子は首を振る。

「とうたんと僕のおうちだよ。とうたんは、ダンジョンにお出かけしてるんだよ」

二人は顔を見合わせた。


「君は一人でお留守番かい」

首を縦に振る。

「怪しい人がきたら、小人さんが追い払ってくれるの。ご飯もちゃんと用意してくれるよ」

「君の名前は」

「テラムルムだよ。とうたんはティムってよんでるの」

「僕らもティムって呼んで良いかな」

「うん」


「ティム、お父さんはどのくらい帰ってきてないのか、教えてくれるかい」

ティムからの話を聞いて、換算するとどうも父親がダンジョンに行くといっていたのが、4ヶ月ほど前の話らしい。その4ヶ月、一人で生活しているという。

「なんか、聞いていた話と違うな」


「ねえ、ティム。君のお父さんを探しに僕たちと来ないか? 」

この子を連れて行き、詳しい話を聞いた方が良いのではないかと思ったのだ。

「ここでお留守番していないといけないんだ」

「外には出られないのかい。ずっと、家の中に居るだけだと退屈だろう。小人さんが留守番してくれるなら、一緒に近所まで散歩に行かないか」

太郎は、駄目元でそう聞いてみた。男の子は、ちょっと考えると、


「小人さん、お散歩に行ってきても良い? 」

後ろに向かって聞いている。すると、そちらの方がなにかポワっと光った。

「タロウさん、あれは家精霊かもしれません」

シルヴァが小声で話しかけてきた。

「いいって。でも早めに帰ってきなさいって言われた」


ということで、三人で家をでた。ティムの歩調に合わせて、ゆっくりと外を歩く。しばらく歩いて、ギルドの喫茶室に入った。

「ちょっと、休憩しよう。人が沢山居る場所だけど、大丈夫だよ。美味しいお菓子を食べよう」

シルヴァが、ロイフォに声を掛けお勧めの焼き菓子などの説明をティムにしてもらう。

「おじさんは、ちょっと向こうに行ってくるね」

太郎は、ギルドを出ると一目散に役場へと向かっていった。

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