おまけ アンヌさんは知っている

 これは、太郎達一行がスフェノファへ向かう途中の話です。時期としては、第65話辺りの話になります。アンヌさんが見かけたのは、疑似家族として一緒にいた太郎と白金、勇者3人、それから、サイザワさんになります。




 太郎達一行は、タミヌスに着いた。商業ギルドの食堂で、食事を取った帰り道の事だ。彼等は全く気が付かなかったが、少し離れた場所で、アンヌがずっと立ち止まって、こちらを見ていた。


(あの男の子、シロガネ君に似ている。いえ、多分シロガネ君ね)

アンヌセンサーは、正に白金を見分けていた。


今は背格好だけが共通点で、顔つきなどは全く似ていない。アンヌ以外なら、気が付きもしなかっただろう。


だが、本人すら気が付かないほんの小さな癖などに敏感に反応し、アンヌの勘が告げていたのだ。


傍から見ると、仲の良い家族に見える。兄弟の一番下、姉に誂われて、平然と切り返す弟の姿に、微笑ましいものを感じた。兄と思しき人物と何かを言って笑っている。

(あんな風に、笑えるようになったんだ)

少し心がほっこりする。


あの父親のように振る舞う男は、多分太郎だろうと当たりをつけている。白金ほど確信はないが。

(相手は再婚、って感じかしら。それとも)


そんなことを思いながら、ふんわりと笑った。

(まあ、シロガネ君が幸せなら、いいか。今日は、美味しいもの食べよ)


 アンヌが白金を気にしていたのは、確かの好みのタイプだったこともある。だが、それ以上に気になったのは彼の表情だった。時折見せる笑顔は、取って付けたようなもので、少年らしくなかった。いや、人間らしく振る舞おうとしているようで、気になった。


村を出て、叔父と二人で気が張っているというだけとは、どうしても思えなかったのだ。

叔父との仲は良好そうだったが、あの間抜けな叔父では頼りにできなかったのだろうと、当初は考えていた。


だからこそ、叔父の事務能力を鍛え上げようとしたのだが。


あれは飲み込みがいいというのではなかった。何らかの仕事の経験者だ。辺境の村から出てきた、というのは違うだろうと判断できる。だから、仕事以外はあまり関わらないようにしたのだ。


それで、どこへ行っても言い訳できるように、厳しく面倒を見た。事務仕事は、タミヌスで鍛え上げられたのだと、周りが思うように、本人が言い訳できるように。


(考えられるのは、迷い人。もしくは噂にあった勇者の関係かしら。でも、勇者って感じは全く無いわね)


暫く見つめていたが、クルッと彼らに背を向けて帰路に就いた。アンヌさんが少年を見ていることは、よくあることなので、街の人達は全く気にしてなかった。



その彼女の後ろ姿を、サイザワさんがチラッと確認していた。

(あれがタロウくんが言ってた人かな。すごい勘が良いね。何か仕掛けて、きそうもないか)


そんな女性同士の心の機微を、太郎は全く気が付いていなかった。

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