第232話 蟻叩き

 大陸南部

 サイゴン市郊外


 サイゴン軍警察は、二個中隊を投入して地上にでてきたミュルミドンの兵隊蟻を引き付ける為に交戦していた。

 幸い数こそは多いが武装は貧弱なミュルミドン相手に死者は出していない。

 もちろんサイゴン軍警察側も重装備はあまり無い。

 旧ロシア製の軽歩兵装備や日本製民生車両を改造したテクニカルが主力だ。

 さすがに少数の軽装甲機動車は小隊、虎の子の08式歩兵戦闘車は中隊に各一両ずつ配備され、前線を支えている。


「4時方向、盛り上がり確認、地中から来るぞ!!」

「手榴弾用意!!」


 ミュルミドン達は地中からも攻め寄せるが、人間大の大きさの生き物が通るトンネルが突貫で掘られれば地表に不自然な盛り上がりが発生する。

 軍警察の隊員達が穴が空いた直後にすかさず手榴弾を投げ込み爆発させる。

 トンネル内には十数匹のミュルミドンがいたが、爆発に焼かれ、崩落するトンネルに潰されて犠牲を続出差せた。


「今ので12本目だ。

 こっちの手榴弾が先に尽きちまう」

「廃タイヤを燃やして穴に突っ込め、蟻をゴムの臭いを嫌がる。

 暫くはその穴からは来ない」


 或いはミュルミドン達が地球人勢力と交流を持たないのはそのせいかも知れないと中隊長トー・クオン大尉は考えてたが、皇国時代から交流は無いとうミーティングでの話を思いだし、どちらかが全滅するまで戦うのかとうんざりした。

 08式歩兵戦闘車の99式 30mm機関砲の射撃が止まり、副武装の80式汎用機関銃による攻撃が始まったのは、機関砲の砲弾が尽きて近接距離までミュルミドンに押し込まれたからだ。

 だがロイ市長達が立て籠るダムからは引き離すことが出来る。


「しかし、何匹いるんだ」


 すでに地上には数百のミュルミドンが死体と化しているが一向に突撃が途絶えない。

 複数開いた巣穴から続々と姿を現してくる。

 その巣穴も少しずつ増えていく。


「隊長、日本の護衛艦『ながら』から通信、トマホークを飛ばすから座標を送れと」





 サイゴン市沖

 日本国海上自衛隊護衛艦『ながら』


 移民船団を護衛する為に大陸に来ていた護衛艦『ながら』は、日本本国や大陸領土を守る護衛艦隊の所属ではない。

 西方大陸アガリアレプトに派遣される為に十年前に創設された水上艦隊第3水上戦郡に所属している。

 補給と整備に本国に帰国しようとしていたら移民船団を護衛していた護衛艦の不調で急遽、船団に合流、南方大陸アウストラリスに来るはめになっていた。


「あれだな。

 下手にミサイルとか砲弾を残してるから任務を割り振られるんだ。

 いい機会だから巡航ミサイルは使いきってしまえ」


 艦長の不破二等海佐は久しぶりの本国帰還に水を刺されて、不満を吐き出す方法を見つけた。

 財務省の役人が聞いたら決闘を挑まれること間違い無しだが、この場には仇敵達の耳目はない。

 西方大陸では対地攻撃も多く、対空ミサイルの出番はあまりない。

 兵庫県県明石市に建設された国産巡航ミサイル工場から出荷された国産トマホークが、Mk.41 垂直発射システムのミサイルセルに満載して、護衛艦『ながら』に搭載されて出港した。

 西方大陸で一度は使いきったが、その後も補給を受けて八発が残っている。


「艦長、意見具申。

 友軍の危機を救うために出し惜しみは無しにするべきです。

 SSMも全弾発射すべきです!!」

「よくぞ言った!!

 CIC、最大火力で現場を援護する。

 準備でき次第、順次発射せよ」


 早く帰国したい一心で、艦内の想いは統一されていた。

 その結果は……



 突然のミサイルの乱舞にサイゴン市軍警察の隊員達は全員衝撃波で倒れ込んでいた。

 ミュルミドン達が巣穴を造っていた鉱山は、爆発の炎に包まれている。

 爆発により舞い散った土煙で敵味方の状況の把握も覚束ない。

 鉱山各所に設置していた監視所の部隊は、ミュルミドンの進撃を抑えられず、麓まで退避させてダムの方の奪還作戦に投入させていたので爆発には巻き込まれていない。

 ミュルミドン達は当然、ミサイルに対する知見は皆無だ。

 地に伏せることも坑道に身を潜めることもせずに爆炎と爆風をまともに受けて、崩れ落ちる落石や土砂崩れに押し潰されている。

 地表にいたミュルミドンはほとんどが絶命するか、虫の息であった。


「やりすぎだバカ野郎………」;


 トー・クオン大尉も爆風に吹き飛ばされて、地面に仰向けに倒れていた。

 起き上がり、鼓膜の痛みに耐えながら部下達も立ち上がらせて武器を構えさせる。

 ミュルミドン達は炎が上がらない巣穴を新たに造り、再び突撃してきたからだ。

 だがサイゴン軍警察にも援軍が到来していた。

 国際連隊の独立都市郡から派遣された第2中隊の三個小隊と、亜人部族から派遣された第6中隊のケンタウルス小隊である。

 ケンタウルス達は身を隠せる大盾で投槍や蟻酸を防ぎ、背中に乗せた第2中隊の隊員が馬上から小銃で銃撃する。

 耳元での銃声は堪えるので、ケンタウルス達は一様に防音のヘッドフォンをしている。

 また、ケンタウルス達も三十年式騎銃に着剣して、ミュルミドン達を貫いていたが、途中で面倒になったのか、自らの蹄で踏み潰して仕留めている。

 そして、軽装甲機動車やテクニカルに乗った中隊隊員が降車して後に続き、トドメを刺していく。


「騎兵隊のお出ましだ。

 まだ戦える奴は着剣、俺に続け!!」


 ここが踏ん張りどころとサイゴン軍警察の隊員達も突撃に参加する。

 巣穴口さえ抑えてしまえば、いかに大軍でも動きが制限されてどうとでもなる。


 さらにサイゴン軍警察も自衛隊から供与された中古資材運搬車の一両に北サハリン供与の2A62 85mm砲を搭載した改造自走砲が火を噴き、ミュルミドン達を蹴散らしていく。

 護衛艦『ながら』派遣されたSH-60K 哨戒ヘリコプターに乗っていた長沼一等陸佐は、直属の自衛隊員で構成された第1中隊からレンジャー分隊を引き抜き、ロイ市長達が立て籠るダムにラペリング降下を行わせ、ドアガンで管理棟に群がるミュルミドンを自ら掃射して道を切り開いた。

 さらにサイゴン軍警察の護衛隊より重火力をばら蒔いてくる自衛官達にミュルミドン達の屍が積み重なっていく。


「これは航空支援はいらなかったかな?」


 鉱山の巣穴口もほぼ制圧され、ロイ市長を無事救出の報告に長沼一佐がそう考えたのも無理からぬところだった。

 軍警察も両手の数では足りない殉職者を出していたが、国際連隊は負傷者が数人でた程度だ。

 蟻酸による爛れは問題だが、それも各教団が出してくれた神官達で構成された第7中隊が癒してくれる。

 傷口も残らないくらい神々の奇跡で癒してくれるから、奇跡の力を身に宿した若い男女が地球側の病院に医療補助者として雇用されることが多くなっていった。

 ただし、この話は大陸に限り、日本本国は本国で産まれた仏教や神道の術者をこの道に進ませようとしている。

 負傷者や要救助者を後送させたが、巣穴口では今も戦闘は続いていた。

 一度、ヘリコプターや車両、ケンタウルスは駐屯地に戻して後続の部隊を迎えにいかせたが、異変の方が先に起こった。

 鉱山の頂上にも新たな巣穴が開き、無数のミュルミドンが出てきたが、そのミュルミドン達は一様に羽を背中に生やしていた。

 頂上にも一応は部隊を配置していたが、彼等の銃弾よりはるかに多くの羽付きミュルミドン達が山頂から群れとなって飛び立っていったのだ。

 その光景を目にした長沼一佐はすぐに無線機に飛び付いた。


「接近中の高麗の航空隊に至急伝えろ。

 空飛ぶミュルミドンを追跡、攻撃せよ!!」

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日本異世界始末記 能登守 @hourai1459

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