第231話 初出撃
大陸南部
サイゴン市郊外
国際連隊駐屯地
サイゴン市郊外には、各国家、独立都市、南部領邦から派遣された兵員で編成された国際連隊の駐屯地が存在する。
会議室に集められた連隊幹部は、サイゴン市政府からの出動要請に、遂にこの時が来たかとうんざりした顔を突き合わせていた。
連隊長に任命された長沼貴司一等陸佐は、水陸機動大隊時代の部下と引き離されて練度の低い隊員を任せられ、いかに無難に終わるかを考えていただけに残念な命令であった。
それにしても連隊長に就任したのはいいが、いつまでも代理の文字が抜けない。
そして南部に常駐赴任したせいでハーベルト公爵家第一夫人ローザマインが頻繁に遊びに来て不倫を疑われという点とエルフ大公国から派遣された小隊長ベルタがやたらと肉体関係を迫ってくることが目下の悩みだった。
「任務はダムに立て籠る市長一行の救出だ。
当番隊の第二中隊は現場に急行せよ。
すぐに増援を送る」
「拝命致します。
しかし、急行するには足が足りないのですが……」
第二中隊を預かるバウマン少佐の言うことは最もであり、多国籍部隊ゆえに同じ連隊でも装備品は他の中隊には使わせないのが暗黙の了解となっていた。
その為に日本から派遣された第一中隊や高麗から派遣された第三中隊に比べて他の中隊は機動力に些かの難があった。
それは同じ地球系でも南部独立都市群から派遣された第二中隊も同様である。
「第二中隊でも一個小隊くらいなら車両で運べるだろう。
もう一個小隊の運搬は我々が請け負おうじゃないか」
末席の第六中隊に所属するマルホイ小隊長が高らかに宣言する。
その声にバウマン少佐は嫌そうな顔をするが、マルホイ小隊長の横でベルタ小隊長が投げキッスをしてくるので長沼一佐は目をそらしながら申し出を承認した。
「まあ、それしかないわな。
相手の数が多いから至急、現場に向かってくれ。
サイゴン軍警察も二個中隊に冒険者、傭兵を動員してミュルミドンを露払いしてくれるそうだ」
うちもそっちに乗っけてくれないかなあとか、本来そっちが主軸で進める作戦じゃないかな、という言葉を飲み込みバウマン少佐は提案をしてみる。
「航空自衛隊に支援は頼めないんですか?
少々、爆弾の雨を降らしてもらえば事態はだいぶ楽になるんですが」
「すでに要請は行った。
それに対する返信は、『我二投下スル爆弾、ミサイルナシ、来年ノ補給マデ、現有戦力デ、モチコタエラレタシ』だ。
米軍や華西にも要請したが、偉そうな文面送られて断られた。
まあ、懐事情は似たようなもんだとバレバレなんだがな。
寄って柳基宗少佐、高麗民国国防警備隊航空隊には期待している」
季節はまだ夏であり、航空自衛隊の支援まで半年は、さすがにロイ市長達も持ちこたえられないだろう。
高麗民国国防警備隊から派遣され、国際連隊第三中隊を預かる柳基宗少佐は自分に話が振られて、ため息を吐く。
「打診はしますが、期待しないで下さいよ。
うちはモノが有っても渋ってくる体質なんですから」
高麗民国国防警備隊航空隊は、高句麗市に第2戦闘航空団の戦闘爆撃機F-15K 3機とF-4E 3機を配備しているが、実はもう少し機体がある。
新羅基地のil-28(H-5)爆撃機2機とMiG-21戦闘機6機である。
元々は北朝鮮空軍新義州基地に配備されていた機体である。
日本ともに転移した琵琶島や馬養島等をパトロールや輸送任務や訓練飛行をしていて、異世界転移の波に巻き込まれた。
これまで表だって現れなかったのは、単純に部品不足である。
共食い整備の影響もあり、飛行していた筈の機体なのに幾つかの部品が無かったりと、技術者達の首を傾げさせた。
部品の提供を求められた北サハリンの関係者の困惑した顔は想像に難くないだろう。
MiG-21に関しては21世紀の地球でも現役の国は多く、そこそこの部品は有った。
しかし、北朝鮮のil-28(H-5)爆撃機に関してはオリジナルにはない、ミサイル発射機構が魔改造されていたので、どうしようも無い。
最初に日本に持ち込まれて、点検に当たった技術者の言葉が
「この機体、どうやって飛んできたんだ?」
だったからも察すれる有り様だ。
このまま博物館か、展示物になるかと思いきや日本の自警団が日本本国内に展示して有った機体を次々とレストア、飛行可能にしてしまった事例が続出した。
つくば市の中島 キ115 剣。
河口湖町のゼロ戦21型の二機、52型、キ43 一式戦闘機「隼」一型、ニ型、一式陸攻22型。
小牧市の秋水。
各務原市の三式戦闘機「飛燕」。
南宇和郡城辺町の紫電改21型。
朝倉郡筑前町の零式艦上戦闘機三二型。
鹿屋市の二式飛行艇。
知覧町のゼロ戦52型、中島 キ84 四式戦闘機「疾風」
呉市のゼロ戦62型。
などが、現在も自警団と技術者と好事家達の変態的熱意で日本本国の空を飛んでいる。
勢いに任せて航空自衛隊も余程暇だったのか展示や個人所有にしていた退役していた機体を回収し、飛行可能にレストアする計画を立案した。
F-86F セイバーを86機、F-86D 60機、F-104J 44機、F-1 21機が集められたが数機は既に試験飛行に漕ぎ着けている。
さすがにやりすぎだと財務省の事務次官が、防衛省の事務次官に首相官邸内で口論となり、財務省事務次官の正拳突きに防衛事務次官がノックアウトされた事件はお茶の間の話題をかっさらっていった。
こうなると高麗や北サハリンの技術者達と一部日本のマニアが触発されてレストアされていく。
数が少ないのもあってミグ21とil-28(H-5)爆撃機が
まともな機体として先に現役復帰となった。
さすがに島々で構成される高麗本国諸島では使い道もなく、大陸の任那道新羅市の第3戦闘航空団として全機配備されたのは今年になってからだ。
爆弾に関しては北サハリンから供与されているので、高価な爆弾を使う第2戦闘航空団ではなく、第3戦闘航空団になるはすだった。
「空自とはいかないが、護衛艦が1隻巡航ミサイルを飛ばしてくれるそうだ。
作戦の目標は市長の救出とミュルミドンの撃退。
巣穴に突入するのはナシだ。
なんなら鉱山口を爆破する」
サイゴン市政府が怒りそうだが構ってられない。
総督府や各市政府に圧力を掛けてもらうことを要請することになった。
ミーティングが終わり、バウマン少佐は直属の部隊と車両で現地に向かうつもりだったが、マルホイ小隊長に先を越されて前に回り込まれた。
「よお、バウマン少佐!!
30騎ばかり用意したから安心して背中に乗りな、あんたは俺の背だ!!」
筋骨隆々で何故か上半身裸のケンタウルスの背中に乗れと言われてバウマン少佐の顔は引きつっていた。
後に続く部下達は小隊関係なく、装甲車や輸送車両に先を争って乗り込んでいた。
「おまえら……」
車両にギチギチに乗り込むが、乗り損ねた隊員は渋々ケンタウルスの背中に股がる。
「なんだもう少し乗れそうだな」
「そうだな、第3小隊も道連れ……
動員するか、誰か第3小隊も連れてこい!!」
先に準備できた南部独立各都市から派遣された第2中隊が先行して駐屯地を出撃した。
それを見送る長沼一佐にベルタ小隊長が腕を組んでベッドに誘いに来る。
「みんなが留守にしている間にめくるめく肉欲の世界にひたりましょうよ」
「申し出は嬉しいが、生憎迎えが来た」
駐屯地の上空を海上自衛隊のヘリコプターが旋回してヘリポートに着陸した。
着陸してサイドドアが開いて乗員が長沼一佐を呼んでいる。
「護衛艦『ながら』からお迎えにあがりました!!
長沼一佐ですね?
給油後に出発しますので御準備をお急ぎ下さい」
長沼一佐は敬礼で返答すると
「そんなわけで現地に陣頭指揮を取りに行く。
留守は頼んだぞ」
バウマン少佐達をのせてあげれば良かったんじゃない?」
至極まともに突っ込まれてしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます