永遠の箱
その箱は、親指の爪ほどの小ささで、ほとんど完璧に近い立方体の形をしているのだが、
箱は、地下施設にある極暗環境で組み立てられた。それから、いくつかの実験を経たのち、十分に安全を確保しつつ、速やかに解体されるはずだった。計画に頓挫を来したのは私がそれを無断で地上へと持ち出したためである。
私の手から取り返された後、箱はしばらくの間、当初と同じように地下施設の暗闇の中に安置されていたが、ついには有効な対処法を見出せなかった人々の手によって、おとめ座銀河団の中心に向けて放棄された。
一連の出来事の仰々しい幕引きに比べれば、私のしたことは些細なものだった。私はただ、家族が集うリビングの飾り棚の上、写真立ての脇に、ひっそりとその箱を置いていただけなのだ。その場所で、箱は時空間に果てしなく広がる写真フィルムのように景色を取り込み、その無限に折り重なる光の旅程へと、私の人生を記録し続けていたことだろう。
そして、箱は今、四方八方から注ぎ込む星々の光に抱かれながら、いつの日か消え去るはずだった私の生きた証を、どこまでも、どこまでも、運び続けているのだ。
自走する言語機械 坂本忠恆 @TadatsuneSakamoto
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