【声劇台本 ♂♀1】こんな晴れた空には(健康で文化的な最低限度の生活を送る為に)

〇上演 目安 時間:10分


〇比率 ♂♀1の1人用声劇台本

 

〇登場人物


・死んだ目をした生き物:♂♀

 

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※利用規約につきましては別途項目を設けておりますので、

 そちらをご一読くださいませ。


〇名前の横に(M)の記載がある場合は各キャラクターのモノローグです。

 一部【】内で括っているセリフは心の声としてお読みください。

 それ以外の()は動作を表すト書きとなります(セリフ内に入っている箇所が

 多々あり読みにくいかと思います。誠に申し訳ございません!)


〇演者様の性別不問(男性→女性、女性→男性)、及び登場人物の性別変更、

 セリフの改変、アドリブ等は可能です。


〇人数の増減についても不問です。


 配信等を含めたご利用の際は宜しければ下記テンプレートをご利用くださいませ。

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 作品:こんな晴れた空には(健康で文化的な最低限度の生活を送る為に)

 作者:平野 斎


〇配役

・死んだ目をした生き物:

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◇穏やかな青空の下


 死んだ目をした生き物

「良い天気だ……こんな穏やかな晴れた空を見ると、無性に死にたくなる。

 徹夜明けのしらんだ朝焼けを見た時も街中で楽しそうな笑い声が聞こえた時も。

 昨日は夜を超えられそうになかったから、

 なけなしの金をはたいて安酒で生き延びたよ、意味なんて無いのに、ねぇ。


 結局眠れずに二日酔いのまま外に出て、路地裏で缶コーヒーを飲みながら

 最後の煙草に火を付けた。

 ふと見上げたビルの切れ間から流れる雲をぼんやりと眺めていたら、

 急に目の前がにじんで。心が動かないのに声も無くこぼれ落ちる水はヤバいんだ。

 丁度ダムのように押しとどめていた何かが、音も無く瓦解がかい決壊けっかいする。


 喜怒哀楽の感情の及ばぬ所でも、人は泣く事が有るなんて知らなかった。

 知りたくなかった。息を吸うまばたきをするに、見知らぬ誰かが愛し合ったり

 殺し合ったり人知れず産まれて死んでる、そんな事を考える、

 それだけで意味も無く苦しくなって生きていて申し訳なくなるんだ。

 許して許して許して許して許して許して誰でもいいから




 許さないで。

 



 こんなどうしようもない気分の時は、一人暮らしで良かったと本当に思う。

 誰かと同じ空間で無理に返事したり、まともなフリなんかしなくてもいいから。


 健康で文化的な最低限度の生活を送る為に、地べたをいずって泥水をすするんだ。


 こんな時に貴方の歌なんて聴いちゃいけないのはわかってるのに、耳から入った絶望   

 を血にめぐらせて麻痺まひさせて。 8秒間だけ無敵の人にして、ほんの少しだけでいい、

 終わらせる勇気を与えてくれ。あらがう事も逃げるさえ事も出来ず、

 あの日からずっと立ち尽くしたままの自分に。


 足元から染み込む雨がじわじわとり上がってボロ靴をひたしていくような

 気持ち悪さをぬぐえずに、商店街のわきる公園の腐りかけの木製ベンチに

 目を開けたまま横になる。地面に落ちた紙屑をカラスがくちばしもてあそんでいる姿を

 見つめながら、ここにもついばむ汚ねぇはらわたが有るのにと力無く呟いた。

 冷えた空気を吸って呼吸が浅くなる。寒くて仕方がないのに、もうどこにも

 行きたくない。このまま身体が溶け出してしまう感覚になりながら、

 胎児のように身体を丸める。


 それからどれだけの時間が経ったのか、いつの間にか意識を失っていたらしい。

 ゆっくり身体を起こすと、怪訝けげんそうな顔をしながらこちらを見つめる男が一人。

 きっとホームレスと勘違いをしているのだろう、自分はそう思い大丈夫だと

 口を開く。相手は安堵あんどの表情を浮かべながらも、何かを察したのか

 生活に困っているのか、と問いかけてきた。


 何年も伸びっぱなしのしおれた雑草のような髪、最後に風呂に入ったのは何時いつかも

 もう思い出せない。砂のようなかわいただけが、時折り異質いしつなぎらつきを浮かべて

 いる自らをかえりみるとそれは想像にかたくない。男は静かに自分がうなずく姿をみとめる

 と、よければをしたいと提案を持ちかけてきた。

 

 丸めたレシートからおもむろに小銭を取り出し、通りの向かい側に

 自販機へと放り込む。ホットコーヒーを取り出し、1回10円位?と笑いながら

 聞き返すと男は無言のまま首を横に振った。


 肩書きがついていそうな、どこにでもいるスーツ姿の中年男性が、

 自らの欲望の為に見知らぬ肉袋にくぶくろを買おうとしている。その現実感の無さが、

 幼い頃どこかで聴いた子守歌みたいな遠い国の物語に迷い込んだようで、

 有りもしない懐かしさを覚え、また意味も無く笑ってしまった。

 

 近くのコインパーキングに停めてある男の車へ滑り込みドアを閉める。

 もう戻れない、そんな事を思いながら窓の外をぼんやりと眺めていた。

 食われる為に運ばれてゆく、それはさながら豚の葬列だった。


◇HOTEL EVOL


 バスタブから流れ出す水音に交じり、微かな吐息が響く。

 後ろから抱き締められ、首筋をなぞる舌を感じながら身体を震わせる。

 髪も胸も人目につかぬほらの中まで、男のなすがままに洗われて。


 あぁ、けがされる為にこんなにも綺麗になったよ。

 心なんて無いから全て明け渡してやる。だから、ほら使えよ。

 

 肉体が内側から押しひろげられ無遠慮に征服されてゆく。

 急激に浸透率や解像度が高くなって、狂おしいほど現実がかおってくる現象に

 誰か名前を付けてくれ。

 思考が言葉を追い越して、濡れた服を脱ぐ時のようなもどかしさを感じ、

 思わず喉をきむしるような、かすれた鳴き声を上げた。


 男の筋張った手が頬に触れた、と同時に幼子おさなごをあやすような優しい顔を見せる。

 そうだ……この笑顔だ。

 この世で最も得体の知れない恐ろしいものが自分を組み敷いている、

 その横たわる現実にただただ吐き気がした。


 道具にじょうなんかかけるな。反吐へどが出る。


 純粋な怒りと虚無を込めたにごった眼差しを鏡張りの天井へ向けようとも、

 いずこへも行くあての無い情念じょうねんだけが二重写しに嘲笑あざわらうだけだ。


 そんな感情を振り払うように、汗ばんだ男の背中にすがり付くと、

 唇をふさがれたままぐちゃぐちゃにつぶされて。

 それからどれくらい経ったのだろう

 ―――幾度目かの海綿体かいめんたい抽送ちゅうそうと共に荒い息を吐きながら

 目の前の肉体が崩れ落ちてくるさまを、まばたき一つせず

 冷ややかに視界へ収めた。

 男は快楽の余韻で不規則に痙攣けいれんさせたまま、自らの欲望の残滓ざんし

 一息ひといきに解き放つ。

 下腹部にぶちまけられた欲望のを感じながら、

 もはや何の情動も湧かぬ自らに何故だか安堵あんどした。

 

 これが愛の質量か。

 


 


 死ぬチャンスなんて幾らでもあった

 死ぬチャンスなんて幾らでもあった

 死ぬチャンスなんて幾らでもあった

 死ぬチャンスなんて幾らでもあった

 なぁ、なんでまだ息吐いてんだよ 



 


 世の中にはわからない方が良い事もある。

 こんな下らない気持ちはさいたるものだろう。

 

 後頭部が内側から急にふくらんだり、車のドアを開けた時みたいな警告音が

 小さく脳内に鳴り響いたり、泣きらした後、奥歯を噛み締めたように

 下顎したあごが痛くなったり、そんな痛みなんか知らずに生きて死んで皆幸せに

 命をらしなよ。

  

 男から定期的にまた会いたいと言われ、連絡先を交換した別れ際に

 空を見上げると、朝焼けが今日の始まりを告げていた。


 こんな晴れた空に思うこと、


 あぁ、世界はこんなにも美しい」


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【声劇台本 ♂♀1】こんな晴れた空には(健康で文化的な最低限度の生活を送る為に) 平野 斎 @hiranoitsuki

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