春行かんとす
暁 雪白
第1話 邂逅
「―――久しぶり」
「―――久しぶり」
そう言われたから、そう返す。私は会いたくなんかなかったけどね。
橋の上から川を見下ろす彼女の横顔は、3年前と変わっていない。いや、その年月の分だけ大人びてはいる。もう高校生の顔ではない。自分がそうであるように、大人の女性になりつつある。
でも、と私は思う。
でも、彼女の穏やかな横顔は変わっていない。強く自己主張するわけではないのに、誠実な芯の強さと柔らかさが同居する茶色の瞳。短めの睫毛に、軽いボブ。美人ではない。可愛い顔立ちでもない。でも、その春の緑の樹々のような佇まいに気づいた人間は、きっと誰もが、友だちになりたがる。そういう同級生だった。
「変わらないね」
いつの間にか、彼女がこちらを見て微笑んでいた。川面から反射する光が、彼女の顎や顔にちらちらと映る。光の粒が散らばっているみたいだ。
「―――委員長も変わらないじゃない」
私は、ちょっと言葉に詰まってから言った。
ふふ、と委員長は笑う。笑うと少したれ目になるのだ。
とたんに私の心臓は、ぎゅっと絞ったみたいに痛んだ。いきなり、高校の教室で最後に見た委員長の微笑みが、今の情景に重なった。
あの時も―――
「もう、委員長じゃないよ」
委員長はもう一度笑った。
ああ、気が遠くなる。どうして、今、同じ春の日に。
春行かんとす 暁 雪白 @yukishiro-akatsuki
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