第5話おまけ②【ランプの中】
魔法のランプと不幸な御主人
おまけ②【ランプの中】
ランプの中は、退屈だ。
それゆえ、シェルはお香を焚いたり紅茶を飲んだり、優雅に時間を過ごしていた。
しかし、犬並みの嗅覚を持った、同室ならぬ同ランプの男が、邪魔をしてくる。
ランプの中に風呂場を設置し、毎日入れるようにもした。
魔人はあまり食欲がないのだが、あの男は良く食べる。
その為、食糧を保管しようものなら、一夜にして貯蓄ゼロにもなれる。
「シェル、腹減らねえぇ?」
「減らない」
「っかしーな」
首を傾げ、ぎゅるるるる鳴っているお腹を摩る男、ギ―ル。
どこかの国の城で護衛として働いていたようだが、そんな面影はない。
汗臭いのも平気で、とにかくジッとしていられないようだ。
出会った頃は、絶対に関わりたくないと思っていた。
しかし、ギ―ルが口にしたある唄に、心奪われてしまったのも確かだ。
誰の唄かは知らない。
ただ、暇な時や、主人が見つからないときなど、ギ―ルは口にしていた。
いつものガサツなギ―ルからは想像も出来ないほど、繊細で儚い旋律だ。
興味があったかと問われれば、五分五分。
「お前の国の唄か?」
「あ?」
「いつもお前が唄ってる、その唄だ」
無意識に口ずさんでいたのか、ギ―ルはしばらく考え込んでいた。
そして、気付いたように、ああ、と言うと、困ったように笑った。
その言葉は、シェルにとっても驚くものだったからだ。
―この唄唄ってて俺、魔人になっちまったんだ。
最初、意味がわからなかった。
どうして唄を唄っただけで罪とされ、魔人にまでされてしまったのか。
「俺もよくわかんねーけど、この唄、唄っちゃいけねーんだってよ」
いつものように笑っていたギ―ルだが、その表情はどこか悲しげでもあった。
よくわからないが、悪い奴ではないようだ。
毎日のように聞いているうちに、シェルもその唄を覚えてしまった。
だが、唄う事はなかった。
なぜかと聞かれれば、単に唄うことに慣れていないということもあった。
騎士としてずっと戦ってきたシェル。
もちろん、国を称える唄だって存在していたが、単に力を誇示するための内容で、あまり好きではなかった。
「その旅人、死刑にされたのか?」
「ああ。死ぬまでずっと唄ってたよ。そいつが書いた詩も、ぜーんぶ燃やされちまった。そこまでする必要なんて、ないように俺は思うけどな」
「・・・そうか」
何かに見つめられている感じがし、シェルはギ―ルを見やる。
そこには、じーっと、シェルの身体に穴が開くほど見ているギ―ルがいた。
「なんだ」
「いや、そこまでお前が他人に興味持つなんて珍しーからよ」
「・・・・・・」
この男、本当に食えない奴だ。
「国や時代は、何に怯えてるのかと思ってな」
「怯えてる?」
シェルの方に近づいてくると、ギ―ルはシェルの座ってるテーブルにある飴を凝視する。
一つ手に取りギ―ルに渡せば、「サンキュ」と言って口に含み、いきなりボリボリ噛み始めた。
「時代の節目には、幾つもの犠牲が伴う。それが、俺達みたいな存在なのかもしれないと思っただけだ」
「犠牲ねー。俺は犠牲なんて思っちゃいねーけど」
ふああ、と大きな欠伸をしながら、ギ―ルは笑った。
「ま、その旅人の受け売りだけどな」
「?」
なんとも言えない、楽しそうな表情で、ギ―ルは笑った。
『俺は、俺を英雄と思う事にした』
魔法のランプと不幸な御主人 maria159357 @maria159753
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