第4話おまけ①【お菓子】





魔法のランプと不幸な御主人

おまけ①【お菓子】






 ある日のこと。


 ギ―ルはまた蔵之介のお菓子箱を漁っていた。


 ごそごそごそごそと、傍からみれば泥棒のようにも見えるその身のこなし。


 覆面をしていれば完璧といえよう。


 だが、そんなギ―ルには、一つの疑問があった。


 そう。蔵之介のお菓子は、食べても食べてもゼロになることがない。


 「なー、武蔵」


 「なんだ、また勝手にお菓子食いやがって」


 「仕事帰りにお菓子買ってくるのか?大量に買い込んで、変な目で見られないのか?」


 「大量に消費してる奴に言われたくはねーけど」


 ほぼ、消費担当といっても良いくらい、ギ―ルはお菓子を食べている。


 食費が魔人で減るなんて、それこそ可笑しな話だが。


 「あれ?これなんて、手作りっぽくね?もしかして武蔵ってお菓子作りとか趣味なわけ?」


 「んなわけあるか」


 「じゃーなに?女の子にでも貰ったとか?いやいや、武蔵がそんなにモテるわけねーもんな。悪いこと聞いたな」


 「・・・・・・」


 急に黙ってしまった蔵之介に、ギ―ルは顔を向ける。


 しばしの沈黙。


 いかにも手作りです、という風な小袋に包装されたクッキーやチョコ、パウンドケーキを頬張りながら、ギ―ルは目をぱちくりさせる。


 「え?まじ?」


 「・・・・・・」


 人が貰ってきたと知った今でさえ、ギ―ルは気にせず貪っているが。


 「職場でそういうの作るの好きな奴がいて、作る度にくれるんだよ」


 「ふーん。味はまあまあだな」


 「上から言うな」


 と、何を思ったか、ギ―ルはランプをガタンガタンと乱暴に揺らした。


 頭が変になったかと思っていた蔵之介。


 だが、しばらくして、ランプから顔をタオルで拭きながらシェルが出てきた。


 「顔でも洗ってたのか?」


 悪びれのないギ―ルの言葉に、シェルは洋風のポットから注がれる熱いお湯をぶっかけた。


 「あちちちちちちちちち!!!!!」


 「おい。俺のベッドがびしょ濡れだぞ」


 本当に、自分家かと聞きたくなるくらい、遠慮がない奴ら。


 そしてギ―ルはお湯をかけられた上着を脱ぎ、丁寧にハンガーにかけて干し始めた。


 「ティータイム中になんだ」


 「あーあー、お洒落タイムに悪うござんしたね。で、コレ、食ってみ」


 「・・・毒か」


 失礼な奴らだとまた思った蔵之介だったが、まあ、放っておくことにした。


 目を細めて、ギ―ルに渡されたクッキーをマジマジと観察中のシェル。


 そういえば、最近は貰ってもすぐにギ―ルが食べるため、味の感想を聞かれても困っていた。


 適当に美味しかったとは言っているが。


 「・・・無難な味だな。俺の趣味ではない。紅茶に合わせて口にするなら、もっと強い味でも良いな」


 「だとさ」


 「ああ、なんか余計なお世話ありがとな」


 それにしても、文句を言いながらも良く食う奴らだと、いつも以上に思った。


 翌日、その女性から味の感想を聞かれた。


 「えと、ああ」


 昨日シェルの言っていたことを正直に言ってしまった方が良いのか。


 お菓子を貰うと言う事は、食糧を貰うと言う事。


 それはそれで有り難かった蔵之介にとっては、これで機嫌を損ねてお菓子を貰えなくなっても困るのだった。


 悩んでいると、思いもよらない来客者が現れた。


 「げっ」


 蔵之介が書類を忘れたらしく、なぜかギ―ルがコソコソもせずに会社に乗りこんできていた。


 部屋で大人しくしてくれていれば良かったのだが。


 その異形も異形な赤い髪の毛は、嫌でも目立ってしまう。


 蔵之介は隠れるように移動し始めると、大声で名前を呼ばれてしまった。


 「お前なんでここがわかったんだよ」


 「なんだよ、忘れモン持ってきただけだろ」


 タイミングが悪いことに、その場にはまだあの女性もいた。


 女性から甘い匂いを感じたのか、ギ―ルは無遠慮に女性に尋ねる。


 「もしかして、お菓子の人?」


 「え?」


 お菓子の人ってなんだとか。


 そもそもここは会社だぞとか。


 言いたいことはあったが、今は一秒でも早くギ―ルを帰すことが先決だった。


 クンクン、と犬のように女性の匂いを確認すると、ギ―ルはケロッとこう言った。


 「美味いか不味いかはおいといて、俺はとりあえず腹に入れば同じだ精神だから、気にすんな」


 「は、はぁ・・・」


 女性の肩に手をポンッとおき、なぜか慰める様な言葉までラッピングしていった。


 女性も突然のことに目をぱちくりさせ、とりあえずの返事をする。


 「じゃーなー」


 ひらひらと手を動かしながら帰って行ったギ―ルは、その日、懐に隠していたお菓子を、全て蔵之介に没収されてしまうのであった。


 ギ―ル曰く、食べ物を選択するようなシェルよりはマシだと思う、とか。


 「頼むから、お前等、ランプに入ってろ」











  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る