後編
俺が予想だにしなかったこと。
それは元気だった父親の死。
死因は心臓発作だった。肥満が災いしたのかもしれない。
いずれにせよ、新しい王が必要になった。
遺言状がなかったことから、できの悪い長兄が玉座についた。
母親が生きていれば長兄の暴走は止められたかもしれない。
だが残念なことに2年前に亡くなっていた。
長兄は、次兄にありもしない罪を着せて牢屋に閉じ込めた。
そして一度も外に出さずに処刑してしまった。
おそらく将来の憂いになると考えたのだろう。
このままでは俺もいつか殺される。
こうなったら殺される前に殺すしかない。
俺は、長兄が一人になったときに近づき――――
デコピンぴ~ん! ぐにゃ!
軽いデコピンで首をへし折った。
長兄が死んで一番得をするのは俺だ。
俺に疑いの目が向くのは避けられない。
だから偽装工作をした。
ひそかに購入したナイフで死体の胸を刺したのだ。
結局、国王暗殺は侵入者のしわざということになった。
残った兄弟の中で男は俺一人。
俺の戴冠式が盛大に催された。
国王になった俺が最初にやったこと。
それは二人の姉の排除である。
二人の姉も長兄のように性格が悪く、小さい頃から好きになれなかった。
俺は、仲の悪い2つの国に特使を送り、二人の姉の嫁ぎ先を探してもらった。
いや~、おもしろかった。
呪ってやるとか、殺してやるとか……二人ともわかってるんだろうね。
これからどんな扱いをされるか。
けど、それは姉たちの日頃の行いが悪かったせいだ。
二人の姉を排除した俺は、新しい国を作るために改革を始めた。
無能な者を更迭し、地位に関係なく優秀な者を後釜に据えた。
彼らの活躍により、小さい王国は発展していった。わずか二十年ほどで大きな国になった。
その間に、俺は妃を迎えた。
20歳のときに滅ぼした国の姫を娶ったのだ。
滅ぼしたと言っても、こちらから仕掛けたわけじゃない。
一方的に宣戦布告して攻めてきたのだ。
大国ゆえのおごりか、力をつけていく我が国を恐れたのか。
いずれにせよ腹が立ったので俺が出向いて戦場の指揮をとることにした。
主力で敵軍を蹴散らし、敗走する兵士を容赦なく殺した。
この戦いで敵側の王と三人の王子は戦死。
俺は敗戦処理をするため敵の城に向かった。
我が軍が城に着く頃には相手に戦況が伝わっているはずだ。
城にいる者達が全員自害していてもおかしくはない。
だが俺が城に入ったとき誰も死んでいなかった。
王位継承権第1位の姫が死ぬことを許さなかったからだ。
レイプされたあと殺されるかもしれないのに、姫は生きることをあきらめなかった。
実に気丈な少女だった。
歴史ある大国を力で併合するのは骨が折れる。
そのうえその頃、俺は、早く結婚するようにせっつかれていた。
俺の好みを絵に描いたような容姿をしていたので、俺は少女を娶ることにした。
最初こそ色々あったが夫婦仲は良好で。
3人の子宝に恵まれた。
仕事もプライベートも充実しており、今後もこの幸福は続く――――
そう思っていた矢先、思わぬ悲劇が俺を襲う。
ある戦場で矢に当たってしまったのだ。
しかも毒矢に。
俺はそこで意識を失い、気付いたら深い霧の中に立ち尽くしていた。
デコピンぴ~ん! ヒュン
デコピンぴ~ん! ヒュン
だが、霧にデコピンしても、いっこうに晴れない。
デコピンがあれば最強なのに。
デコピンがあれば幸福になれたのに。
もうデコピンは何の役にも立たなかった。
――――それから俺は、霧の中をさまよった。
歩いて、歩いて、歩き続けて。
ある所にくると前方に強い光が見えた。
なんか嫌な予感がした。
おそらく、あそこに行けば俺は死ぬ。
だから、俺は足を止めた。
すると光の方から迫ってきた。
俺は逃げた。
逃げて、逃げて、逃げ続けて……。
結局、強い光に飲み込まれた。
そこで意識を失い、はたと気づいたとき。
俺は駅のホームに立っていた。
入ってきた列車がゆっくりと止まり、乗客たちがわらわらと降りてくる。
長年の習慣から俺は脇にどいた。
わけがわからず混乱してると、一人の少年が車両から降りてきた。
そして、俺の前に立ち――――パチン! 軽くデコピンしてきた。
その少年は俺の腕を引いて、何事もなかったかのように電車に戻った。
そして、人なつっこい笑顔で「勉強はかどってるか? 俺ははかどってるぞ。
第三王子は辛いんです! 藤原耕治 @haruaki88800
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