第三王子は辛いんです! 

藤原耕治

前編

 小学校の頃は勉強ばかりしていた。

 親の教育方針で漫画やアニメを見ることはできなかった。


 だが、そのかいあって私立の名門中学に合格。

 そのまま私立の進学校に進んだ。


 俺の未来は明るい――――そう信じて疑わなかった。


 だから頑張れたのだろう。

 いつも全力疾走のような状態であっても。体調が悪化するほど無理を重ねても。


 けどセンター試験の当日、連日の寝不足が祟ったのか駅のホームから線路に転落。

 俺はあっけなく死亡した。


 それはもうあっけなさすぎて自分で呆れるくらいだった。


 こんなことなら、もっと人生を楽しめば良かった。

 俺は心底後悔した。


 だが後悔先に立たず。

 もうどうにもならなかった。


 俺は、真っ暗い空間に飲み込まれてしまい、そこに居続けることしかできなかった。

 

 ――――そこにどれくらい居たのかわからない。


 数時間のような気もしたし、数年のような気もしたし、数十年のような気もした。


 で、気づいたら赤ん坊になっていた。

 そこは異世界で、俺は王の三男だった。


 俺はなぜか前世の記憶を保っており、そのせいでつらい思いをした。

 大人の考えが理解できるから、召使いの優しい微笑みでさえ裏がありそうで恐かった。


 異世界なんかに生まれ変わるんじゃなかった。

 そんな俺の考えが変わったのは7歳の時だ。


 それは、ある晴れた日――――

 城の裏山に遊びに行ったときのこと。


 幼なじみの貴族の少年の何気ない言葉が原因だった。


 その少年は俺に言ったのだ。


『デコピンで世界を支配するんだ!』と。


 正直アホかと思った。

 けど『子供なんてこんなもんだろう』と思い至り、スルーした。


 ところが、俺がスルーしたことが気に入らなかったのか、少年は俺にデコピンをくらわせようと襲い掛かってきた。


 何度も、何度も、何度も。


 あまりのうっとうしさに俺の堪忍袋の緒が切れた。

 少年の前方に回り込み、広い額にデコピンをした。


 パチン! なぜか、少年の首が飛んでいった。


 足下には頭のない身体があり、小さい血溜まりを作っていた。


 そのときの俺は、何が起こったのか理解できなかった。

 血に染まった自分の手を見つめて呆然としているだけだった。


 その後、城の人間が俺を保護。

 大人たちから事情を聞かれた。


 だが、本当のことなんて言えるわけがない。

 しかたがないので変な男が現れて貴族の少年を襲ったことにした。


 俺たちがいたのは城の裏山なので簡単には侵入できない。

 かなり苦しい言い訳だったが目撃者がいなかったことが幸いして、なんとかごまかすことに成功した。


 結局、俺は罪に問われなかった。


 その後の俺の生活は一変した。


 親や兄弟に内緒で城を抜け出しては、一人で冒険をした。

 デコピンだけでダンジョンを攻略できた。


 モンスターが持つどんな武器も、俺のデコピンに当たれば吹き飛んだり砕けたりする。

 モンスターが唱えるどんな魔法もデコピンを一つで、消し去ることができた。


 デコピンは最強だった。

 デコピン一つあればモンスターなど怖くないし、盗賊などのならず者も倒すことができた。


 デコピンぴ~ん! ぐちゃ!

 デコピンぴ~ん! ぶしゅ!

 デコピンぴ~ん! デコッ!


 楽しかった。本当に楽しかった。

 テスト結果に一喜一憂してたのがバカバカしいと思えるほどだった。


 だが、この生活も長くは続かなかった。

 突然、予想だにしないことが起こったからだ。




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