第2話

『続いてのニュースは、最近相次いで起こっている"神隠し"についてです。おおよそ一週間前ほどから、東京都全域で……』


「玲玲、もうそろそろ出かける時間よー」

「うん……」


朝の報道番組に釘付けになっているのは、ノシラにその体を貸し与えている少女、玲玲。

テレビの向こうに映っているのは、彼女にとっても不可思議な、それでいて心当たりのある謎の現象だった。


『防犯カメラなどに映る様子も確認されています。共通点としましては、夜中に一人で居る人が、性別にかかわらず急に消失するといった内容で……』


(たぶん、こいつわたしの仕業だよね)


人のお金を盗んだり、ちっちゃい子供のふりをして人を騙したりしていたろくでもないやつ――それが、玲玲のノシラに対する印象だった。

かくいう玲玲本人も、おやつや飲み物、ゲーム機を買ってもらうためにそれを黙認しているので、共犯と言えば共犯であることは理解していたのだが。


(何でも買ってくれるから、きっと私に対しては優しい……人? 神さま? だと思う、うん)


しかし、玲玲といえど夜中には寝ているし、家からは確実に出ていないはずだ。

それなのに人が消える事件が起きているというのも不思議な話である。


『また、消失した人は数日後に戻ってきたり、戻らなかったりする場合があるそうです。唯一戻った人は、行方不明となっていた期間の記憶はないと……』


(……ま、いいか。どうせ私には嫌なことないだろうし、ノシラさんも大丈夫って言ってたからね)


玲玲は、小学校への支度をする。

国語の教科書を入れ、ノートも入れ、少し重いランドセルを――。


「あれ? ランドセルが軽い気がする」


きょとんと首をかしげながらも、玲玲はそこまで気にせず出かけることにした。




それは登校中の出来事だった。


「え……えっと、玲玲ちゃん、いいかな?」


知らない声に、玲玲は呼び止められる。


「ん、なに?」


ぱっと玲玲が振り返ると、そこにいたのは、背丈が玲玲と同じくらいの少女ロリだった。


「えっと、だれ……?」

「だ……いや。ごめんね、ちょっとだけ用事があるんだ」


妙に大人びた口調で、その少女は玲玲に話し掛けてくる。


「あのさ……できれば僕を姿くれないかな」

「??????」


情報量が多すぎて、玲玲にはとても理解できなかった。


「頼む、君だけが頼りなんだ、何とか……!」


玲玲にとっては、とんと心当たりのない内容だ。

故に、彼女は困惑する。


「えっと……おんなじくらいの年の子だけど、警察、呼んでもいいのかな……」

「やめて!?」


その時、玲玲にこの体を借りている神さまノシラから脳内通信があった。

この子に対応するために体を貸してほしいそうだ。


(……ちょうどどうすればいいか分かんなかったし、任せちゃおっと)


どうせこれもノシラのせいなんだ、と一方的に決めつけて、玲玲の意識は深層の方へ沈んでいった。




「……よし」


ノシラは手を握ったり開いたりして、玲玲ちゃんの体が自分のものになっていることを確認する。


「――んで、

「あ、その呼び方は……」

「はぁ……神の力を行使しているのは玲玲ちゃんの力じゃないんだから、私の時に頼まないと無意味なんだからね」


ノシラは、目の前にいる少女……をにらみつける。


「で、話が違うよ。もうちょいこのが広まったら、戻してあげるって話だったでしょ」

「そんな、一人じゃ無理ですよ!?」

「あれ、四人くらいは用意して……あぁ」


と、彼女は、自分で五人の今の状況を確認してみる。

一人は復活させられた役として、彼女のことを広めてくれている……筈だが、音沙汰はない。

逃げられたのだろう。


(そして、まだちっちゃい女の子のままにしていたのは……一人はここにいるけど、残り三人は死亡、か)


しかも、そこそこ凄惨な方法だった。


小さい子玲玲ちゃんが聞いている前で話せる内容じゃないなー、これ)


ノシラの言葉が詰まり、ひと時の静寂が流れる。


「何でもない、忘れて」

「それ絶対何かあったやつですよね!?」

「最初から一人だった。うん。最初から一人」


目の前にいる元おっさんが、顔を青ざめさせながら、ノシラの方をぶんぶんとゆする。


「想像ついているかもしれませんけど、これくらいの年の子は、親がないとこの世界で生きていくのは過酷なんですよお!」

「分かったから! 私もおんなじくらいだし、しょうがないでしょ!」

「あなたは神さまじゃないですか!?」


完全にパニックになっている変異おっさんに絡まれながら、ノシラは頭を働かせる。


(力が足りるかなー、この、出生のところからいじらないといけないから力を使うんだよねー……)


随分と投資をしたが、その使った力の産物はほとんど消えてしまった。

ノシラに残された力は、残り僅か。


「……ごめんね、もうちょい迷惑をかけるよ。大丈夫、次のが終わったら、元に戻れるはずだから」

「ほんとですよね!?」

「うんうん、神さまうそつかない。だから……一個だけお願いがあるんだ」


ここから何とか力を節約して動くために、この目の前の少女おっさんの協力は不可欠だ。

そう考えたノシラは……思いついた案を、この少女にやらせることにした。


「とりあえず、でもやってきてよ。なるべく高いのね」

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ロリ信仰のお話 フェンニさん @FN2san

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