ロリ信仰のお話

フェンニさん

第1話

「――本当に来てしまった……」


 彼女はきょろきょろと、辺りの見知らぬ景色を眺める。


「数百年ぶりに社から出てみたが……なるほど、これはいかにも……、じゃ」


 周りに見えるものは、つい一世紀も前には影も形も無かった、無機質でどこか有機的な街並み。

 現代……2023年の、都会の姿そのままだ。


「えっと……どうしたものか、のお……」


 昔はよかった。

 そんなベタな言葉で済ます訳ではないが、少なくともこの幼子の姿を纏った、小さな神……には、今のこの環境は過酷なものだった。


 本来、神格に連なるものはこうやって外に出なくとも、人々の信仰の力によって社でぬくぬく生活ができるはずだった。

 だがこの神、ノシラはあまりに長いこと……時間にしておおよそ1000年、神託も下さず怠けた生活を続けていた。


 神さまと言っても、ノシラほどの弱小なものでは大した力は持たない。

 せいぜいが災害を一つ二つ起こせるくらいだろう。

 当然、何もせずとも生きていけるわけではなく……。


が底を尽きた今、何としてでも信仰の力を取り戻さないと、わらわ消えちゃうぅ……」


 ……神の世界も、働かざる者食うべからずなのである。



 今はこうして道端の少女……玲玲れいれいちゃんにお願いをし、体を借りて拠り所とすることで、現世界に存在することが出来ている。

 ちなみに対価は、最新のゲーム機二台とゲームソフトだ。


 逆にいうなら、今の彼女は人の霊体に干渉するほどの力は残っていない。

 もう少し力を残してさえいれば、一部の人の心に対して干渉する狂わすことで布教活動を行わせることが出来たのだが……。


「流石に借り物の身体じゃからな、そこら辺の人をちぎっては食べ、というのも……違う違う、冗談じゃ、本気にすな!」


 そして、体の主導権自体も玲玲ちゃんのもののままである。

 もしノシラがあまりに物騒なことをしようものなら、彼女はすぐさま体を乗っ取り返し、ノシラを追い出すことだって容易だろう。


「ふぅ……喉が渇いた。飲み物でも飲むかの」


 過酷な世界でも、飲み物がすぐに手に入る状態だったというのはノシラにとってありがたかった。

 そこら辺の人が持っている紙切れを手元に召喚して、四角い箱に入れれば好きな飲み物が出せるのだ。


「しばらくはこれで生活ができる。人の体を借りるというのは、便利じゃのう」


 ちなみに玲玲ちゃん的には、人のお金を抜き取るところはセーフらしい。




(さて、神さまエネルギーを増やす方法じゃが)


 実は、ノシラには一つのプランがあった。

 神としての信仰を手っ取り早く得る方法、それは……なるべく多くの人を、神の力で困らせることである。

 それも、出来ることなら普通には起きることの無さそうな……の類を。


(人々が困る超常現象……例えば、人々をか弱くする病気を蔓延させる、とか)


 ぼんやりと光る手元をくねくねさせて、目線をなるべく前に向けて魔力を練っていく。

 もちろん、何をやっているか玲玲ちゃんにバレると止められそうなので、バレないように。


(楔は……50年前でいいか)


 歴史を書き換える……なんてたいそうなことは、この今のよわよわになったノシラにはできないが、手元にある50年前の存在、昭和48年の100円玉を介して、ちょっと昔にある細工をする。

 今日のこれをするために、毎日いろんな人からお金を抜き取っては、自身の魔力を回復させるような嗜好品あまいものを食べてきたのだ。


 使い終わった手元のお手軽作業空間は消去して、あとはを実行するだけ。


(これで……多くの人が一斉に病むはず、じゃ!)


 最後に、光線をちらり。


 空の方で、妖しげな色の光が、一瞬だけ顔を覗かせる。


「ああ、あれか? ……明日からたくさん美味しいものを食べられるようにするための、じゃよ」


 玲玲ちゃんも気付いた様子だったので、適当なことを言ってごまかした。


「それじゃあ、今日は体を返すかの。明日また借りよう、ありがとう玲玲ちゃん」


 そう言って、ノシラが瞳を閉じると……ぼんやりとノシラの意識は遠のき、体は玲玲ちゃんの下へと戻った。

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