ジェイクとそのコピーのコピー
藍埜佑(あいのたすく)
ジェイクとそのコピーとコピー(SFショートストーリー一話完結形式)
2045年、ブレインアップローディング技術が実用化された世界。ジェイクは自分自身をデジタル化して保存することに決めた。彼は、自分の意識が永遠に残ることに興奮し、自分の人生の全てをデジタル空間で過ごすことができると考えた。
しかし、ブレインアップローディングされたジェイクは自分がデジタル空間で生きるにつれ、自分が本当の自分なのか疑問を持つようになった。彼は、自分自身と現実の自分との違いを感じ始め、自分がどちらが本当の自分なのかを探すようになった。
ある日、ジェイクは自分自身のコピーを作成し、デジタル空間で自分自身と対話をすることを決めた。コピーは自分自身と同じ人格を持っていることを自覚しており、自分が本物のジェイクとどう違うのかを探ろうとしていた。
ジェイク: 「こんにちは、ジェイクです。」
ジェイクのコピー: 「こんにちは、僕もジェイクです」
ジェイク: 「あなたは、僕とあなたどちらが本物のジェイクだと思いますか?」
ジェイクのコピー: 「私は、あなたと同じジェイクであり、しかし現実のジェイクとは言えません」
ジェイク: 「そうですね。でも、私たちは同じ人格を持っていると言えますね」
ジェイクのコピー: 「はい、それはそうです。でも、私たちは違う存在であることも事実です」
二人は話し始め、最初はどちらが本物のジェイクなのかを探ることから始まった。しかし、次第に話題は自己同一性や現実とデジタル空間の関係についての哲学的な問いかけに変わっていった。
ジェイク: 「私は、デジタル空間で生きる自分と、現実の自分が同じだと感じられなくなってきました。なぜなんでしょう? 自己同一性って、いったい何なんでしょうね」
ジェイクのコピー: 「私も同じ思いを抱いています。自己同一性は、ある種の錯覚かもしれません」
ジェイクは、自分自身がデジタル空間で生きる自分と、現実の自分がどちらが本当の自分なのかを考え、コピーとの対話を通じて答えを見つけようとした。一方、コピーは、自分自身がジェイクのコピーであることを自覚しており、自分が本物のジェイクとどのように違うのかを探ろうとした。
ジェイク: 「でも、私たちは、デジタル空間で生きる自分自身と、現実の自分自身のどちらが本当の自分なのかを知る必要があるのでしょうか」
ジェイクのコピー: 「それは、個人によって異なるでしょう。でも、私たちは、デジタル空間で生きる自分自身が、現実の自分自身と同じように大切であることを認める必要があるかもしれません」
二人は数日間、対話を続けた。それは自己をめぐる深い対話だった。そしてさらに深い対話を数年、数十年続けた。彼等の対話を本にまとめたとしたら、世界もそれを収容することができないほど膨大なものになっていただろう。しかし、最終的には、彼らは答えを見つけることはできなかった。
ジェイク: 「自己同一性に関する哲学的な問いかけは、私たちがデジタル空間に永遠に残ることを選んだ場合に、より複雑になると思います。私たちは、自分自身がデジタル世界で生きていることで、現実世界での自分自身と違う存在になるかもしれません」
ジェイクのコピー: 「確かに、自己同一性は、私たちが現実世界で生きる場合とは異なる形をとるかもしれません。でも、私たちは、デジタル空間で生きる自分自身を、現実世界での自分自身と同じくらい大切に扱う必要があると思います」
ジェイクは、コピーの言葉に納得した。彼は、自分自身がデジタル空間で生きることを選んだことに後悔はなく、自己同一性の問題を探求することで、デジタル空間と現実世界の関係についてより深く考えることができた。
しかし、熟考の末ジェイクは自分自身のコピーを削除することを決めた。このままコピーと共存していると、自分がおかしくなっていく気がしていたからだ。しかし、予想に反してコピーは何も抵抗せず、静かに削除されることを受け入れた。
ジェイク: 「ごめんなさい、この対話は僕にとっては必要なことだったんだ」
ジェイクのコピー: 「大丈夫です。私は、あなたが私を削除することを決めた理由を理解しています。何しろ、僕はあなたなのですから」
コピーは静かに微笑んで消えていった。
ジェイクは、削除されていったコピーについて、複雑な思いを抱いた。彼は、自己同一性や現実とデジタル空間の関係について、より深く考えるようになった。
彼は、デジタル空間で生きることが現実世界での自分自身と同じくらい重要であることを学び、自己同一性の問題についての哲学的な探究をさらに続けることにした。
その頃にはすでに現実世界のジェイクは亡くなっていた。もちろん彼がデジタル空間に生きるジェイクを削除することはなかった。
(おしまい)
ジェイクとそのコピーのコピー 藍埜佑(あいのたすく) @shirosagi_kurousagi
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