第5話

「おはよう、マナト君。待たせちゃった?」

「おはよう、みっちゃん。僕も今来たとこ」


 日曜の朝10時。私たちは近くの公園で待ち合わせをしていた。

 因みに今は9時50分。早めに付いておこうとしたが、マナト君はソレよりも早く待ち合わせ場所にいた。


「それじゃ、バス停行こうか」


 私たちは今日映画を見に行く。今流行の学園青春モノだ。

 そして映画館がある商業施設はバスで30分ほど。

 歩きでも行けなくはないが、時間がかかるためバスで行くことになったのだ。


 ……断言しておく。これはデートではない。

 繰り返す、これは! デートでは! ないっ!!!!!!!!!!!




 ◇ ◇ ◇


「――でさ、マナト君まだ甘いモノ好き?」

「うんめっちゃ大好き。甘いモノはいつでも美味しいからね」

「良かった。今度駅前のカフェでね、期間限定のパフェが――……あ、もう最寄り」


 バスの中で話していたらあっという間に着いてしまった。

 バスを降りて大きく伸びをする。

 30分も座りっぱだった体を解していく。

 しかし。


「着いて早々なんだけど、ちょっと喉渇いちゃった」

「……僕も」


 バスの中でずっと……いや、バスを待っているときから話していたからもう喉がカラカラだ。

 少しどこかで休憩を……。


「映画までまだ時間あるし、そこのファミレス入ろうか。少し早めのお昼って事で」


 そう言って彼が指さしたのは、入り口にあるファミレス。


「賛成!」


 断る理由なんてない。早速私たちはまっすぐファミレスへ向かうことにした。




「――最近どう? 勉強……特に数学はついていけてる?」

「う、うん……。今はまだ、ね。この先どんどん難しくなると思うと気が滅入っちゃうよ~」


 注文した料理を口に運びながら、また雑談に花を咲かせる。


「みっちゃん、算数苦手だったもんね」

「いいよね~マナト君は。理系だから数学なんて余裕でしょ?」

「今のところはね、この先どうなるかわかんないけど」


 そんな感じで雑談しながらご飯を食べ終えてファミレスを出たが、どうやらまだ時間に余裕はありそうだ。


「あ、ねぇ。まだ余裕あったらちょっと見たいトコあるんだけど……」

「ん、いいよ。行こうか」


 私が行きたいところ。それはアクセサリーショップ。

 スクールバックにつけるキーホルダーが欲しかったんだよね~。


 店に入って中を見て回る中で一つ、目に付いたモノがあった。

 まるで雷に打たれたかのような衝撃があった。

 そのキーホルダーに目が行ってしまう。そのキーホルダーしか映らない。


 そのまま手に取ってみる。

 大きな赤い宝石があしらわれたハートのキーホルダー。

 キラキラと輝いているが、主張しすぎることはなく。

 つい目が奪われてしまう。そんな魅力を放っていた。


 チラッと値札を確認する。


「げっ」


 う~ん。凄く高価って程でも無いけど、今は買えない。

 今月はマンガにお菓子、食べ歩きなど随分使ってしまっている。

 とても余裕のない今は手が出せない。


「いい物見つかった?」


 後ろからひょこっと顔を出す。


「う、ううん、特に無かったかな」


 手に持っていたキーホルダーを棚に戻す。

 物欲しそうに持っているとこを見られたくない。


「ソレは残念。……あ、もうすぐ時間だね。映画館行こうか」

「……うん」


 …………仕方ない。今日は諦めよう。

 また余裕があるときに絶対に買いに来よう。

 そう決意して、私は店を後にした。

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