大いなる変化のための小さな出会い

「神」という崇高さと「5丁目」という身近な言葉が不思議に響き合う題名に惹かれました。
かつて十字路で悪魔に魂を売った引き換えにギターテクニックを得た伝説的ブルースミュージシャンのロバート・ジョンソンを想起させるが、こちらは「神」だ。

妻帯者のサラリーマンである主人公の「男」は、その日もいつもと同じ様にトラムから5丁目の交差点で降りる。短い物語はそこからはじまる。



そこで出会った「その人=神」は誰だろう。なぜその人を追うのだろう。一瞬で旧知の間柄に思いながらも、すべてが謎のその人物。
男の疑問は思考の枠を飛び出して、縦横無尽に飛び交い、自身の人生をも振り返る。

ある疑問にぶつかったとき、随伴して次から次へと考え込んでしまうことがある。余計なこと、関係ないことまで、まるで脳内で解けない問題に苛立ったシナプスが、これでもかと関連事項を引いてくるかのように。

たとえば上司に叱責された眠れない夜に、子供の頃友達に言ってしまった、何気ないけれども後悔している言葉を思い出してしまうとか。

男は束の間「神」と対話する。そして何かを知る。
他者から見たら何も変わっていない様で、当人にしてみれば世界が一転するかのような、ちょっとした見方、考え方の変化だ。
それはきっと種を蒔くように、彼を内側から少しずつ、良い方向へ変えていくのだろうと予感させる。
いつだって、変化というのは、急激なものよりも、じわじわ、少しずつ、しかし確実な歩みの方が、最終的にインパクトが強いのだ。