第3話汝、我にあり







ラグナロク参

汝、我にあり


真実は、虐げられる側にある。


          マルコムX






































 第三昇【汝、我にあり】




























 「なんだなんだァ?


 「総大将様がお出ましだ」


 わいわいと騒いでいるとある場所。


 滅多に顔を出さないその男の登場に、餓鬼たちは話しをしていた。


 気紛れに活動をしている餓鬼たちだが、総大将からの命ともあれば、動かないわけにもいかなかった。


 餓鬼たちを引き連れて、再びあの場所へと向かっている姿があった。


 「・・・・・・」


 その気配に気付いたのか、四人は清蘭を部下たちと青龍たちに任せると、すぐに戦闘準備へと入る。


 そして少し待った頃、彼らは現れた。


 「暇なんだな、お前等」


 「・・・・・・」


 こちらをただじっと見ているぬらりひょんだったが、そこに別の気配も現れた。


 「やっぱりねー。強い気配を感じたから、きっとあいつらだと思ったのよ。今日は邪魔されないようにしなきゃ」


 「あたし達だけでも充分だと思うけど」


 「憐華、そう言うな。奴らに悪い」


 「何よ、弱いってあんたが一番言ってたじゃないの、芭陰」


 ぬらりひょんたちの他にも、タイミング悪くランタンを引き連れた茅杞たちがやってきた。


 しかし、今の四人にはあまり不安はなかった。


 特別自分の力に自信がついたから、というわけではなく、ただなんとなく、なんとかなると思っていたのだ。


 茅杞たちの登場に、ぬらりひょんは天狗とおろちにちらっとアイコンタクトを取ると、そのまま清蘭の方へと行ってしまった。


 「あらあら。わらわたちだけで間に合うってことかしらー?まあいいわ」


 茅杞の前には煙桜、そしてその隣には憐華と向かい合う琉峯、芭光たちの前には帝斗が、ランタンたちには麗翔が対峙した。


 「わらわたちに勝てると思ってるのかしら?まったくめでたいわね」


 「・・・・・・」


 煙桜は茅杞の話を聞いているのかいないのか、いつものようにポケットから煙草を取り出すと、口に咥えて火をつけた。


 煙を空に向かって吐き出すと、しばらく茅杞とは目も合わせなかった。


 その隣にいる琉峯は、憐華が琉峯の周りをぐるぐると取り囲む。


 「この前は死に損なったけど、今日こそはちゃんと仕留めてあげるから安心してね」


 「・・・それは遠慮します」


 琉峯が以前と同じようにして、憐華の周りに植物を蒔く。


 「変わり映えのない攻撃ね」


 そう言って、憐華は小さい雹を出し、植物に自分が通れるほどの穴を開けると、そこを通ってきた。


 姿が見えたり見えなかったりで琉峯に近づいてくると、琉峯の前の前に顔を見せて、琉峯の背後に気付かれないように尾を琉峯の首に巻きつけた。


 「これで絞め上げてあげるわ!!」


 グググ、と首を強く絞め上げて行くと、琉峯は苦しそうな表情になる。


 それを見て、憐華は止めとばかりにさらに力を込めた。


 しかしその時、琉峯の肌がおかしな色へと変化していった。


 「なに・・!?」


 琉峯の肌は、まるで植物のように緑色へと変化していき、身体も服も、全てが植物と同化してしまった。


 ついには枝が折れるようにしてバキッと曲がってしまった。


 「・・・!?」


 一瞬唖然としてしまった憐華だが、とにかく琉峯を殺したのだと、高笑いしていた。


 その時、背中に何かを貼られ、憐華は勢いよく後ろを振り返ってみると、そこには信じられない光景があった。


 植物が生い茂るその場所に、琉峯が植物と一体化して上半身だけそこにあったのだ。


 「ど、どういうこと!?・・・うっ」


 自分が植物に穴を開け、そこから移動するよりも速く、琉峯は消えたかと思うと瞬時に別の場所に姿を見せる。


 琉峯に貼られた背中の札からは、憐華を覆う様にして蔓が伸びてきて、憐華の腕を拘束する。


 「くっ・・!どうなっている!?」


 一方、未だ煙草を吸っていた煙桜のことが待てなくなったのか、茅杞はいきなり狐の姿へとなった。


 「わらわの恐ろしさを知りなさい!」


 「・・・・・・」


 煙草を吸い終えると、煙桜は吸い終わったソレを靴底で火を消す。


 携帯している灰皿に入れていると、茅杞が大きく口を開けてきた。


 そこから毒霧を吐き出すと、煙桜を取り囲むようにして毒霧はモクモクと濃度をそこにとどめる。


 「ふふふ。わらわの毒霧を受けたからには、もう無事では済まないわ」


 クスクスなのかコンコンなのか、どういう笑い方かは不明だが、とにかく、そんな感じに笑っていた。


 しかし、茅杞は目を大きく見開くことになる。


 「・・・!?な、なに!?」


 茅杞が吐き出した毒霧が、なぜか塊となって動かなくなってしまった。


 そしてガラガラと崩れて行くと、その中からは平気な顔をした煙桜が出てきた。


 「あんた・・・一体何をしたの!?どうして毒霧が効かないの!?」


 「・・・俺も驚いた。まさかこんなことが出来るなんてな」


 「ふざけたことを・・・!!ならいいわ」


 そう言うと、茅杞は次に、炎を出しながら煙桜の周りを走り回った。


 すると、煙桜の周りには炎の柵のようなものが出来てしまい、要するに炎に囲まれてしまった。


 茅杞は自らが発した炎のため、炎の上を歩いても平気そうだ。


 「さあ、焦げて死ぬか、それとも毒に苦しむか、決めさせてあげるわ」


 「どっちも御免だな」


 憐華と戦っている琉峯は、憐華の前で剣を構えていた。


 しかし、腕を拘束されたからといって、動けなくなったわけではないため、憐華は身体を捩りながら逃れようとする。


 穴を開けた植物にわざと身体をぶつけていき、自分の腕を拘束している蔓をなんとかして解けないかとしていた。


 しかし、思ったよりも蔓はしっかりしていて、なかなか解けない。


 雨を降らせて滑りよくさせてみたが、一瞬緩まったかと思うと、まるで蔓が意思を持っているかのようにして、さらに強く縛られてしまった。


 琉峯から見えない場所に隠れると、憐華は腕に絡みつく蔓を解こうと、何度も何度も力を入れるが、その度に更に蔓が絡みつく。


 「くそ!!一体どうなってるの!?」


 以前戦った時とは何かが違う。


 ふと、琉峯と思われる気配が自分に向かってくるのが分かり、憐華は尾だけを動かして琉峯を捕えようとする。


 遠回り遠回りをして、琉峯の足を捕まえることが出来た。


 「あたしにも、微量ながら毒があるのよ!人間相手なら、少しでも効き目くらいあるでしょう!!!」


 「!!」


 自分の尾によって足をとられている琉峯を見つけると、憐華は琉峯の首筋に噛みついた。


 「あらあら。あっちはもう終わりそうね。なら、わらわたちも終わりにしておきましょうか」


 そう言うと、茅杞は炎をさらに強くして、カマクラのように炎の屋根を作った。


 煙桜と茅杞だけがそこに取り残されると、茅杞は毒霧を出しながら、煙桜の上に覆いかぶさって行く。


 「わらわの全部の毒を持ってして、あなたを殺してあげるわ」


 茅杞の毒は、茅杞自身の炎によってさらに毒性を増すようだ。


 「苦しみながら、死になさい・・・」








 ズサササ・・・と、茅杞の炎を突き破ってきたのは、琉峯の植物だった。


 「ちっ!また邪魔を!!」


 「茅杞、気をつけて!」


 「え?」


 いつの間にか、茅杞の周りには食虫植物だらけになっており、茅杞が出した炎も消されてしまっていた。


 毒で倒したと思っていた煙桜も、毒の動きを止め、それを錆びにしていたため、無事だった。


 「憐華、逃げ道は作れないの?」


 「無理よ」


 晴れさせたとしたら余計に植物は育ってしまうし、雹だってもう何度もやったがダメだった。


 雷も、この食虫植物は自在に動くため当たらないし、あられなども同じだろう。


 「霧を出すから、そのうちに逃げましょう」


 憐華は、すぐ目の前さえ見えなくなるほどの霧を出すと、茅杞と逃げる計画を立てた。


 その時、赤く小さな灯りが見えた。


 「ふー。勝手に喧嘩売ってきて勝手に逃げるたぁ、いただけねぇなぁ」


 それは、煙桜が口にした煙草のものだった。


 茅杞と憐華は逃げ道を探すが、四方八方に巨大な植物はあるし、その外には食虫植物が待ちかまえている。


 穴を開けてそこから逃げようとしても、なぜかすぐに再生されてしまう。


 煙桜は琉峯の手を借りて外へと出ると、わずかな隙間だけを作るように頼んだ。


 「一体何を?」


 「・・・なに、すぐ終わる」


 煙桜は、先程茅杞が出してきた毒霧を固まらせたものを割って、その隙間から植物の囲いの中へと入れる。


 中は霧になっているから、きっと見えていないだろう。


 それらがすべて注ぎ込まれると、煙桜は吸っていた煙草をぽいっと中に放り込んだ。


 「あ」


 それを見て、琉峯が声を出した時には、もうすでに手遅れだった。


 霧で充満している中に毒性の強い霧を入れ、そこに火のついた煙草を放り込んだことで、植物の中で一気に爆発が起こった。


 琉峯や煙桜にまで多少の爆風が感じたため、中にいたら悲惨なことになっていただろう。


 「もし植物まで吹き飛ばされてたらどうしたんです」


 「そん時ァ、まぁ、そん時だ」


 「そんなもんですか」


 「そんなもんだ」


 そう言うと、煙桜はまた新しい煙草を吸い始めた。


 植物がしゅるしゅると回収されていくと、その中からは、すでに意識を失った茅杞と憐華がいた。


 「それよりお前、植物を移動出来るようになったのか?」


 「まあ。そうらしいです。植物と同化して移動できますし、植物を自分の化身として出現させることも出来るみたいです。他はまだ分かりませんが」


 「御苦労なこったな」


 「煙桜も、毒は平気だったんですか」


 ふー、と煙を吐き出しながら、煙桜は膝を曲げた。


 「まあ、触れれば、気体だろうと液体だろうと錆びに出来るみたいだが、触れなくても、さっきみたいに錆びのコーティングをすれば、毒も効かねえな。俺自身から錆びも出せるみたいだが、出したくねぇしな。俺も錆びなら移動できんのかな」


 「・・・錆びを移動って、なかなか難しいと思いますけど」


 「そうか?」


 2人が茅杞たちと戦っている時、麗翔もランタンたちを射落としていた。


 ランタン自身炎を持っているが、それよりも強い火力であれば、ランタンは簡単に倒せることが出来た。


 そして何より、麗翔は自分自身も炎になれるため、ランタンからの攻撃があったとしても、ダメージがなかった。


 「まったく。次から次へと!なんでこう、今回私はこんな雑魚相手しかないのかしら!」


 弓を射ると、その弓自身が炎へと姿を変えながら、相手を射ぬく。


 そんな中、巨大なランタンが現れた。


 「ランタンなんかより、日本人形の方が怖いってのよ!!!」


 麗翔は炎に姿を変えると、そのままランタンの上へと乗っかる。


 そして短剣を手に持つと、短剣ごと大きな炎となってランタンを丸のみした。


 その後炎は徐々に小さくなっていき、ランタンはまるで無かったかのように姿を消してしまった。


 「はい、お粗末様」








 「ったく。なんで俺がこいつの相手かな。てかさ、これって実質1対3ってこったろ?そんなのありかよ。まあ、俺なら倒せるっていることかもしれねぇけど、煙桜は絶対面倒臭くてあっちに行きやがったな。後であいつの酒に青汁混ぜてやる」


 「何をブツブツ言ってるんだ」


 「いやなに、こっちの話さ」


 芭光、芭氷、芭陰たちと向かいあっていた帝斗は、すでに足元が芭氷によって氷で固定されていた。


 しかし、近くで麗翔が戦っていたからか、氷はほとんど溶けていて、帝斗は動けるようになった瞬間、まずは芭氷を狙う。


 「俺、寒いのは苦手なんだよ!!」


 「そんなこと俺様が知るか!」


 芭氷は帝斗の身体ごと凍らせようと掌を帝斗に向けると、帝斗の手、足から徐々に凍りつこうとする。


 しかし、帝斗は氷だけを重量で地面におしやると、芭氷の顔面に、帝斗の力プラス重力を押しやる。


 すると、芭氷の顔は予想以上に帝斗の腕をめり込ませていく。


 「芭氷!?」


 「あがっ・・・!!」


 「おーおー。イケメンが台無しだな。ま、俺様野郎じゃモテないだろうけどな」


 帝斗を捕えようと腕を伸ばした芭光だったが、帝斗は身軽にひょいっと芭光たちの上を一回転する。


 そして背後に着地したかと思うと、芭光は帝斗に向かって光を放つ。


 帝斗はそっと目を瞑ると、手を広げる。


 すると不思議なことに、帝斗の手の前には真っ黒な何かが現れた。


 「・・・!?」


 芭光の光はその暗がりへと吸い込まれてしまい、帝斗が目を開けてみても、光りは全てそこへと吸収されていった。


 「どういうことだ!?なぜお前に当たらない!?」


 「へへ。ブラックホールだ」


 「なに・・・?」


 「確かに、お前のその光をもろに受けちまえば、俺たちァひとたまりもない。失明だってするかもな。だが、幾ら速い光だって、吸い込まれちまえばその威力は発揮出来ねえだろ?」


 「ふざけるな!!!!!」


 「至って真面目だ」


 芭光が帝斗に向かって何度も光を放つが、それらは全てブラックホールの方へと吸収されてしまし、帝斗は少し眩しいと感じるくらいだ。


 「芭光、落ち着け」


 「くそっ!!!」


 自棄になっている芭光を落ち着かせると、芭陰が帝斗に攻撃をする。


 芭陰によって暗闇に包まれた帝斗は、孤独だ。


 時間の流れもなく、風景もなく、自分という存在がまるで無いかのような空間。


 だが、そんな中でも帝斗は落ち着いていた。


 「・・・まあ、今まで生きてきた人生なんざ、こんな場所よりも苦痛だったからな」


 そう言うと、帝斗はすうっと目を閉じる。


 すると、ドクン、と帝斗の心臓が高鳴り、一瞬にしてその暗闇から脱出した。


 それを見て唖然としている芭陰に、帝斗はこう告げた。


 「もしも俺に絶望を見せてぇなら、もっと人間てもんを勉強しな」


 「なんだと!?」


 再び帝斗に向けて陰を出そうとした芭陰だったが、その瞬間、帝斗によって吸い込まれてしまった。


 「!?どうなってる!?」


 「俺の前じゃあ、そんな攻撃は無意味ってことだ」


 帝斗は芭陰に向かってトンファーを向ける。


 トンファーが芭陰を掠めただけで、トンファーを覆っていた黒い何かによって、芭陰は意識を失ってしまった。


 残され、何が起こったか分からない芭光だが、帝斗と体術勝負をするが、体術で帝斗には敵わなかった。


 ふと、大人しくしていたはずのおろちが、大蛇の姿で回りを取り囲んでいた。


 勿論、帝斗だけでなく、琉峯、煙桜、それに麗翔も囲まれているのだが、なぜか誰一人として焦ってはいなかった。


 ちょっと帝斗が目を離した隙に、芭光は清蘭たちのところへと走っていた。


 「・・・はー」


 ため息を吐きながらも追い掛けると、そこにいた青龍たちに向かって、芭光は光を浴びせていた。


 その光は青龍たちにも効くようで、フェニックスは飛ぶのを止めてしまうし、見えていないのか、みな渋い顔をしていた。


 てっきり効かないと思っていた帝斗は、今の状況で攻撃されてしまったら、清蘭を守るのは部下たちしかいないため、慌てた。


 芭光だけならまだしも、ぬらりひょんもいたことを思い出すと、帝斗は重力を利用して急いで向かう。


 向かうのが速いなと思ったが、よくよく考えてみれば、芭光は光なのだから、速くて当たり前だった。


 一度だけではなく、芭光は何度も強烈な光を浴びせかけ、しばらくは目が見えないようにしてしまった。


 そのせいか、見えなくなった青龍たちは、建物にぶつかって、建物自体も壊れるという具合だ。


 「やっべ」


 着いた頃には、結界を貼っている最低限の人数を覗いて、部下たちも芭光の光によって目が見えなくなっていた。


 ついには芭光は清蘭を狙い、清蘭が目を開けたその瞬間、強い光を放った。


 「・・・!!!」








 清蘭に何かあれば、一度でも結界が薄まったり消えてしまった場合、そこから次々に鬼達が入ってきてしまう。


 それは人間世界において多大な影響を及ぼすことになる。


 なんとか間に合えと、帝斗は腕を伸ばす。


 「はははは!!!これで結界が薄まれば、ぬらりひょんが簡単に壊してくれるだろう!!!」


 「くそ!」


 蹲ってしまった清蘭は、気を失ってしまったのだろうか。


 しかし、それにしては結界が壊れてもいなければ、薄まってもいない。


 「?確かに光は当たったはず・・」


 まだそこに留まっている光を見て、芭光も首を傾げていた。


 「はぁ・・・はぁ・・・」


 「?誰かいる?」


 清蘭に向けて放った光は、清蘭の視力をしばらくの間奪うはずだった。


 しかし、何かに弾かれているような、止められている様な、光は清蘭に届く前にそこで動くのを止めてしまった。


 芭光の光はそこに留まったかと思うと、芭光の方へと跳ね返ってきた。


 「ったく。ツメが甘いんだよ、お前等は」


 「あ!!!起きた!!!」


 清蘭の前にいたのは、脇に小さな女の子、座敷わらしを抱えた男、鳳如だった。


 「清蘭!無事か!」


 「ええ、ありがとう」


 鳳如の腕から、水に焦がれた魚のように飛びだした座敷わらしは、すぐに清蘭へと飛び付いた。


 一方、鳳如が出した巨大な鏡によって、芭光は自分の光を自ら浴びてしまった。


 「くう!!!」


 「鳳如!意識戻ったのか!?」


 「んなことより、早くアレどうにかしろ」


 「お、おう」


 すると、その巨大な鏡はパリン、と割れてしまった。


 鏡を壊したのはぬらりひょんだったが、ぬらりひょんは鳳如に任せて、帝斗は目が眩んでいる芭光のもとへと向かう。


 「手間かけさせんじゃねえよ!!」


 思い切り振りかぶり、そして重力入りのパンチを見送ると、芭光は倒れてしまった。


 鳳如が現れたことによって、琉峯たちもそこへ集まってきた。


 「生きてたのか」


 「生きてたわね」


 そんな会話が聞こえてきたが、まあこの際良いとしよう。


 鳳如のことも忘れてしまったのか、ぬらりひょんは突如現れた鳳如の姿を、ただじっと見ていた。


 ぬらりひょんと対峙していた鳳如は、ふと何かを思い出したかのように、ある男を出現させた。


 「あ、忘れてた」


 そこには、丱椥がいた。


 すっかり忘れていたが、元凶と言っても良いこの男のことがいたのだ。


 目隠しをされ、両腕も拘束されたままの状態で、ぽいっと放りだされた丱椥。


 「投げろ」


 「は?」


 「早く投げろ」


 「投げるって・・・ああ、そういうことな」


 鳳如に差し出された丱椥に、最初は眉を潜めていた帝斗だったが、丱椥の首根っこあたりを掴んだ。


 そして、どうするかと思えば、帝斗は丱椥を片腕で持ち上げると、そのままぬらりひょんに向かってブン投げた。


 額と額が、まるでゴツンとぶつかり、丱椥に至ってはそのまま落ちてしまいそうになったため、煙桜がキャッチして戻ってきた。


 「ど、どうだ?」


 じーっとぬらりひょんを見てみると、額に手を置いていたぬらりひょんは、少しするとこちらを見てきた。


 思わず構えてしまった帝斗たちに、ぬらりひょんが口を開いた。


 「なぜワシはこんなところにおるのじゃ」


 「も・・・も・・・戻った―!!!ぬらりひょんが戻った―!!!いつものやる気のないぬらりひょんに戻った――!!!」


 「失礼な男じゃ」


 ガッツポーズまでして喜んでいる帝斗は、歓喜のあまり泣きそうだ。


 琉峯や煙桜も安堵したように肩で小さくため息を吐いていた。


 麗翔に至っては、隣で大騒ぎしている帝斗を見て覚めた目を向けていた。


 なんにせよ、ぬらりひょんが戻ってくれればなんとかなるだろう。


 「説明せい」


 「偉そうに言うな。お前のせいで、こいつらがどんだけ大変な思いしたと思ってんだ」


 「何を言っておる」


 腕組をして説明を求めるぬらりひょんに、鳳如が呆れたように言う。


 すると、清蘭に抱きついていた座敷わらしがひょこっと顔を出してきて、ぬらりひょんを観察していた。


 その間にも、簡単に説明を受けたぬらりひょんは、成程と丱椥を見ていた。


 「確かに、この男とは会うたが、そんなことになっておったとはな」


 ぬらりひょんは丱椥に近づくと、煙桜の腕から丱椥を奪い取った。


 ズルズルと、遠慮なしに丱椥を引きずって行ったかと思うと、そのまま天狗とおろちの元へと向かい、手加減なしに額同士をくっつけた。


 「いや、やりすぎじゃね?」


 「激しいわね」


 額が赤くなっている気もするが、2人の額に丱椥の額をくっつけると、天狗もおろちもパチパチと数回瞬きをした。


 「そんなことが」


 「ごめんねー」


 「おろち、お前後で覚えとけよ」


 みんな無事で良かったと思っていると、突然座敷わらしが泣き出した。


 耳にキーン、と響くその泣き声に、ぬらりひょんは小指で耳を押さえながらも座敷わらしをひょいっと抱きあげた。


 「馬鹿者―――!!!どうなるかと心配してしまったではないかーーー!!!」


 「そのくらいで泣くな」


 「そのくらいではないわ!!!大体、ぬらりひょんともあろう男が、記憶なんぞ奪われおって!!情けないぞ!!」


 清蘭のことも、四神たちのことも、倒れていた鳳如のことも、みんなのことを心配していた座敷わらし。


 ワンワンと泣いていると、ぬらりひょんは耳に響くその声に険しい顔をしながらも、座敷わらしの頭をぽんぽんと撫でた。


 数回撫でていると、座敷わらしの泣き声はピタリを止んだ。


 「すまぬな。いらん心配をかけた」


 「・・・ぬらりひょんらしからぬ言葉じゃ!まさか偽物か!!」


 「このまま谷底に放り投げてやるかのう」


 「ぬらりひょんじゃ!!」


 わーいと喜んだのも束の間、ぬらりひょんは座敷わらしを清蘭に預けた。


 「天狗、おろち、ここの復興に手を貸してやれ。それから」


 ボロボロになっている建物、それにその辺で倒れている茅杞たち。


 すっかり忘れていたが、茅杞たち。


 それらをくるっと見回した後、ぬらりひょんは鳳如たちに向き直る。


 「此度の件、申し訳なかった」


 「ぬらりひょん・・・」


 あのぬらりひょんが謝罪をしたからか、みなジーン、と感動していた。


 その後の言葉を聞くまでは。


 「こ奴らが復興の手伝いをするから、許せ」


 「おいいいい!!!お前は!?一番厄介だったのお前なんだけど!?」


 「ワシはこ奴を連れていかねばならぬ」


 「え?」


 ぬらりひょんの足下に転がっていた丱椥をまた掴むと、そのまま何処かへと行ってしまった。


 「・・・あいつ、何処に連れて行くんだ?」


 煙桜が尋ねると、天狗が答えた。


 「きっと、あ奴は餓鬼たちのいる場所に送り込まれるのであろう」


 「餓鬼たちの?」


 「餓鬼の牢獄、とでも言うのかのう」


 「牢獄・・・」


 さてと、と天狗は続けると、倒れている茅杞たちを見て、まずは彼らを連れて行くことにした。


 その時、バタリ、と鳳如が倒れてしまった。


 「鳳如!?」


 「おいおい!」


 また意識を失ってしまった鳳如を見て、煙桜が鳳如を担いだ。


 「俺はこいつを寝かせてくる。お前等先に片付けといてくれ」


 「わかった」


 そう言うと、煙桜は鳳如の部屋の方に向かって歩いて行った。


 その頃、丱椥を連れていったぬらりひょんは、餓鬼たちの元へと向かっていた。


 「・・・主の力は吸っておく。悪く思うな」


 そう言って、丱椥の額に手を置くと、そこから少し光が生じた。


 少ししてから丱椥の目隠しと、腕を解放すると、目の前にいる餓鬼たちを見て驚いている丱椥。


 「しばし、ここで反省せい」


 「やっ・・・止めてくれ!!!俺は、俺は何も知らないんだ!!!」


 「それは知っておる。主は自己の力をコントロール出来ていない。故に、自らの記憶さえ無くなってしまっていたのじゃ。だが、ワシらにしたことを黙って赦すわけにもいかぬ。ここでしばらく過ごし、次は力を持って生まれないよう、祈るのじゃな」


 「ま・・・待って・・・!!!」


 叫ぶ丱椥を他所に、ぬらりひょんは餓鬼たちで埋もれているそこへ、丱椥を突き落とした。


 突き落としたとはいえ、餓鬼たちがごった返している為、地面にたたきつけられることはないのだが。


 落ちて行った丱椥を見届けたあと、ぬらりひょんは一人で酒を飲み始めた。








 「青龍、大丈夫か」


 ―このくらいでやられる我等ではない。しかし、少し油断していた。


 「それは俺達も同じだ。お互いに生きていて良かった」


 琉峯は怪我を治す為、動き回っていた。


 ちょっとした怪我であれば、麗翔が手当てをすると言っていたのだが、そのあまりに不器用な姿に、みな琉峯のもとへと向かうのだった。


 「ちょっと!琉峯も疲れてるんだから、私が手当てしてあげるわよ!」


 「麗翔様」


 「何よ?」


 「失礼ながら申し上げますが、麗翔様は大人しくしていた方がよろしいかと」


 「・・・・・・」


 「ガサツと言いますか、不器用と言いますか、とにかく、手当でしたら私達がしますので、ゆっくりお休みください」


 遠まわしに邪魔をするなと言われてしまった麗翔は、ただ壁と向かい合って沈んでいるのだった。


 煙桜と帝斗は、天狗とおろちに手伝ってもらい、建物の修繕をしていた。


 「ったく。ここはおろちが壊したんだぞ」


 「はいはい。ごめんって言うておろうが」


 「偉そうに謝るな」


 「お前等、喧嘩しても良いから手ぇ動かせ」


 「「はい」」


 煙桜は頭にタオルを巻き、口にはなぜか釘を咥えており、まるで大工のようだ。


 順調に建物が直って行くなか、1人、鳳如は未だ意識が戻っていなかった。


 「鳳如は大丈夫かのう?」


 「なに、清蘭が心配することではない!あ奴は誰よりも頑丈な男じゃ!きっとすぐに目を覚ますであろう!!」


 「ふふ、そうじゃのう」


 清蘭にべったりの座敷わらしに、清蘭は優しく頭を撫でていた。


 清蘭の部屋も修理されたため、その部屋でのんびりと過ごしていた。


 「あ」


 建物修理をしている時、ふと帝斗は思い出した。


 「そういや、あの男って結局何者だったんだ?鳳如とは知り合いみたいだったけど」


 「あの男?」


 誰のことだろうと、天狗が帝斗の方を見るが、帝斗は名前を思い出せないようで、あーとかうーとか言っていた。


 すると、ガテン系になっている煙桜がぽつりと言った。


 「シャルル」


 「そうそうそれそれ!!!シャルル!!」


 あまり馴染みの無い響きに、帝斗はすっきりしたような表情をしている。


 「シャルルか・・・。懐かしいのう」


 「え、お前等も知ってるのか?」


 「まあ、ワシらよりもぬらりひょんの方が奴を知っておるだろうが」


 そういえば、シャルルという男もそんなことを言っていたような・・・。


 詳しいことを聞いてみると、ぬらりひょんとシャルルは、過去に一度だけ戦ったことがあるそうだ。


 その理由は覚えていないが、とにかく、激しい戦いになったようだ。


 「で、どっちが勝ったんだ?」


 「引き分けじゃ」


 「引き分けええ!?あのぬらりひょんと引き分けって、あの男そんなに強い奴だったのか・・・」


 「いや・・・」


 何とも歯切れの悪い天狗の話し方に、帝斗は首を傾げる。


 すると、煙桜が一服がてらに煙草を吸いながら話に入ってきた。


 「どうせあいつのことだ。酒が飲みたくなったとか、そういう理由で終わりにしたんだろ」


 「お、ご名答じゃ」


 「まじか!!」


 天狗が言うには、2人の戦いは確かに互角で、どちらが優勢で劣勢とも言えなかった。


 しかし、ぬらりひょんは酒が飲みたくなり、シャルルはワインが飲みたくなり、中断したという。


 勝負はそのまま終わってしまい、決着がつかないままだとか。


 「じゃあ、鳳如とはどういう関係だ?借りがあるって言ってたけど」


 「さあのう。それはワシらにもわかりかねる」


 ぬらりひょんとも互角に戦うほどの男に借りを作るとは、鳳如は一体何をしたのか。


 それは帝斗たちには分からないが、煙草を吸い終えた煙桜は、帝斗の頭を軽く引っ叩いた。


 「口より手を動かせ」


 「・・・へーい」


 ふと横を見ると、天狗の邪魔をしているおろちがいた。


 帝斗が口を開こうとしたその時、煙桜が先におろちの元へ向かうと、おろちの長い黒髪が徐々に変色していった。


 「おおおおおおお俺様の髪を!!!煙桜!何して・・・」


 「お前まじでハゲにしてやろうか。スキンヘッドとか丸坊主とかじゃなく、綺麗さっぱりハゲにしてやろうか」


 ただならぬオーラが煙桜から出ているかと思うと、おろちの髪が次々に錆びて行き、おろちはわたわたと慌てながら手を動かし始めた。


 それをしばらく見た後、煙桜は煙草を口に咥えながら戻って行った。


 「それにしても、頼もしくなったものよのう」


 「ん?」


 「主らじゃ」


 本来の力を取り戻したことを言っているのかと聞けば、天狗はそうではないと答えた。


 なら一体何のことを言っているのかと思っていた帝斗だが、このまま話していると煙桜にまた叱られそうなため、大人しく修理を続けた。








 夜も更け、建物の修繕はまた翌日ということにして、天狗とおろちは帰って行った。


 明日はぬらりひょんにも手伝えを言ってくれと言うと、それは難しいと答えられた。


 「ふー。じゃ、俺達も休むとするか」


 「そうね。もう疲れちゃったわ」


 部下たちにも声をかけ、ゆっくり休むように伝える。


 「琉峯疲れたろ。ほれ」


 「あ、ありがとうございます」


 治療をした後、建物修繕も手伝っていた琉峯に、帝斗は甘いキャンディーを渡した。


 それぞれが部屋に戻って行く中、1人だけ自分の部屋ではない場所に向かっていた。


 コンコン、と控えめにノックをすると、部屋の住人から返事が返ってきたため、部屋の中へと入って行く。


 そこには、目元に手を置いている鳳如がいた。


 「起きてたのか」


 「・・・まあね」


 ベッドの端の方に腰を下ろすと、煙草を吸おうとケースを取り出す。


 口に咥えてマッチに火をつけたところで、ここに病人がいることを思い出し、火を消して煙を吐かない煙草をブラブラと口先で動かした。


 「お前、身体にガタがきてるだろ」


 「・・・・・・」


 「このまま無理続けると、本当にどうなるか分かんねえぞ」


 「・・・だろうな」


 しばらく沈黙が続いたあと、鳳如は目元に置いていた手を上に動かすと、目をゆっくりと開いた。


 「シャルルが来てくれたらしいな」


 「ああ、あの男か」


 「お前等には、あの石をもっと早く渡すべきだったのか、今でもわからねぇ」


 「・・・・・・」


 清蘭に渡された、四神としての力を発揮するという石。


 あれによって、煙桜たちの力が画期的に目覚めたのもまた事実。


 しかし、清蘭が迷っていたように、鳳如はその石を渡すことを拒んでいた。


 「それが、お前の決意であって、覚悟だったんだろ」


 「・・・そう言うと、聞こえは良いな」


 守るためだとか、誰かのためだとか、そんな綺麗事を言ったところで、彼らを危険に晒していたことに変わりは無い。


 鳳如はただ天井をじっと見つめたまま、また目を閉じて目元に手を被せた。


 それを見て、煙桜はベッドから腰をあげると、部屋から出て行った。


 出て行く時、煙桜はこう言った。


 「言っておくが、俺達は誰も、お前のことを恨んじゃいねぇからな」


 「・・・・・・」


 そのままパタン、とドアが閉まると、鳳如は上半身を起こした。


 「!!!ごほっ」


 口元を押さえて咳をすると、手には微量の血液が付着していた。


 「・・・はぁ、はぁ」


 ―これが、お前の罪だ。


 ―一生をかけて、償え。


 そんな声が、どこからともなく聞こえる気がした。


 「・・・頼むぜ、俺の身体だろ」


 そんな声も、虚しく消えて行くだけで、誰にも届くことはなかった。


 部屋を出て行った煙桜は、煙草を吸う為ベランダに出ていた。


 ずっと咥えていた煙草に火をつけようとしたが、脳裏によぎった何かによって、手で火を消して、咥えていた煙草もケースに戻した。








 「大丈夫か?」


 「誰だ貴様。触るな」


 「なんだよ。人がせっかく心配してやってるってのに」


 「恩着せがましい奴だ。俺に触るなと言ったら触るな」


 「変な奴!ほら!絆創膏やるよ!」


 「ふん。そんなものなくとも、俺は怪我くらい治せる」


 「へー。お前、宇宙人だったのか!」


 「誰がそんなこと言った。貴様の耳は飾りか」


 孤独な少年と、孤独な少年の出逢い。


 自らを隠すことで生き延びてきた少年と、自らを表現することで生き延びてきた少年。


 彼らの出逢いが、必然であれ偶然であれ、出会ったという事実がある以上、それ以上でもそれ以下でもない。


 「今日も1人か?」


 「貴様こそ」


 人間よりも長く生きている彼らにとって、残酷な時間は多い。


 願ってもこの世から消えることが出来ない無情な存在。


 それでも、彼らはただ、前を行く。


 「そういや、名前言ってなかったな!俺は鳳如!よろしくな!」


 「関係ない」


 「じゃあ当てるよ!当たったらピンポーン、って言うんだからな!」


 「面倒臭い奴だ」


 それが地獄であれ天国であれ、恨むべき未来であれ過去であれ。


 「えーっと次は」


 「あと何時間やる心算だ」


 「当然、名前が当たるまでだよ」


 「・・・はぁ。シャルルだ」


 「え?シャーベット?」


 「グラドム・シャルル四世だ。これで良いか」


 「・・・・・シャルル。へー、シャルルか!変わった名前だな!よろしくな!俺のことは鳳如って呼んで良いからな!シャルル!」


 「俺のことはシャルルと呼ぶな」








 そんな昔のことを思い出し、鳳如は小さく笑った。


 その頃、天狗たちに何処かへ連れて行かれた茅杞たちは、ある人物たちと出会っていた。


 「あら、あなたたちは確か」


 そこには、7人の姿があった。


 「お前たちもやられたのか?」


 「あなたたちと一緒にしないでもらえるかしら?わらわたちは、覚醒した彼らと戦ったのよ?これからもっと強くなって、また狙いに行くわ」


 「・・・私達も行く」


 「ああ。行くしかねえな」


 それを聞くと、茅杞は尻尾を出しながらクスクス笑った。


 「なら、手を組もうじゃないの。わらわたちとあなたたち、大罪人たちとで」


 薄気味笑う三日月だけが、彼らのことを見ていた。


 そしてまた、朝が来る。








 「あー、俺もうダメかも。寝ても寝ても寝足りない。どうしよ。煙桜、俺休んでても良いよな?もう終わりそうだもんな?」


 「夜ふかししてまで猫と遊ぶ馬鹿が何言ってやがる」


 「煙桜、あとはこっちだけです」


 「おう、わかった」


 「煙桜、お前、大工の棟梁みたいだな。いっそ転職した方が」


 「ああ?」


 「ごめんなさい」


 あれから二週間して、建物は完全に直すことが出来た。


 清蘭と部下による結界の方も続行で、座敷わらしはスヤスヤと清蘭の膝で寝ていた。


 天狗たちに御礼を言うと、早速というかなんというか、酒を飲み始めた。


 昼間からだというのに、戦いの疲れとストレスがあったのか、四人だけでなくぬらりひょんたちも飲んでいた。


 いや、実際にはぬらりひょんは手伝いはしていなくて、ずっと欠伸をしながらこっくりこっくりと船を漕いでいただけだが。


 「それより、鳳如も来れば良いのにな。もう大丈夫なんだろ?」


 「ま、たまにはいいんじゃない?」


 わいわいと騒いでいると、そこに見慣れた姿の男が現れた。


 「呼んだ?」


 「げっ!来た!」


 ニコニコと微笑みながら登場してきた鳳如に、みな驚いていた。


 意識を取り戻してからも、しばらくは部屋から出て来なかった鳳如が、以前のような姿でいきなり登場したのだ。


 「鳳如も飲みに来たんでしょ?」


 「こっち座れよ!」


 「・・・ちょっと大事な話があってね。飲みながらで良いから聞いてっていうか聞け」


 語尾の強さに、四人は琉峯と麗翔、それから帝斗は思わず正座をしてしまった。


 何を言うのかと思うと、鳳如は平然とこう言った。


 「俺は、今の役職を辞める」


 「へー、そう・・・・・・・・え?」


 「そういうわけだから、よろしくね」


 にっこりと微笑みながら言う鳳如に、ぬらりひょんたちまでもが手を止める。


 「「「「・・・・・・・・え?えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!?」」」」








 「おろち、なんで主が誰よりも驚いてるんじゃ」


 「いや、ノリで」





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