第4話おまけ①建設計画






ラグナロク参

おまけ①建設計画


 おまけ①【建設計画】




























 鳳如が今の役職を辞めると言ってからすぐのこと。


 「じゃ、そういうわけだから」


 それだけ言って何処かへと消えてしまった鳳如をただ茫然と眺めていた四神たち。


 それからすぐのことだ。


 鳳如が話しがあるからと言って、四人をいつものように会議室へと呼んだ。


 「じゃあ、ちょいと大事な話があるんだが」


 「辞めることでしょ?代わりに誰が来るの?てか、鳳如はこれからどうするのよ?」


 「まったくだ。急に辞めるなんて言ってよ。ここは大丈夫なのか?またおろちが代理なんて、俺は御免だぜ?」


 「お前等、何言ってんだ」


 急に辞めると言って、そのままいなくなって、また急に大事な話があるとか。


 まったく何を考えているのか分からない鳳如に、麗翔と帝斗が口を開くと、それを聞いて鳳如が返事をする。


 「大事な話ってのは、それじゃねえよ。んなもん後だ、後」


 「いや、それ以上に大事な話の方が、俺には到底思い付かねえんだけど」


 「私も同感よ」


 「・・・・・・」


 やれやれと言った具合に、鳳如は肩を竦める。


 そして四人に、何かが描かれた数枚重なっている紙を渡した。


 「なんだこれ?」


 「・・・なんか建てんのか?」


 「さすが煙桜。ご名答」


 紙を受け取って首を傾げていた帝斗の横で、煙桜は頬杖をついていた。


 四人に配られたその紙には、建設予定と書かれた文字と、そこに良く分からない図面が描かれていた。


 「先日の襲撃で、建物はボロボロだ。ま、お前等に直してはもらったが、この際だから新しい建物を考えてる」


 「建物って、此処はどうなるの?」


 「此処もそのまま再利用する。ただ、今は一つの建物の中にそれぞれ東西南北、結界が張れるような場所が確保されてる。そして中央には清蘭様の部屋。一つの建物内にそれらを作ることには、メリットがあった」


 「メリット・・・」


 無関心に見えた琉峯がぽつりと呟けば、鳳如は琉峯を見て頷く。


 「何かあったとき、すぐに避難も対処も出来た。だが一方で、何処か一つが攻められると、結界が弱くなるという弱点があった」


 動き回り易いように、情報が行き来しやすいようにと言う事もあり、建物は一つの壁に包まれた状態だった。


 しかしそれでは、一度壊されてしまうと修繕するにも時間がかかり、その間、その方位の結界はとても弱いものになってしまうことになる。


 そこで、鳳如は今の建物を使いながらも、新しい建物も建てることにした。


 「新しい建物って、何処に建てるんだ?」


 「なに、今の建物の少し外側に、45度ずれたように作るだけだ」


 要するに、上から見てみると、八角形になるように作ると言う事だ。


 なぜそのような作り方をするのかと言うと、今ある建物を覆う様にして新しい建物を作ることによって、結界が二重に作れるようになるのだ。


 外側の新しい結界には青龍たちも住まわせるため、そうそう簡単には結界を壊せないが、もし仮に、万が一、壊すことになったとしても、角度のずれた位置にある結界が守ってくれるということだ。


 清蘭には今と同じ部屋にいてもらうことになるが、それによって、四方だけ守っていた結界が、実質八方から結界を張れるということになる。


 これから中央を担う鳳如がいなくなるが、それぞれの方位の部下3名の中に、1人ずつ中央を守れる役目がいる。


 そのため、交互に清蘭と守ってもらうことになるそうだ。


 「で、それぞれの方位に建てる新しい塔の名前だが」


 「塔の名前・・・」


 琉峯が担う東の塔には、「希望の塔」。


 麗翔が担う南の塔には、「自由の塔」。


 煙桜が担う西の塔には、「終焉の塔」。


 帝斗が担う北の塔には、「起源の塔」。


 それを聞いて、何やら不満そうな男がいた。


 「どうしたの煙桜。いつもながらそんな不機嫌そうな顔して」


 「・・・別に」


 そんな煙桜を見て、ケラケラ笑いながら帝斗が言った。


 「煙桜の塔だけなんか負な感じだからじゃねえの?」


 「・・・・・・」


 図星なのか、煙桜は眉間にシワを寄せたまま黙ってしまった。


 「仕方ないだろ。それがお前等に託された力でもある」


 東からは太陽が昇り、それは夜明けを意味する。


 春を想像させ、復活や再生などを力とする琉峯の塔だからこそ「希望の塔」である。


 南は太陽が最も高い位置に来て、海蛇座の心臓を意味するとも言われ、夏を想わせ、また、孤独な者とされる。


 何者にも囚われない麗翔の塔だからこそ「自由の塔」である。


 北は北極星を意味し、それは全ての始まるを持っている。


 冬を想像させ、冬は春を迎えるにあたって大事な時期となり、そこから春が生まれる。


 そんな北の帝斗の塔だからこそ「起源の塔」である。


 それは煙桜の西も同じことであって。


 西は太陽が沈み、衰退や死を意味する。


 秋を連想させるため、ここから冬へと季節は変わって行く。


 全てが終わり、またはその先の新しい芽吹きへと移り変わる方位である西だからこそ、このような「終焉の塔」という名前がつけられたのだ。


 「いいか。石を継承しちまったからには、もう後には戻れねえ。新しい四神が見つかるか、死ぬまで、ここからは逃げられねえ」


 そんな鳳如の言葉に、四人はフッと鼻で笑った。


 「死ぬまでやってやるよ」


 「今更戻れないしね」


 終始和やかになったかと思うと、いよいよ建設の話になった。








 「琉峯様、そろそろバロンと交代してきます」


 コクン、と頷いた琉峯の横では、部下の一人である生幻がいた。


 建物は完成したのだが、以前よりも綺麗になっているその部屋では落ち着かないらしく、隅の方でお茶を飲んでいた。


 「琉峯様、戻りました」


 新しい建物、というか塔が出来てから、あまり出歩いてはいない。


 塔と塔の間にも渡り廊下があるため、行き来出来るのだが、普段からあまり出歩く方ではない琉峯は、ただそこにじっとしていた。


 コンコン、とノックがしたかと思うと、返事もしないうちに入ってきた。


 「よー、琉峯いるか・・・って、何してんだお前、んな端っこで」


 「帝斗・・・」


 塔が出来てから、帝斗はこうしてちょくちょく色んな場所へと顔を見せていた。


 「今煙桜がおろちと酒飲んでっけど、お前も来るか?」


 「おろちが?・・・まさか本当に鳳如の代わりに」


 「いやいや、違う違う」


 琉峯の言葉に、帝斗は大袈裟に手を横に動かした。


 帝斗の全否定を聞くと、琉峯は心なしかホッとしたようにため息を吐いた。


 「俺が天狗と飲んでたら煙桜が酒の臭いを嗅いできやがってよ。そしたらおろちも来たんだ。それだけ。久しぶりだしよ、お前も来ねえ?」


 「・・・じゃあ、少し」


 「うし。そうこなくっちゃな」


 ニン、と笑うと、琉峯の部下たちに「よろしくな」と言って部屋を出ていく帝斗。


 その後ろを着いて行くと、途中で麗翔に会った。


 「あら珍しい。琉峯がいる」


 「麗翔、何してんだこんなとこで」


 麗翔がいたのは、南と北を繋ぐ渡り廊下だった。


 「夢希が清蘭様のところに行くって言うから、着いて行ってただけよ。今日はあの子の当番だから」


 「ああ、そっか」


 「天狗たち来てるって聞いたけど」


 「来てるぜ。良い酒持ってるなら参加を許可する」


 「偉そうに」


 しかし、何処から入手してきたのか分からないが、麗翔は何本かの酒を部屋から持ってきた。


 一体いつ買いに行っているのか、それとも買いだしを頼んでいるのか。


 とにかく、日本酒やらビールやら、ワインにそれからおつまみまであった。


 それを持って皆が集まっている広間に向かう。


 すでにいた煙桜に天狗、それからおろち。


 そこに帝斗たちも加わると、いつものように騒がしい宴会になった。


 こんなことしていて良いのかとも思うかもしれないが、いつも気を張っていたのでは疲れてしまう。


 それに、部下たちによって方位が守られていると言っても、四人の身体に埋め込まれてしまった石のせいで、常に体力を奪われているらしい。


 鳳如に詳しいことを教えてもらったが、あまり理解出来なかった。


 「石はお前達自身だ。今まで以上に気を引き締めていけ」


 そうは言われても、攻撃さえされなければ、結界を維持するだけなため、そこまで辛いこともない。


 「鳳如、まだいるんじゃろ?」


 「ああ。けど最近は部屋にこもりっきりで、会ってねぇなぁ・・・」


 辞めると言っても、すぐに辞めたところで色々大変だろうと、溜まっている何かの仕事を終えてからにするとか。


 これからどうなるのか、その不安しかなかった四人だが、いざとなったらぬらりひょんたちに頼め、と言われてしまった。


 ジョッキに入っていたビールを飲み干すと、煙桜は煙草を吸おうと立ち上がった。


 すると、そこには煙管を吸っているぬらりひょんがいた。


 「なんだ、来てたのか」


 「ワシの勝手じゃ」


 「まあな」


 昨日は曇っていたが、今日は月の周りに雲がほとんどなかった。


 とても明るい夜だった。


 「お主、あ奴の過去を知っておるのか?」


 「・・・いいや。ただ、あいつが俺達に何かをずっと隠してるのは知ってる」


 「・・・そうか」


 「お前は何か知ってるのか」


 「・・・・・・」


 煙管を口に咥え、あまりに優雅に煙を吐いたぬらりひょん。


 同じようにして煙を吐いた煙桜は、ちらっと横を見たあと、視線を月に戻した。


 しばしの沈黙が続いた後、ぬらりひょんがこう言った。


 「ワシから言うことではない。それに、ワシが知っておるのは、奴の一部分だけじゃ。全てではない」


 「?それはどういう」


 「ワシはもう帰るとしよう。今宵は満月。自らの穢れを隠すには、最も不向きな夜じゃ」


 「穢れ・・・?おい、お前一体何を」


 答えを求めようとした煙桜だったが、その前にぬらりひょんは消えてしまった。


 煙草を吸い終えた煙桜が広間に戻ると、麗翔に絡まれているおろちを見て、これはシメたと、高そうな酒に手を伸ばした。








 「さて」


 その頃、鳳如は仕事を終えて一息吐こうとしていた。


 「!ごほっ」


 数回咳をしたあと、自分の掌にいるその赤いものに、目を細める。


 そのまま掌をぎゅっと掴んだあと、心臓あたりに押しつける。


 呼吸が整うまで、しばらく深呼吸を繰り返していると、そのうちバクバクしていた心臓が落ち着いてきた。


 額に少しだけ汗をかいたまま、鳳如はベッドに腰を下ろす。


 「・・・・・・」


 額に手を当て、目を瞑る。


 それからしばらくすると、宴会も終わりかけた四人とその他が集う広間に向かい、明日にも辞めることを伝えた。


 鳳如はこれから何処へ行くのか、何をするのか、ここはどうなってしまうのか、色々と渦巻く不安を次々に聞くと、鳳如は笑いながら答えた。


 「辞めるには辞めるが、これっきりってわけじゃねえ。何かあればすぐに駆けつけるようにはしておく心算だ。それに、何かあればそいつらもいる」


 そう言って、鳳如がくいっと顎で指したのは、天狗たちだった。


 何処へ行くのか、何をしに行くのかという質問に関しては、少し押し黙ってから、静かにこう答えた。


 「それはまだ答えられねえ」


 それから、こう続けた。


 「なに、別に死ににいくわけじゃねえんだ。湿気た面すんな」


 簡単な荷物をまとめると、紐を持ってひょいっと背に乗せるようにして肩に紐を担いだ。


 四人が見送りをした後、鳳如の後を着いて行っていた煙桜が、鳳如の背中に向かって煙草の煙を吹きかける。


 特に何を言うでもなかったが、そんな煙桜に対し、鳳如は背中を向けたまま言う。


 「俺の身体は、きっともう、昔みてぇにはならねぇ。けど、やれることやって、またここに戻ってくる。だから、そんときまで・・」


 少しの沈黙。


 「頼んだぞ、お前等」


 がさっと物音がしたかと思うと、煙桜の後ろからは、帝斗、琉峯、麗翔が姿を見せた。


 「お気をつけて」


 「死んだって戻ってきそうだけどね」


 「俺達が此処、ちゃんと守っておくよ」


 「・・・せいぜい、目を背けてきた自分と向き合ってくるんだな」


 「まったく。お前等は本当、随分と生意気になったもんだよ」


 肩を小さく動かしながら笑った鳳如は、最後に手を軽くあげた。


 そしてそのまま振り向くことなく、四人の前からいなくなった。


 森の中を歩いている時、ふと足を止める。


 「・・・あいつらのこと、よろしく頼む」


 「世話の焼ける男じゃ。ワシは気分でしか動かぬ」


 「ああ。そうだろうな」


 木の上から下り立ってきた影は、鳳如の背に背を向けるようにして着地した。


 互いに顔を見ることもなく、しかし、そこにある確かな何かで伝える。


 「永い休息になるじゃろうが、戻ってきたとき奴らに追いこされておらぬよう、鍛錬することじゃな」


 「どいつもこいつも。まだ俺に働かせようってのか」


 木々で生い茂る森を見上げても、そこに月なんて見えない。


 しかし、木漏れ日のようにして、あまりに明るい月の灯が、鳳如の足元を照らす。


 「・・・ああ、いいぜ。また戻ってきてやるよ。どうせ俺も逃げられねえんだ。死ぬまで付き合ってやる」


 「・・・・・・」


 背を向けたまま去って行く鳳如の気配が遠ざかった後、男、ぬらりひょんはゆっくりと振り返る。


 もうそこにはいない鳳如の背中を見つめながら、呟く。


 「・・・主もまた、数奇な運命を持っているものじゃ」


 そしてまた、ぬらりひょんも暗闇へと消えて行く。



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