魔女とサンドリヨン
ハスノ アカツキ
魔女とサンドリヨン
むかしむかしあるところに、いじわるが大好きな魔女がいました。
魔女はいつも人を困らせてはその様を楽しんでいました。
ある日のことです。
魔女が歩いていると、裕福な家が目に止まりました。
中からは嬉しそうな声が聞こえてきます。
「ねぇ、お母様。私たち、王子様の舞踏会に招待されたのよ」
「でもね、お母様。私たちの他にサンドリヨンも招待されているの」
魔女がそっと家の中を覗くと、そこには美しい姉妹とその母親がいました。
母親は答えます。
「まぁ、王子様はなんて優しいんだろう。サンドリヨンはただの薄汚れた小娘だって言うのに」
それを聞いた魔女は、いじわるを思い付きました。
『そうだ、王子がその薄汚れた小娘を花嫁に選んだら、あの姉妹さぞかし悔しがることだろう、これは楽しみだ』
さて、夜になり姉妹は舞踏会へと向かいました。
サンドリヨンは一人寂しく留守番です。
「ああ、私も舞踏会に行きたかったわ。王子様に一目だけでも会えたら、どれほど幸せだろう」
サンドリヨンがそう呟いているところに魔女が現れました。
「そこのお譲さん、王子様の舞踏会に行かないのかい?」
「あら、おばあさん。私は留守番を頼まれているのよ」
「おやまあ、こんな日に留守番だなんて! そんなのは放っておいて、舞踏会へ行ったらどうだい」
すると、サンドリヨンは悲しそうに言いました。
「でもね、私には舞踏会に着ていくドレスがないの」
「なあに、ドレスなんて私が貸してあげよう」
魔女はそう言うと、持っていた杖を一振りしました。
すると、どうでしょう。
サンドリヨンは頭から爪先まできらきらと輝くドレスに身を包まれました。
そのサンドリヨンの姿は太陽のような美しさでした。
「まあ、なんて素敵なドレスなの。でも、おばあさん。今から行っても間に合わないわ」
「おやおや、面倒な子だねぇ。なら馬車も貸してあげよう」
そう言って、魔女はまた杖を一振りしました。
すると、豪華な飾りのついたカボチャの馬車が現れました。
「ほら、早くこれで舞踏会に行くんだ。でもね、どの魔法も零時になると解けてしまうから気を付けるんだよ」
「分かった、気を付けるわ。これで憧れの王子様に会えるのね。おばあさん、ありがとう。本当にありがとう」
サンドリヨンは何度も何度もお礼を言って、舞踏会へと向かいました。
『ありがとう、なんて言われたのは初めてだ』
魔女は不思議な気持ちに包まれていました。
心がぽかぽかして、晴れやかな気持ちです。
『悪くはないが、変な感じだ』
魔女はこの不思議な気持ちを気味悪く思いました。
それから数日が経ち、魔女はサンドリヨンの家に来ていました。
サンドリヨンのその後が気になっていたのです。
家ではまたあの姉妹と母親が話していました。
「この間の舞踏会は、よく分からないお嬢様が来て散々だったわ」
「でも王子様の持ってくるガラスの靴を履けたら花嫁にしてもらえるそうよ」
そのガラスの靴は、舞踏会の日にサンドリヨンが履いていった靴でした。
『まあまあ、あの子ったら靴を落としていったのかい! でもこれで、あの子を花嫁にすることができそうだ』
魔女は急いで王子様のところへ向かうと、ガラスの靴を誰も履けない小さな靴にしてしまいました。
そのせいで、ガラスの靴を履こうとしても誰も履けませんでした。
そして、とうとう王子様はサンドリヨンの家に来ました。
まず姉妹が試しましたが、もちろん履けません。
王子様が帰ろうとした時、サンドリヨンが現れました。
サンドリヨンはガラスの靴を一目見て、自分にも履けないと気付きました。
と、同時に、窓の外でウインクしている魔女にも気付きました。
「あの、私も試していいですか」
そう言ってガラスの靴にそっと足を乗せました。
魔女はそのタイミングに合わせて、靴を元の大きさに戻しました。
すると、靴はサンドリヨンの足にぴったりはまったのです。
王子様が驚いてサンドリヨンの顔を見ると、灰で汚れてはいるもののとても美しい顔をしていました。
「ああ、私の花嫁はこんなところにいたのか!」
こうして王子様はサンドリヨンと結婚することを決めたのでした。
サンドリヨンが王子様と結婚できて、魔女はとても嬉しく思いました。
それは姉妹へのいじわる心からではなく、サンドリヨンの幸せを自分のことのように嬉しく思えたからでした。
それからの魔女は、力の全てを人々の幸せのために使いました。
そして、いつしか人々は魔女のことを魔法使いと呼び、慕うようになりました。
きっと、今もずっと――。
了
魔女とサンドリヨン ハスノ アカツキ @shefiroth7
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