第4話
安藤は無事ラクダの豊胸、ではなく
経過もよく包帯を外すと立派なコブを携えたラクダが君臨した。
砂地に映え、ギラつく太陽の光を神々しく
アルコはあまりの美しさに言葉を失っているのだろう。そっとコブに触れ、感触を確かめていたと思えばラクダの首もとに抱きつき啜り泣いている。
足首ほど長く延びた鼻水を振り回さないでほしい。
もしかしたらアルコは情緒不安定なのかもしれない。
「確かに美しい。見事な造形美。これぞ【美】、さすが俺!」
『まったくですね。天女の如し神々しさ。……ついてますけどね』
「っ! ……それを言うなよトロワ」
アルコはペコペコとお辞儀をしながら帰っていった。あの図々しい態度からはまるで想像がつかない豹変っぷりに内心笑いが止まらなかった。
帰りがけ、アルコは商品をいくつか置いていった。
シルクの布に刺繍が入った
最後に保存食として渡された昆虫食の袋から大きなサソリが手を出していた。恐る恐る覗くとカラリと揚がって姿そのままに鎮座している。
足の一つも欠けもなく、しかも尾をくるりと上げて臨戦態勢。
触るのも覚悟がいる。
他にも洗剤や水筒もあると言っていたのを思い出し、本当にアルコは大商会なのだと実感する。
「うまくいけば
安藤は大きなサソリを見つめながらニヒヒと邪悪な笑みを浮かべる。
『そのシルクの布は大切に私の荷物へ入れてくださいね』
へいへい、と適当な返事をしつつトロワ用の鞄へ入れる。納得のいく体が手に入ったらすぐに使えるようにこうして旅先で気に入ったものを入れる鞄。両手を広げた大きさと同じ、小さめなのに異常な収納力を発揮する。
実際はただ重くなるだけの荷物。
まだトロワの指先も見つかっていないのだから、先は長い。
『ところでどうするんですか?』
「どうするとは?」
『ランティーボが来るのは明日ですよ?』
「そうだな」
ズイッとトロワの顔が近づく。
相変わらず透き通った綺麗な瞳をしている。
『逃げないんですか』
言いたいことは分かる。
だが安藤は静かにまぶたを閉じた。
アルコと少年。二人の結果は見えている。
それなのにこの目でしっかりと結末を見届けたいと思ってしまった。
『それは安藤の勝手ですけど……』
「もちろんトロワは俺が守る」
『最悪脳のチップだけは守ってくださいね』
「……善処します」
ホログラムでも言葉の刃が胸をえぐるのは現実と変わらず、安藤の胸には夜風が吹き抜ける穴が空いた。
安藤はふらりと商店が立ち並ぶエリアへと立ち寄った。
大小様々な店が軒を
手前のやけに派手な店がアルコの店のようだ。やたらと大きく長い店の中はショッピングモールのように小さな店がいくつも並んでいた。
その中央、これまた立派なレンガ造りの建物からアルコとあのラクダが現れた。
「お! 先生じゃないか」
アルコが大きく手を振るものだから安藤の周りから人が遠巻きに歩くと足早に去っていった。
これぞ、悪目立ち。
ただアルコに手を振られただけでこの避けられようは、相当アルコは恨みをかってしまっているようだ。
少年の店はすぐに分かった。
店先にあのラクダ執事がいた。一目見ても高価そうな布を背中に掛け、ズンと立っている。
この砂嵐が続くなかでも一切の汚れもなく、清潔感が漂っている。
『布屋ですね』
少年の店はアルコの長い店の
全てが揃うアルコの店、その向かいにある少年の小さな店。少し見るだけでその品揃えの差は歴然。
確かにあまり良い立地とは言い難い。
『大丈夫でしょうか』
「大丈夫だろう。あのランティーボなら」
安藤はソワソワするトロワを連れてゲストハウスに戻る。
店に入ったりはせず、寄道もせずに帰る。
トロワの『ちょっとだけ』という懇願も今は耳を
あのラクダ執事が掛けていた布、あまり詳しくない安藤が見ても分かるくらい高価なものだった。店の中も数は少ないがどれも一級品ばかり。
そんなところにトロワを入れたら安藤の破産は目に見えている。
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