エピローグ 再びの春(4月7日)

 「ごめん。やっぱ落ちたぁ。」

 随分軽い調子の報告に、何故か泣けてきたのは俺だった。

 一瞬で歪み始めた視界に、

 「は?金原君?」

 驚いた顔の岡野が、

 「え⁉️あたし、ダイジョブだよ、先生‼️」

 慌てふためくはるみが映る。

 「もう、単位制高校に手続きしてるから。」

 いや、問題はそこじゃない。

 自分でも、悲しいのか、悔しいのか、わからない。

 俺は一体、何を証明したかった?

 奇跡でも起こしたかったか?

 まるで少年漫画のような、現実には有り得ない、夢を現実にしたかったのか?

 わからない……

 わからないんだ。

 感情がゴチャゴチャで、出口がないまま荒れ狂うから、涙になった。

 本人も半分『記念受験』だと言っていたし、俺は自分でも表現しようが無い意地みたいなもに、むしろはるみを付き合わせたとハッキリ気付いた。

 「悪い……はるみ……」

 辛うじて言った。

 「付き合わせた……」

 瞬間、本当に一瞬だけれど、まるで年上のお姉さんのように微笑んだはるみは、またすぐ、普段の屈託の無いフニャッとした顔で、

 「ダイジョブ‼️あたしも楽しかったから‼️」と、笑う。

 あまつさえ、

 「ダイジョブ、ダイジョブ」と、俺の頭を撫でてくれる。

 いやいや、俺はお前の弟か‼️

 そう思っても言葉になら無い。

 やられっぱなしだ。

 「まったく……」

 岡野が苦笑いした。

 「君は基本いい加減なのに、人は好いんだから。」

 ほっとけ‼️と思う。

 最初の1年が終わっていく……


 結局俺は、辞めるのを止めた。

 実は考えていた。

 仕事の影響範囲が広すぎる件‼️

 俺の行動、俺の能力の影響が、塾生、その親御さんに、そして将来にまで響くのは、『光栄』を超えて厳し過ぎる。

 『でもしか』には重い。

 ただ、仕事には多かれ少なかれそう言う部分があるとも思った。

 例えば総菜屋だとして、売った商品に問題があれば、自分に会社に、そして客にその家族に影響が及ぶ。

 いや、マイナスの影響じゃなくとも、食べて旨ければ客の家族ごと幸せにするし、仕事とはそう言うものかと思う。

 『でもしか』の俺に、こう言うことを考えるきっかけをくれた1年だった。

 なら、関わりを持った人間がいる以上、簡単には放り出せない。


 新学年になって、

 「ちは、金ちゃん」と、和田美咲が登塾してきた。3年になって、少しだけ洒落っ気が出てきた感じ。

 多分軽くブリーチしたな。

 「こんちは」と、広田佐奈もやって来る。

 「明日は初デートなの?」と、岡野にからかわれた。

 「違うよ‼️あいつの弟にフランクフルト奢る約束だったから」と誤魔化した。

 俺は、高校生になった土屋はるみと付き合うこととなった。


 2年目が始まる。




あとがき)

 本文部分でギリギリ20000字越えました。

 これにて『でもしか』は終了です。

 懐かしい記憶の掘り起こしですが、読んでいただきありがとうございました。


 ここからはしばらく書きためしようかな、と思いつつ、エッセイの方は出没し続けるので、機会がありましたらよろしくお願いします。

 



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