第17話 出来ること、出来ないこと(3月10日)

 俺の塾には、夏期講習や冬期講習のような、季節のイベントは無い。

 基本学校の勉強の補完、予習復習と定期テスト対策の塾だから。

 必要なら別の塾の講習だけ参加してもいいし、講習だけなら成績による足切りもしないところは多々ある。


 実はこの◯◯講習とか模擬試験って、塾側からもメリット多数だからね。

 講習料を運ぶ以外に、成績上位者の引き抜きの機会であり、後、実績への上積みのチャンス。

 例えば普段は別の進学塾の生徒が、1回だけ模試に参加したとする。

 この子が有名校に受かれば、

 『◯◯高校合格×名‼️』の1人にカウントされるのだ。

 1回模試に来ているから、で、実績扱い出来る。

 詭弁だけど……

 これが実情。

 大手進学塾の実績を足したら、軽く合格者の数を凌駕するよ、狡い。

 ……

 話が逸れた。

 俺の塾では講習はやらない代わりに、塾スペースを早めに解放する。

 いつもは19時からの授業に備え、18時くらいに開ける塾を、15時前には開ける。

 夕食を食べに帰るか、弁当を持ってくる必要はあるが、騒がなければ友人同士で自習が出来、教師には質問し放題だ。

 この時間を利用しての勉強を提案した俺に、

 「……」

 少しだけ考えたはるみはニコッと笑った。

 「いいよ。」


 で、始まりました、個人授業。

 これが存外難しい。

 はるみは真面目だ。

 人の話も良く聴くし、しっかり取り組む。

 例えば数学なら、教えながらなら2次方程式も関数も普通に解ける。

 けど、1日経つと駄目なんだよね。

 多分『作業』ならいける。右のものを左に、ルールに乗っ取ってなら出来るけど、理解まではしていないんだと思う。

 繰り返すけど、はるみは真面目だ。

 人に気を配り……なにせ、クラスメイト以上の関係がない、似非ヤンキーの心配が出来るレベル。

 人間関係はちゃんとしているのに、勉強だけは苦手なのだ。

 これはもう……

 繰り返ししかない。

 苦手な内容が少しでいい、頭の中に残るように。

 冬休みが終わっても、塾のある日は個人授業を続けていた。

 何故だろう?

 俺は彼女に合格して欲しかった。

 はるみが受けるのは、地域で1番下と言われる学校で、なのに単願でも多分無理だと言われるけど。

 受験は、奇跡とか、感情の入り込む余地がない。

 いい子だから受かるとか、明らかな非行事実かあれば別だが、性格が悪いから落ちる、とか無い。

 岡野は、

 「まあ、はるみが楽しそうだからいいけどさ」と、ため息をつく。

 「自分の感情に巻き込んだら駄目だよ、本当は。」

 俺は一体、何を証明したい?


 そして、合格発表があった春の日、相変わらずのニコニコ笑顔ではるみが来た。

 「ごめん。やっぱ落ちたぁ。」

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