第4話 羽毛扇との出会い
諸葛家には決まって一ヶ月おきに、杖をついた白髭の老人が訪れていた。
この老人は毎回、飲食の施しを求め、食べ終わると感謝の言葉一つも告げずに帰るだけだったが、純朴な諸葛家の人々は意に介さず、来る度にもてなしていた。
この不思議な関係と習慣は何十年と続いていたが、今まで誰一人として老人の身の上を詮索する人はいなかった。
しかし、好奇心旺盛な亮少年は、この老人がどこの誰なのか知りたくて仕方がなかった。そこでこの日、ついに意を決して
「おじいさん、その杖を見せてくれる?」
食事に来た老人に思い切って話しかけてみると
「ああ、かまわんよ」
思いの外、あっさりと杖を貸してくれたので、亮少年は老人の気が変わらないうちにと、足早に人影のない裏庭へ杖を連れ込み、杖の底に小さな穴を開けて石灰を流し込むと、何事もなかったかのように老人に返した。
「ありがとう」と言ったのは亮少年だけで、この日も老人はやはり、礼を述べずに諸葛家を後にした。
諸葛家を後にした老人が杖を突いて歩くと、道には石灰の跡が残ったので、亮少年は老人が帰って少し時間をおいてから、石灰の跡を追って、老人の住居を確かめようとしたが、大きな
亮少年が樹を見上げると、そこには大きな
―こんなところに、鷹? もしかして、おじいさんは・・・・・・
亮少年が老人の信じ難い正体を推測したその時だった。
「金丹! 金丹がない!」
頭上にいる鷹が慌てふためいて飛び降りて来ると、亮少年を見るなり
「坊やは諸葛さんの! なぜここに? いや、それよりも坊や。金丹……金色の丹薬……丸いものが落ちてこなかったかい?」
急かすような鷹の口調に圧倒された亮少年は、老人の正体が鷹だったことや、鷹が話していることに驚く余裕すらなく
「金丹? これ、ですか」
小さな手を広げると
「こ、これは―」
金木犀色だったはずの果実は、
「嗚呼。天が選んだのは、坊やだったのか」
鷹の老人は、腹をくくったように自身の羽をむしって金丹を軸にして扇を作ると、呆然としている亮少年の前で人間の姿に戻りながら、初めて素性を語った。
「遠い昔に
信じられない出来事が次から次へと展開されていったが、亮少年が
「神明に誓って」
戸惑うことなく、まるで、自分の体の一部のように羽毛扇を手にしたのを見届けた鷹の老人は、
「諸葛家には長い間、世話になった。ありがとう。坊やの存在が諸葛家を世世代代まで輝かせるであろう・・・・・・。子房様、任務を遂行致しましたぞ」
最後の言葉が亮少年の耳に届く前に、ゆらゆらと煙となって消えてしまうと、老人はその日以来、もう二度と諸葛家に来ることはなかったという。
そしてこの日以来、亮少年は羽毛扇と生涯をともにすることになるのであった。
臥龍志 玄子(げんし) @zhugechengxiang
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