第11話:【最終話】カミは舞い降りた!👼🎄🎊🎉

 皆様、杉原千畝をご存じでしょうか。


 ナチスドイツ軍が迫る中、リトアニアで右腕がぶっ壊れるまで、ユダヤ人難民に日本の通過ビザを書き続けた勇者です。


 現在、暴動激化・革命寸前のパリエ、ノッテルダム教会のお庭にいます。


 真っ白な紙を『命のビザ』的な肥料受領権利書に生まれ変わらせる錬金術を行っている、勇者ユーリア七歳です。


 どんどん目の前の市民の目が厳しくなっています。わたしの苦手な劇画タッチの世界に浸食されていく!


 もう数日、何も食べていない人もいるそうで。

 顔が飢餓きがっています。


 革命って食べられなくなると起きるんです。

 どんな暴政でも倒れないのは、まだ民衆が飢餓に陥らないからです。


 でも一旦、起きてしまえば「もう誰にも止められないんじゃよ」。

 そして革命指導者が専制政治を始めて、自分に反抗する連中を大虐殺。

 これがお決まりのコース。


 この異世界でもフランスの代わりにフラマン王国が打倒される寸前。

 ここからこの大陸を揺るがす大戦争が始まると、大公国のみんなは多分無事ではいられない。


 私は珍しく、焦っていた。


 もう8時間以上サインを書き続けている。

 幸い、近くの新聞社の協力を受けて、ほとんどの文章は印刷してもらえている。


 でも正真正銘の権利書としての証明をするサイン。

 これは私が書かないと。

 あの駄女神の巫女である、シスターユーリアのサイン。


 私がちょっとだけ書く手をゆるめて右手をもんでいたら、急に冷たい布がかぶせられた。


「俺が代ってやりたいが、それはできない。お前がやり始めたことだ。最後まで責任を果たせ。できることは手伝ってやる」


 美クールさ~ん。

 結構、いい奴だったんですか?

 ツンデレ属性??


 ではデレ90パーセントくらいでおなしゃす。


 あ、急にその手がひっこめられたよ。


「そうそう甘い顔はせん。そんな顔をしても無駄だ」


 いけない、いけない。

 ちょっとここの所の不眠不休で気分がハイになっているらしいよ。



 印刷済みの用紙が切れた。

 羽根ペンも使い果たした。 

 白紙はあるけど、全部手書きは出来ない。


 手ももげそう。

 徹夜で書いているんだもん。

 そうなるよ。


 これは一旦休まないと。


 それをみんなに告げよう。


「みなさん。少し休んでいいでしょうか? 少し休んだらすぐに……」


 ゴゴゴゴゴ!!


 地鳴りのような、不満の声。

 劇画タッチの効果音。


 これは。

 革命のエネルギー。

 鎮めなきゃ。


 でももう、手のうちようがないよ。

 先生たち。

 なにかご指導を!


 でも打つ手なしとの解答。



「こうなったら王宮に直訴だ」

「いや。王宮には絶対に食いもんが沢山ある筈だ。それを頂こう」

「だがそう簡単に下賜してくれるか?」

「くれなければ分捕るまでだ。もう明日にでもうちの子供たちは死んじまう!」


「そうだそうだ」と、次第に広がる革命の火の手。


 ああ、神様たち。

 あなたたちは何という冷酷な存在でしょう。

 この人類の悲劇をただ黙って見て楽しんでいるの?


 私は疲れ切った体力をしぼりだして、天へ向かって叫んだ。


「おい! 駄女神。本当に祭られたかったら少しは力貸してよ。最初の使徒がこれだけ努力してるんだよ。

 ちょっとは手助けを! この暗闇が満ちていく世に光を!!」


 その時。

 厚い雲におおわれていた天が裂けて、日が差してきた。

 その裂け目から巨大なオッパ……ではない、美しさを盛った女神の姿が!


 周りにはユーリアちゃんと、その色々な成長度合いの分身ユーリアが飛び回っている。中には駄女神なみの胸部装甲を持っている奴も。ケシカラン!


【人の子らよ。神の印を受け取りなさい】


 全ての人々の頭に直接伝わる駄女神ボイス(真面目バージョン)。


 ガ~ンゴ~~ン

 ガ~ンゴ~~ン


 それと同時に鳴り始める、町中の鐘の音。


 ぴこっ。


 頭に着信アラーム。

 神からの雷印だ。

 この前教えてもらったんだ。



 スウシール様(既読2)

 >ユーリアちゃ~ん。間に合ったわね~


 ユーリア2号(既読2)

 >遅い! 助けられるならなぜ今まで助けなかった!?


 スウシール様(既読2)

 >だってぇ。さっき終わったばっかりなんだもん。マージャン。


 ユーリア1号(既読2)

 >お前らなめとんか!? 人類の怒りをいつかぶつけてやる~!


 スウシール様(既読2)

 >そうじゃないのよ。女神さ、その地方には手が出せなくって。

 さっき賭けマージャンで、ローマニアちゃんからこの大陸の統治権100年間の賃貸契約をもぎ取ったの。

 褒めてもくれてもいいんだよ~


 ローマニアちゃん(既読2)

 >女神ちゃん、極道なんだよ。

 四暗刻単騎+字一色+大三元、四暗刻単騎待ちダブル役満とかさ。

 ひどくない?


 スウシール様(既読1)

 >あらあら、泣き崩れちゃった。

 ということで、その大陸では何でもできますが~、ちょっと劇的に演出しちゃおうかな~


 そのメッセージが来ると同時に急に突風が吹き、白紙が舞い上がった。

 女神の手からその白紙へ向かって細い光が伸び、高速で模様を描いていく。


【我、全能なる神スウシールの名前にて証明す。向こう5年間、これを所持するものは肥料1年分を毎年無償で受給できるものとする。また各地の教会にてこれより炊き出しを行う】


 私、あっけ。


 みなさまも、あっけ。


 神の印が記された紙の舞い降りるパリエの街角で巻き起こるスウシールコール。

 両手を組み拝むもの。

 ローマニア教の印を結んで祈りをささげるもの。

 地べたに泣き崩れるもの。


 ユーリアも地面に寝てもいいですか。

 私もう限界。

 賢くて人懐こいブービエ犬のとなりで「僕、もう疲れたよ」と言いたい気分です。


 突然、そんな私に毛布がかけられた。

 上を見ると美クール様、いえレオナルド公子様。


「よくやったな。お前にしては上出来だ。さすが悪魔の子だ」


 口は悪いけど、少しは褒めているらしい。

 顔が優しい……気もする。1ミリくらい。


 とにかく、ここは何とか食い止めた。

 一時的だと思うけど、猶予期間は出来たんだからさっさとトンズラしよう。


 だってあんなにいっぱい不良債権出してしまったよ。

 破産どころじゃない。

 大公家に迷惑かけないように、切り捨ててもらって逃亡生活に入ろう。


 ううっ。またハケン生活か。

 バイト探しからですね。

 わらしべ1本すら残らなかったよ。



 ◇ ◇ ◇ ◇



 みなさま、ちゃんとお墓参りや初日はつひの出、拝んでいますか?


 何故かは知らないけど、ノットルダム大聖堂(改名しました)でスウシール教の女教皇っぽいことをして、拝まれているユーリア七歳です。


 あれから駄女神のメッセージを皆さまに伝える役を仰せつかり、臨時雇いパートで女教皇をしております。


 逃げられませんでしたよ。


 あの女神、遠視できるからどこへ逃げても無駄だからね。

 大人しく奴隷的に無賃労働させられています。


 不良債権だけは、神パワーで何とかしてくれた。

 それを持っている農家は豊作。

 持っていないと不作。

 まるで免罪符じゃん!


 なんちゅうチート。

 さすが異世界。


 人類の努力は悪あがきであったと知りました。


 という事で、今のところ自由主義革命は収まっています。

 でも、これから性懲りもなく国王とか皇帝が戦争始めるんだろうなぁ。


【そのことはしらないわよ。女神、働きすぎ。オーバーワークで労働基準監督署が来ちゃった】


 いつものごとく、よくわからない口実で逃げられました。


「聖女ユーリア様。今月の収支報告書でございます」


 枢機卿みたいな何かが報告書を私に差し出す。

 今日もローマニア教からの転向者の数がうなぎ上りだそうで。


「こちらはレオナルド公子様よりのお手紙でございます」


 差し出された手紙を読む。


「俺に校長任せて何をやっている! 早く帰って仕事しろ。お前の言う通り文化教育費を15%ねん出したのに無責任にもほどがある。

 今度はその大聖堂に大学でも作る気か?」


 そんなこと言ってもですね。

 神に目をつけられているんです。

 逃げだしたらお仕置きだべアタックで、地面にめり込みますよ。


 こんな超巨大わらしべいらなかったです。

 手放したものが多すぎるからって、こんなのいらない。

 必要なものだけで十分です。


 早く学校作りた~~~い!



 了



 ◇ ◇ ◇ ◇


 後日談。

 大陸の店舗権利100年は、女神の振込み大チョンボで半年後にローマニアちゃんに取り返されました。

 ローマニアちゃんは自由放任主義(ものぐさともいう)とかで、早くも数年後には戦乱の世になりそう。


 ユーリアちゃんは大公国でみんなとお勉強をしている?

 さあ、それはどうなっているでしょう。

 きっと今日も灰神楽の舞う人生を送っているのかと思います。



 ◇ ◇ ◇ ◇


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💃銀髪幼女のノンストップ異世界学校作り。ヌケてる超有能ハケンのプロ、危険な極小国で奮闘す。0から資金を稼ぎ、世界平和を目指す。脳内ブレインの先生方ご指導お願いします!駄女神はノーセンキュー 🅰️天のまにまに @pon_zu

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