第5話 [あくまでも仮説]
まず記憶だ。ロッキー(六号機)や他のクローンの解析をしたい。
キュウタは考えていた。あの生成方法で原本の記憶を受け継いだままクローン作り出すことは可能なのか、と。
例えDNAを解析して再現出来たとしても同じ生物ではあるが、同じ記憶を保持しているとは限らないのである。何故ならば記憶とはすなわち経験だからだ。
いきなり作り出した生物に経験などあるはずもないのだ。
では何故ナシメ達は記憶を共有したまま作り出されたのだろう。ここで一つの仮説をたてることができる。
キュウタ「前世って説を信じるか?」
ロッキー「前世ぇ?」
キュウタはロッキーを自分の家のガレージに招いていた。作業用の机を引っ張り出し、バケツをひっくり返して、バケツの上に座布団を敷いた。ロッキーはバイクのシートに座る。
キュウタ「時々赤ん坊とかが全く別人の記憶を持ったまま生まれてきた、とニュースになるな。」
ロッキー「時々聞くネ。」
ロッキーはバイクのスロットルを弄びながら相槌を打った。
キュウタ「赤ん坊が別人の記憶持っているとニュースなる時は、大体が身内の既に亡くなった人物の記憶を持っていることが多い。前世の記憶を保持して生まれ変わったとか言われているが、定かではない。
ここで一つ考えた。
もしかしたら[生物は自身のDNAに記憶機能をもたせることができるのではないか]とね。」
ロッキー「DNAに記憶ねぇ」
ウィンカースイッチをカチカチと弄る。
キュウタ「勿論無理な仮説なのは分かってるさ。だが暫くは俺のこのくだらない戯言に付き合ってくれ。
続けよう。恐らくナシメも何故クローンが記憶を保持出来ているかハッキリとは解っていない。本人も理屈は置いといて利用出来るもの利用するって腹づもりなのだろうさ。
一応俺も製造工程を見てる。あのやり方の中でDNAを上手いこと利用して記憶を引き継ごうなんて意思は見えなかった。」
ロッキー「ふーん。」
キュウタ「ホントさ証拠だって今目の前に座ってる」
キュウタの台詞を聴いたロッキーはスイッチ類を弄くるのを忘れ眉をひそめた。
ロッキー「どういう意味さ?」
キュウタ「クローンに個性が付与されたのは故意じゃなかった、という事さ。
こう言っちゃ失礼だけど、俺だったらわざわざDNAの編集までやって自分の劣化コピー作ろうなんてならない」
ロッキー「劣化ぁ?」
ロッキーの額に青筋が立つ。
キュウタ「ごめんて。今度プリン奢るから許して」
ロッキー「うーん、わかった。」
キュウタ「うん、当にそこだな」
[余計なところで遮ってしまった]とキュウタは話を戻した。
キュウタ「さてさて、ここで俺達の目的だが、まずはオリジンの自殺の動機を突き止めるということだったな。
俺の仮説通りやるならロッキーのDNAを解析して記憶が完全なクローンを作り出すことが出来れば、、うぅむ。」
ここまで語ったところでキュウタは訝しげに頭を掻く。
キュウタ「しまった、クローンの生成装置がなきゃこれ出来ないな。
ナシメに借りたいと頼んだところでどう説明したらいいんだ...」
それを聴いていたロッキーは神妙な面持ちの後、徐ろに紙とペンを取り出し何やら長々と書き始めた。そしてカタりとペンが置かれると、キュウタの方へその紙が突き出された。
ロッキー「この素材とマシンを集めてくれたら同じもの作れるぞ」
キュウタ「マジか!」
ロッキー「劣化したとて私は天才だからね
それとキミの立てた仮説だが、どうやら仮説から証明へフェーズを移すときが来たようだよ。」
キュウタ「シビれるねぇ...というかよく俺の仮説を信じることが出来たな。
普通なら笑い飛ばすとこだぞ。」
ロッキー「気になるかい?それはだね...」
ロッキーはメーターに頬杖を突きニヒルに笑ってみせる。
ロッキー「ナシメと同じく私は君のことが好きだからだよ。好きな人には信頼がある。」
ふえるマッドサイエンティスト @Greenhelmet
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