善意すぎる親友が心配でついていったら影ボスと呼ばれるアイツに何故か俺が捕まった〜俺を餌付けしても懐くと思うなよ! かげるver.

たかぱし かげる

親友の様子がおかしい

 おかしい。オレはつぶらな瞳をきらりと光らせた。

 どうもマモルの様子がおかしい。

 マモルというのはオレの親友である。

 やつは、とても気のいいやつだ。

 にこにこと笑みを浮かべているし、はにかみながらヒマワリの種を分けてくれる。

 あいつだって育ち盛り。自分で食べたいだろうに。必ずオレに毎日5粒も種を分けてくれるのだ。

 一方的に親切を分けてもらうだけは心苦しい。

 だからオレはせめてマモルに笑ってもらうため、回し車を巧みに回すと見せかけて、足を滑らせて吹っとぶという上級テクニックをたまに披露する。

 マモルはそれを見るといつも楽しそうに笑った。


 しかし、今日のマモルは変なのだ。

 いつも5粒のヒマワリの種が、今日に限ってなんと15粒!

 これはなんとしたことだろう。これではマモルの食べる分が足りなくなってしまうのではないか。

 オレは大人だ。

 ヒマワリの種は好物だが、1,2日食べなくともなんともない。

 マモルは子供だ。

 子供の成長には、あの美味しいヒマワリの種は欠かせない。

 なぜマモルは自分の分までオレにヒマワリの種を分けてしまうのだ。

 なにか深い事情があるのだろうか。

 いや。マモルは、いいやつだ。とてもいいやつなのだ。

 あいつの過ぎた善意が、自己犠牲という間違った形で現れてしまったに違いない。

 これは看過できなかった。

 オレは陶器のなかのヒマワリの種15粒を頬袋に急いでしまった。

 もちろん自分のものにしてしまおうというのではない。

 ちゃんとマモルに返して食べさせるのだ。それまでだれかに盗られたりしないためだった。

 マモルは部屋を出ていこうとしている。やはりおかしい。いつもはもっと遅い時間まで遊んでくれとせがんでくるのに。

 追わねば。追って、過ぎた善意を返してマモルの健やかな成長を守らねばならない。


 オレは全力をかけて重い扉を開いた。

 扉をこんなに重くする必要があるんだろうかといつも思う。不便だ。

 ただ、マモルは不便に思っていないようで、だから気づかないのだろう。そうなれば、大人のオレがガタガタ言うわけにもいかない。

 まあ、普段は特に開ける用事もないし、いざとなれば、こうして開けられないわけでもないのだ。

 開いた扉を抜けて、オレは猛然と走りだした。一直線にマモルを目指す。

 頬袋のヒマワリの種が少し邪魔だ。だが、なんとしてもマモルに食べさせ、元気にしなければならない。

 うまく棚を降りて居間の毛足の長いカーペットを駆け抜ける。

「きゃー!」

 後ろから降り注いだ悲鳴にしまった、と思う。

 この声は影ボス・カアサンだ。

 影ボスは、実はこの世界を支配している、恐ろしい存在である。

 しかも、どうやらオレのことをあまり好きではない。

 面倒な相手だった。

「ちょっと! マモル! 逃げてる! 豆太郎が逃げ出してる!」

 しかもキャーキャーとうるさい。

 驚いたオレはマモルを追うことも忘れてテレビ台の下へ向かって方向転換した。

「逃がさないわよ!!」

 なんの因果か、オレはあっけなく影ボスに捕まった。

 影ボスはオレをむんぎゅと掴む。いったいなぜ影ボスはオレを捕まえるのだ。

 オレはただマモルに大切なヒマワリの種を届けたかっただけだ。

 影ボスは恐ろしいやつだが、マモルを守る気持ちは一緒だと、そうオレは思っていたのだが。違うのか。

「わあ、母さんありがとう」

 目の前にマモルが戻ってきた。オレを影ボスから救い出す。

 こいつの善意には、やはりオレは頭があがらない。目がうるんでつぶらな瞳に拍車がかかりそうだ。

「もう、豆太郎、どうやって出たんだよ」

 それは普通に扉を開けてだ、マモル。

 ところで、お前も立派な大人になるために、ちゃんと自分の分のヒマワリの種は自分で食べろ。

 オレへの気遣いは、無用だ。

 頬袋からヒマワリの種を出して目の前に掲げると、笑ったマモルがおなかをくすぐってきた。

 おいこら、誤魔化すのは止めろ。

「マモル、豆太郎の頬袋がぱんぱんになってるじゃない。おやつのあげ過ぎは駄目だって言ってるでしょ」

「でも母さん。修学旅行に行ってるあいだヒマワリの種やれないんだよ。豆太郎はヒマワリが大好きなんだ」

「しょうがないわね、留守のあいだぐらい、お母さんがくれてやるわよ」

「ありがとう! お願い!」

「帰ったら、また自分でちゃんと世話するのよ」

「うん」

 ひとしきり影ボスと言葉を交わしたマモルが、大事なものをしまうようにオレを家へ戻す。

「豆太郎、いい子にしてるんだよ。逃げないでよ」

 心配いらない。オレは大人だからな。

 それよりヒマワリの種はちゃんと食べろよ。

 マモルに言い聞かせる。マモルはにこにこと嬉しそうに笑っていた。


 その後の二日間、そら恐ろしいことにマモルは姿を表さず、なぜか鬼の形相の影ボスがヒマワリの種を持ってきた。

「……ハムスターなんてネズミじゃない……」

 ぶつくさ言っているが意味が分からない。

 しかしマモルと約束した手前もあり、オレは何食わぬ顔で影ボスからヒマワリの種を受け取った。

 あまつさえ、嬉しそうに回し車を回すサービスもつけた。

 え? ヒマワリの種ほしさに媚うってるんだろうって?

 バカ言うな。オレは餌付けなんかじゃ懐かねえさ。

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